七章 [11]
「……あなたの謹慎はいつになったら解けるのかしら?」
泉蝶の口調はひどく弱気だ。
「妖舜にもわからないらしいからねぇ……。こう見えて、俺も早く戻りたいのよ?」
志閃は泉蝶の様子を窺うように語尾を上げて言った。
「早く戻ってきてくれたら、私もうれしいわ」
そうすれば、妖舜に頼まれた嫌なことも実行しなくて済む。志閃がいてくれれば、戦力的に大きい上に、今の禁軍全体を覆う暗い雰囲気も幾分ましになるかもしれない。
「人手不足だもんね。ごめんね。俺が不甲斐ないばっかりにこんなことになっちゃって」
志閃が申し訳なさそうな顔をした。彼の手が泉蝶の頭に伸びる。
「あたしはあなたのせいじゃないと思っているわ」
頭をなでようとした志閃の手をいつもの調子で払いながらも、泉蝶の口調はやさしい。
「そっか。ありがとう。よし、それじゃ、謹慎中で暇を持て余してる索冥軍将軍が、姫将軍のお悩みを聞いてあげるよ」
わざと茶化すように言うことで、志閃は泉蝶が相談しやすい雰囲気を作ろうとしてくれているようだ。
ぽつりぽつりと、泉蝶は最近あったこと、不安に思っていることを志閃に打ち明けた。
前線から戻ってきた王紀や仙術部隊の志閃の副官宗剛の話。多くを戦場に派遣され、王宮に努める禁軍の兵士が減ってしまったこと。飛露の泉蝶にすら明かせない特殊任務のこと。妖舜から聞いた龍穴の話。あまり未来を語らなくなった妖舜の態度――。
ただの愚痴もあったが、志閃は時々相槌を打ちながら、全部聞いてくれてた。さすがに女性好きなだけあって、話を聞くのがうまい。もう少し相談しにくいものと思っていた泉蝶だったが、予想外にすらすら喋れた。
「禁軍のためにがんばってくれて、ありがとね」
すべて話し終わって、紅茶でのどを潤す泉蝶を志閃はまずねぎらった。
「すっごく大変な時なのに、経験豊富な俺も飛露もそばにいてあげられなくて、本当にごめんね」
以前の飛露と同じようなことを言っている。そして、穏やかな口調はそのままで、いくつか助言をくれた。
「俺は飛露とも妖舜とも長い付き合いだから、あいつらの考えは何となくわかる。まず、妖舜のことから話してもいい?」
「かまわないわ」
いつもより抑揚の少ない、落ち着いた声で話す志閃に、泉蝶は深くうなずいた。
「妖舜って占いの技術は本当にすごいんだけど、マジで戦えない人間なんだよね。もともと戦闘向きじゃないってことと、未来が見えるってことが合わさって、戦うことにはすごく後ろ向き。正面から戦えば負けちゃうけど、奇策を凝らせば圧勝できるって未来が分かってたら、絶対勝てる方を選ぶっしょ? 妖舜はそうやって占いだけで勝ち上がってきたやつなんだ。すごいやつなんだよ? あいつについていれば、ほぼ確実に負けないからね」
長い間、志閃は妖舜とつるんでありとあらゆる「勝ち」を得てきたのだろう。彼の言動からそう察せた。
「ただ、それだけ強い占い師って、今みたいな戦時中になると敵から狙われちゃうんだよね。占い師に作戦を読み取られたり、先回りされたりすると困るから。だから、妖舜はわざと見えた未来を黙っておくことで、無能な『価値のない占い師』を演じてるんだと思う。『保身に走ってる』とか思っちゃだめよ? いや、確かに保身なんだけど、妖舜が生きてくれないと俺たちみんなやばいから」
「でも、裏を返せば、妖舜はそれだけ敵の核心に迫る情報を持っているってことなのね」
それが分かれば一気に勝機が近づくかもしれないのに、それを話さない妖舜にはやはり納得できない。
「まだ核心に迫りつつある段階だろうね。本当に勝てる情報を得たら教えてくれるはずだよ」
しかし、志閃は妖舜を信じているようだ。
「今の妖舜は見えないところで敵と追いかけっこをしている状態なんだ。どこにいるかわからない廣の間者に見つかる前に、向こうの計画を全部明かして完全に叩き潰せるよう準備してくれてるんだよ。妖舜は戦えないから、間者に見つかった瞬間に負けちゃう。だから、少しでも長く逃げ切るために、泉蝶ちゃんや味方さえも欺く必要があるんだ」
「言ってくれれば、護衛をつけるのに……」
納得できない泉蝶の口から、そんな言葉が漏れた。
「そだね。でも、今の禁軍にそんな余裕ないじゃん? それに、護衛をつけちゃったら、敵に『こいつは大事な情報持ってます』ってばらすようなもんだし。そっちの方が危ないって妖舜は判断したんじゃないかな。女癖は悪いけど、賢くて、器用で、良いやつだよ」
志閃は妖舜の話をそんな言葉で締めくくった。




