一章 [13/21]
「じゃあさ、触るだけ。指一本でいいから」
「まだ言うの!」
「――泉蝶」
懲りない志閃に怒鳴る泉蝶。それ以外の声に、泉蝶は首をめぐらせた。彼女の名を呼んだのは、五人の将軍の中で最も無口な弓使い――飛露だ。
「触らせてやるが良い。この娘、気が乱れている。秋夕助手も逃げてしまったし、志閃に治させるのが最も確実であろう。腐っても、仙術部隊の長だからな」
「『腐っても』って飛露ひどっ!」
とりあえず志閃は無視して、泉蝶は王紀にも視線を向けた。
「えぇ、志閃や飛露ほどはっきりと感じることはできませんが、彼女の気は乱れていますね」
王紀は泉蝶の問いたいことを正確に察して答えてくれた。
泉蝶は仙術のすべてとも言える「気」を感じることができない。
この中で仙術に最も長けているのは志閃だが、彼の言うことは話半分に聞く必要がある。飛露や王紀からの信頼できる情報が欲しかったのだ。
赤覇は泉蝶同様気を全く感じられない体質なので、泉蝶の視界の端で肩をすくめている。
「わかったわよ。志閃、彼女の気の乱れを治してやりなさい」
「やった!」
志閃は電光石火の速さで少女の手を取り上げた。傷ついていない左手だ。
「変なことしたら許さないわよ」
そうくぎを刺したが、志閃には聞こえているのかいないのか。両目を閉じて集中する彼の顔は、さきほどまでの軽い言葉を吐いていた時とは比べ物にならないほど、落ち着いている。
「まぁ、いざという時は僕たちが気の異常を感じられるので、お教えしますよ」
志閃の邪魔をしないためか、泉蝶の隣までやってきた王紀が耳元で小さく言った。
「志閃はあんな奴だが、こういう時はちゃんとやるだろ」
赤覇も泉蝶の近くでそうささやく。
志閃はいたって静かだった。少女に触れることができて喜ぶでもなく、ただ目を閉じている。
泉蝶には瞑想しているだけにしか見えなかったが、今志閃から流れ出た気が少女の気と交わりゆっくりと彼女の体内を巡っているのだ。
しばらくそうやってお互いの気を循環させた後、志閃は静かに目を開けた。額には淡く汗がにじんでいる。




