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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
六章 消えた蓮と救世主
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六章 [16]

 帝はにこやかに残りの二人を紹介していく。


 ひとりは飛露(とびつゆ)と面識がある。帝の息子の一人、第三皇子の先雲(せんうん)。「仙」と同音の字である「先」はこの国の帝一族に受け継がれる姓だ。


 もう一人も「先」姓を持つ高貴な一族。先華怜(せんかれん)。ずっと山奥の洞穴で仙女の修業をしていた彼女を、国の危機と言うことで呼び寄せたそうだ。帝の姉だというが、長年の修行により見た目の年齢は帝より若い。白髪は多いものの、顔にしわはなく、三十代と言われても信じてしまいそうだ。


 長春仙(ちょうしゅうせん)の素性を知るのは、ここにいる人々とこの庭を守る兵士のみだ。名目上は、六十年ぶりに帝都――源京(げんきょう)に戻ってきた先華怜の世話係として先雲、泉子豪(せんしごう)玉麗燐(ぎょくれいりん)、華怜が修業中に出会った村娘と言う設定の長春仙の四人が碧龍宮にいることになっているらしい。そして今日からは飛露もそれに加わる。


「ですから、人前では私のことは気兼ねなく『長春』とお呼びくださいね」


「承知いたしました」


「あ、ダメですよ、飛露将軍。将軍は華怜様護衛隊の(おさ)ですから、私にも普段部下に接するように話していただかなくては」


 真面目な顔でうなずいた飛露に、長春仙は茶化すような口調で注意する。


「……承知いたしました」


 しかし、飛露の堅さは変わらない。


「私の言ったこと、伝わりましたか?」


 長春仙が不安そうに尋ねるのも無理はない。


「もちろんでございます。しかし、この場所には長春仙様のことを存じ上げている者しかおりませんので、相応の礼を尽くさせていただきます」


 飛露は自分の右こぶしを左手で包み込む拱手(きょうしゅ)の礼をした。帝が長春仙に対して敬意を払っているにもかかわらず、彼に仕えている自分が長春仙に気安く話すなどあってはならないことだ。


「噂の通り本当に真面目な方なんですね」


 長春仙はくすくす笑っている。彼女の纏う気も穏やかになり、薔薇の芳香がほのかに香った。誰がそんな噂を流したのかと、飛露が辺りを見ると、周りの面々も楽しげに笑みを浮かべていた。


「ここにはお前の堅さに委縮する者はいないようだな」


 帝はおもしろがるように言って、飛露の胸を肘で小突いた。


「お戯れはやめてください」


「ほらこれだ」


 腹を抱えて笑う帝。久しぶりに彼の笑い声を聞いた気がして、飛露の口元にも笑みが浮かんだ。

 救世主を得たことで、戦に光明が見えた。これから戦況は好転し、良い未来が訪れるのだろう。飛露はそう思った。


「では、わたしと白伝(はくでん)は接見の予定があるゆえ、そちらに向かう。あとのことは飛露、お前にすべて任せる」


「はっ! かしこまりました!!」


 白伝を連れて祠の間を出て行こうとする帝に、飛露は深く頭を下げた。長春仙以外の人々も飛露に倣っている。長春仙だけは、「がんばってくださいね!」と満面の笑顔で手を振った。丁寧な物腰ではあるが、彼女に桃源国の序列はあまり関係ないようだ。


「やっと頼もしい護衛官を得られました」


 帝と占い師を見送った後、長春仙は飛露に話しかけた。


「この町を守る龍穴を強化するために、王宮の外に出る必要があるのです。まだこの祠でやるべきことがたくさんあるのですぐにではありませんが、外に連れて出ていただけますか?」


「どうしても必要なことなのですね?」


 飛露は確認した。どこに(こう)の間者がうろついているかわからない源京に大切な救世主を連れて出るのは不安だ。必要ないならば避けたいが……。


「はい。絶対に必要です」


 しかし長春仙は強い口調で言い切った。それならば飛露の答えは一つだ。


「そういうことならばもちろんお連れ致します。ただ、いくつか準備が必要になりますので、お出かけになりたい際はできるだけお早めにお申し付けください」


 飛露は帝相手にするのと変わらない、最上級の礼をした。

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