一章 [14/21]
「できることはやった」
そう言う声も、いつもより低く落ち着いて聞こえた。
少女から離した手で額をぬぐい、小机に置いてあったおそらく少女用と思われる水差しから水を飲む。
「だいぶ安定したように見えますね」
王紀がそう労った。
「ま~ね。でもこの子の気、頑固。なかなか思うように操れない。無意識に気をいじられないようにしてんのかなー、ってちょっと思った。この子仙術の心得があるかも」
志閃の声はまだいつもよりも落ち着いている。それだけ、少女の気の乱れを治すのが大変だったのかもしれない。
「目を覚ますぞ」
ずっと少女を監視するように見据えていた飛露が、彼女の気の変化を見てとった。気の流れが活発になったのだ。
それとほとんど同時に、少女がわずかに身じろぎする。
その瞬間には女好き志閃がすでに誰よりも少女に近いところに陣取っていた。
赤覇と泉蝶が両側から彼の腕を掴み、それ以上少女に近づかないようにしているが、ものすごい力で前――少女の方へ行こうとする。
「こいつ、どこにこんな力があるんだよ」
五人の将軍の中で、最も体が大きく筋力もある赤覇が唸った。
「俺の底なしの愛を力に変換してるんだよ~ん」
いつの間にか志閃は元気を取り戻している。先ほどまでの疲労具合は芝居だったのではないか、と思うほどの変わり身の早さだ。
「黙りなさい、変態!」
泉蝶が怒鳴る。
「泉蝶……」
王紀が何度目かのため息をついた。確かに最もうっとうしいのは間違いなく志閃だが、声が大きいのは泉蝶だ。
しかも、彼女の声は高いうえによく響く。目覚めかけている少女が顔をしかめて、やっと泉蝶も自分の声の大きさを思い出した。
はっとして口を押さえるがもう遅い。
「……んッ。うるさ……」
少女の小さな口から、正直な感想が漏れる。
傷の痛みは札で相当やわらげられている。気の乱れも消えた。少女の目覚めは朝起きるのとほとんど変わらないだろう。




