一章 [9/21]
「ぐ……」
志閃に言い返された飛露は、次の言葉が思いつかないのかそのまま押し黙ってしまった。
「あなたの忠誠心にはいつも驚かされます。もう反射の域ですよね」
にこやかに言う王紀は称賛しているのか、皮肉っているのか。きっと後者だろう。
「いいから話を続けなさい」
飛露の額に青筋が浮かぶのを見て、泉蝶は厳しい口調で脱線していた話を戻した。
「前線の状態を報告していたんでしょう?」
「そうでした」
やはりきれいな笑みを崩さずにうなずく王紀。その笑みのせいでまったく内心が読めない。
「まぁ、そんなに毎日毎日新しい情報が来るわけでもありませんし、さっきまでで僕が得た情報はほとんど出尽くしていますけどね。あとは、廣の術師が使っていた術を書きとめたものが届きましたので、仙術部隊の鳥の巣頭将軍に」
王紀は紙の束を癖毛の志閃に押し付けた。「王紀、さっきから俺のことバカにしてね? 俺、年上よ?」という文句を無視して。
「戦についてはとりあえず以上です。しばらくの間は禁軍に出兵命令が下ることはなさそうですし、普段通りにやっていきましょう」
そして帝の予定と照らし合わせながら、仕事の分担を確認し合う。
今日は午後に軍部の高官との謁見があるので、それに合わせて巡回の人数や経路を変更した。
「これでいいですか?」
最後に、まとめ役の王紀が他の将軍たちに確認をとった。
「良い」
「だいじょぶ」
「問題ねぇと思うぜ」
弓部隊の飛露、仙術部隊の志閃、歩兵部隊の赤覇。それぞれがうなずく。
「泉蝶もいいですか?」
唯一無言だった泉蝶に、王紀は念を押した。
「え? あ、大丈夫よ」
「考えごと~?」
慌てて返事をした泉蝶に身を乗り出して尋ねたのは志閃だ。
「何考えてんの~? なんか表情的に帝や戦の事じゃなさそうだけど」
「なんでそう言えるのよ?」
確かに泉蝶は考え事をしていた。今朝助けた子はもう目覚めただろうか、と。
「泉蝶ちゃんが帝のこと話す時は、超まじめ。戦のこと話すときは、眉間にかわいくないしわ寄せて怒った感じ。でも、さっきの泉蝶ちゃんは心配そうな顔してた。俺、女の子の顔はよ~く見てるんだぜっ! まさか、こぃ――」
「黙りなさい!」
この場合、志閃の「まさか」の後にはどうせくだらない言葉が続く。泉蝶は早々に志閃の言葉をさえぎった。
志閃が近くにいたらもう一度頭を――今度は剣の鞘で殴ってやりたいところだが、少し距離がある。




