一章 [10/21]
「何か悩みがあるのですか? 泉蝶」
王紀はわずかに眉を下げて心配そうな顔を作って見せた。
「たいしたことじゃないわ」
「男性には打ち明けにくい悩みですか?」
「何であんたまで志閃みたいなこと言うのよ! 女の子を拾ったのよっ!」
これ以上誤解されるのも嫌だったので、泉蝶はそう叫んだ。その後どうなるかも考えず。
「女の子? 女の子? 女の子!? 女の子!!」
志閃が嬉しそうに叫びながら異常な速度で迫ってくる。
泉蝶はその顔面に肘を叩きこんで黙らせてから、簡潔に今朝助けた少女の話をした。
話を聞いた後の反応は、四者四様。
「なんでそれを一番に言ってくれなかったの~。俺、飛んで手当てに行ったのに!」
まず、手負いの少女と聞き、すぐさま復活した志閃。
「まさか、廣が送り込んだ刺客ではなかろうな!」
飛露は怪しむ。
「命があってよかったな」
赤覇は少しだけ強面の表情を崩し、王紀は「近隣――特に少女を見つけた渓流より上流の村を中心に、行方不明者が出ていないか調べるよう指示してきましょう」と部下を捜すべく部屋を出ていった。
「俺も――」と部屋を出ていこうとする志閃は、大柄な赤覇に止められる。
「どこに行くつもりだ?」
どすの利いた声でそう尋ねる赤覇。
「え~、そんなのわかりきってるっしょ? 傷つき、流され、心細く病室で俺を待っている女の子に会いに行くのさ」
「お前、正直だな……」
あきれつつも、赤覇は志閃を引き留める手を緩めない。
「でさ、泉蝶ちゃん」
未だに全力で赤覇の腕を振りほどき病室に向かおうとしながら、志閃は首だけ泉蝶に向けた。ひどくまじめな顔をしている。
「なによ?」
彼にならって、泉蝶も気を引き締めた。
「女の子、かわいい?」
「…………ッ!」
まじめな顔で、そんなくだらないことを聞くのかこいつは――。
「病室には王紀が帰ってきてから行きましょう」
声だけは他の将軍向けに落ち着いて。しかし、動作は鬼神のような荒々しさで。
今度こそ志閃の頭に硬い剣の鞘が振り下ろされた。




