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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
七章 蓮の使いと虹の空
122/143

七章 [6]

 

  * * *


 一方の妖舜(ようしゅん)は見たくなかった未来に内心で頭を抱えていた。

 碧龍宮(へきりゅうきゅう)を出て、泉蝶(せんちょう)とともに禁軍拠点へ向かっているが、頭の中ではいろいろな可能性が渦巻いている。


「やけに静かね」


 泉蝶が振り返っていぶかしげに首をかしげる。妖舜は長い前髪越しに彼女を見た。どこまで教えるべきだろうか。


「あえて見ないようにしていた嫌な未来を見てな。ただ、あまり詳しくは答えられない。悪いな」


「あなたも隠し事をするのね」


 泉蝶は大きなため息をついた。飛露(とびつゆ)も妖舜も、泉蝶が頼りにしていると思った人々は重要なことを話してくれない。


「良い未来を導くために必要なんだ。本当にすまない」


 そう言いつつも、気に敏感な妖舜は、泉蝶の心が疑心に染まっていくのをはっきりと感じ取った。


「だが、ある程度語るのは重要か……」


 このままでは悪い未来が近づいてしまう。そう思った妖舜は先ほど得た情報のいくつかを泉蝶に渡すことに決めた。


「……飛露将軍の言う『極秘任務』と言うのは、ひどく大変なものらしい。あの人は弱さを見せたがらない人だから隠していたが、気がひどく乱れていた。内容までは分からないが、あの白づくめの奴らとつるんで、何か大きなことをやっているようだな」


「他の禁軍兵士や将軍にさえ内緒でそんな重大なことをやってるなんて、本当に嫌な感じね」


 泉蝶の口からそんな愚痴が漏れた。


「そうだな」


 泉蝶の乱れた感情に寄り添うために、妖舜も同意する。


「飛露と一緒にいた彼らは誰なのかしら?」


 目深にかぶった頭巾のせいで、顔が見えなかった。


「後ろにいた白づくめのうち、背が高い方は先雲(せんうん)皇子殿下だった」


「まさか」


 飛露が桃源国の第三皇子を後ろに従えて行動しているなど、普通なら考えられない。帝に(あつ)い忠誠を誓う飛露は、その子どもである皇子たちにも最上級の敬意をもって接するのが常だ。


「俺も疑ったが、気の感触からして間違いない」


 彼らの白い装束には、強い守りの術が込められているようだった。それが衣装をまとう者の気を読み取りにくくしている。それでも、視認できる距離で相手の正体を見誤ることはない。


「ただ、女の方はおそらく初対面だな。変わった気をしていたが心当たりがない」


「背が低い方は女性だったのね」


「それは間違いない。木属性の野ばらみたいなとげとげした気の女性だ。俺の好みじゃないな」


「好みかどうかは聞いてないわよ」


 泉蝶の声が少し冷ややかになった。彼女にこういう冗談は通じないようだ。


「飛露将軍は彼らのほかにあと数人とつるんでいるようだが、守りが固くて正体は分からなかった。碧龍宮にいるということは陛下のお墨付きがある者たちだろう。……飛露将軍はおそばで陛下をお守りするよう命じられて、碧龍宮に上がったんだったよな?」


「あたしはそう聞いていたわ」


 しかし、飛露の「極秘任務」と言う単語を聞くと、実際は違うように感じられる。


「あたしたちに嘘をついてまで、その極秘任務とやらのために飛露を呼び出したの?」


「俺はそう思っている。よく考えれば、俺が未来を見にくくなったのは、飛露将軍が碧龍宮に呼ばれた後からだ。極秘任務と何か関係があるのかもしれない」


 占い師はもう一度碧龍宮のある方へ目を向けた。先ほどまでは見えなかった未来が見える。しかし、この未来は口にするべきではない。少なくとも、今はまだ。


「泉蝶姫将軍は、飛露将軍を信じるか?」


「それは……、そうね。あなたも他の将軍を信じるよう言っていたし」


 泉蝶の知らないところで何かをしている点にはいらだちを覚えるが、飛露たちの行動は桃源のためになるもののはずだ。


「そうだな」


 妖舜は陰のある笑みを浮かべた。不安や疑心に心を揺らしながらも、芯の部分で仲間を信じ続ける泉蝶は強い。彼女になら、妖舜も信頼して背中と情報を預けられそうだ。


「姫将軍、もしよかったら、俺の頼みを聞いてもらえないか?」


「……いいわよ」


 泉蝶はうなずいた。


「助かる」


 まず妖舜は、札入れから一枚の地図を取り出すとそれを泉蝶に差し出した。必要になる気がして、今朝準備しておいたものだ。


「一つ目に、今日このあと、志閃(しせん)に会いに行ってやってくれないか? 志閃の家までの地図は渡しておく。あいつなら、姫将軍の疑問に全部答えてくれるだろう」


「わかったわ」


 泉蝶は素直に地図を受け取った。

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