表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
七章 蓮の使いと虹の空
120/143

七章 [4]

「……なによ?」


 じっくりとこちらを見てくる妖舜(ようしゅん)に、泉蝶(せんちょう)は尖った声で尋ねた。真剣な顔で見つめられて、ひどく居心地が悪い。


「……悪い。少し姫将軍の未来を見ていた」


 泉蝶は戦闘力的にはやや足りない部分があるが、精神的な強さは他の将軍に劣らない。しかも、飛露(とびつゆ)王紀(おうき)のような「やさしさ」「愛情」と言った心の弱点となる部分を封じることで得た強さではなく、弱点をさらけ出した上での柔軟な強さだ。これは、彼女の重要な武器になる。


「以前、俺は『姫将軍は未来の重要な局面にいない』と言ったが、実は良い未来に一番貢献しているのは姫将軍なのかもな」


「縁の下の力持ちってことかしら?」


 泉蝶は首を傾げた。


「そんな感じだ」


 妖舜はいたずらっぽい笑みを浮かべた。女性受けする表情のはずだが、泉蝶がそれに食いつく様子はない。


「……鈍感系女戦士を落とすのは大変みたいだな」


 そんなつぶやきが妖舜の口から()れた。


「何か言ったかしら?」


 妖舜のつぶやきは十分小さかったはずなので、内容は泉蝶に聞こえていないはずだ。しかし、言葉にこもる皮肉な雰囲気は感じ取ったのだろう。泉蝶の問いは尖っていた。


「ここにはいない奴に向けた言葉だ」


 妖舜は肩をすくめて片手をひらひら振ってみせた。


「大体見て回ったから、そろそろ禁軍拠点に戻るか?」


 そして、これ以上泉蝶の不評を買わないために、話題を変える。


「まだ後宮と碧龍宮(へきりゅうきゅう)を見ていないと思うけれど」


 泉蝶は宮殿の最奥を指さした。


「後宮は良く知った場所だから、ここから見ただけでもいろいろなことが手に取るようにわかる」


 妖舜は背の高い塀や生垣に囲まれた後宮の方を眺めながら答えた。

「色事占師」の異名を持つ妖舜が「後宮はよく知った場所」と言うことに、何となく不安を感じるが、泉蝶は何も言わないでおいた。


「碧龍宮の方は、俺の身分じゃ気楽に入れなくてだな……。戦闘力皆無の俺は、兵士としての位は低いし、帝と親しいわけでもない」


 帝の居城である碧龍宮に入れるのは、本当にごくごく一握りの人々だけなのだ。


「あたしが入れてあげましょうか?」


 しかし、泉蝶はその一握りの選ばれた人間だ。彼女が率いる聳孤(しょうこ)軍は、最も帝に近い位置を守る護衛部隊。後宮や碧龍宮、謁見の間の警固が主な職務で、聳孤軍将軍の泉蝶には碧龍宮への立ち入りも許可されている。

 それでも、帝の私的空間に不必要に立ち入るのは不敬なので、仕事以外で碧龍宮へ入ることはめったにないが。


「いいのか?」


「本当はあまりよくないんでしょうけど、陛下やその周りの人々の邪魔をしなければ、許されるはずよ。ちょうど飛露の様子も気になり始めたころだし」


 将軍と言う立場を利用して、一週間前から碧龍宮に住み込んでいる同僚を尋ねるという名目で碧龍宮に入れば問題ないだろう。


「飛露将軍に会おうとすれば、将軍が警護している陛下の目に触れてしまいそうだが――」


 懸念事項を口にしつつ、妖舜は碧龍宮の方を見た。龍穴から湧きだす気が近すぎるせいで感じ取りにくいが、良く見知った飛露の気だけは判別をつけられた。彼の周りには他にも何人かいるようだが、帝の気配ではなさそうだ。見慣れない気だ。


「じゃあ、碧龍宮に入るのはやめておいたほうがいいかしら?」


「……いや、せっかくだ。中に入れてもらえるなら、助かる」


 妖舜はあたりの気に細心の注意を払いながら答えた。碧龍宮の人員は入れ替わりが少ない。飛露の周りに感じる馴染みのない気の正体を確認したい。


「任せなさい」


 泉蝶はそう言って、碧龍宮の裏門へ向かった。使用人たちが食べ物や生活用品を搬入するための場所で、碧龍宮を守る兵士の出入りにも使われる。泉蝶には使い慣れた門だ。その性質上、帝やその客人が絶対に立ち入らない点もありがたい。


「陛下にお仕えしている飛露将軍に会いに来たの」と泉蝶が言えば、すんなりと入ることができた。


 今日の昼餉(ひるげ)や午後の菓子、夕食の準備に追われる使用人たちの邪魔をしないように、足早に門とその先の厨房区画を抜ける。


「さすがだな」


 人気(ひとけ)の少ない場所まで来たところで妖舜が口を開いた。


「でも長居はできないわ。何か見えるかしら?」


 泉蝶は碧龍宮の奥へと歩きながら尋ねた。碧龍宮は使用人の通路と帝の使う廊下が分けられているので、使用人通路を使っている限り帝と鉢合わせすることはない。


「いや……。気になるような未来は見えないな。この辺りは龍穴に近すぎて気の流れが複雑だ。見えて、せいぜい五日先、と言ったところか。ただ、少なくとも、五日はこの平穏が続くと分かっただけでも良かった。碧龍宮の間取りや雰囲気が大まかにわかるのもありがたい。これからは外観を見ただけでも、ある程度の未来が読めそうだ」


「収穫があったみたいでよかったわ」


 泉蝶はうなずく。


「さて、飛露は陛下のお部屋の方かしらね」


「向こうか」


 妖舜は飛露の気を感じる方向を指さした。


「そちらは陛下の寝室がある方ね。昼間はもっと朝廷よりの執務室にいらっしゃるはずだけれど……」


「陛下の気は感じないが、飛露将軍の気が向こうにある」


 飛露の周りにあるいくつかの気も変わらず同じ場所にある。飛露以外に五つ。しかし、そのどれもが感じ取りにくい。何か、膜や殻のようなもので守られている印象だ。


「じゃあ、そちらに向かいましょう」


 使用人通路を歩く泉蝶に迷いはない。歩きなれた場所なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ