一章 [12/21]
泉蝶はそっと仰向けに寝かされた少女をうかがった。まだ体中が熱いが、冷静さは取り戻している。
少女は眉間に小さくしわを寄せ、顔中に淡く汗を浮かべていた。年のころは第一印象と変わらず、十代後半。布団から出された右腕には包帯が巻かれている。わずかに血がにじんでいるが、出血は少なそうだ。
腕以外の怪我も手当てされているのだろう。あたりにはほのかに薬草のにおいが漂っていた。
泉蝶は思い出したように少女の怪我の具合を話した。
腕に獣に噛まれたか引き裂かれたかしたらしい大きな傷があること。それ以外は、川底の岩にぶつけたと思われるあざがあるだけで、大きな傷や骨の異常はないこと。血を流しすぎてはいるが、体をあたためて安静にしていれば命に別状はなく、すぐにある程度は動けるようになることなど――。
「よかったな」
赤覇はそれを聞いて心底安心したように言った。
眠り続ける少女に語りかけるようなやさしい口調に、志閃はあっという間もなく嫉妬した。
「俺は赤覇以上に君のこと心配してるからね! 早く目覚めて元気な顔見せて欲しいな。あ、もしかして異国のおとぎ話みたいに接吻したら――」
「バカ! やめなさい!」
少女の眠る布団に肘をつき、顔を近づけようとする志閃の髪を乱暴に掴んで引き離しながら、泉蝶は叫んだ。
「泉蝶……」
その声の大きさに、王紀が力ない声を出すが、志閃を少女から引き離すのに必死な泉蝶には聞こえていない。
「あ、じゃあさ。泉蝶ちゃんが接吻させてくれる――」
「そんなことしたら、斬るわよ!」
あいかわらずへらへらした志閃と、腰に佩いた刀に手を伸ばして殺気立つ泉蝶。
王紀はいつものほほえみを少しだけ抑えて、その様子を見つめている。さすがにただならない空気を感じているからだろうか。
赤覇はいかにも不快げに顔をしかめて志閃をにらみつけたり、少女に気遣わしげな視線を注いだりと表情豊かだ。
そして、先ほどから全く口を開かない飛露は、眠る少女をじっと見つめている。観察していると表現した方が正確かもしれない。好意や同情はうかがえない。




