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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
六章 消えた蓮と救世主
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六章 [14]

 帝は笑顔でうなずくと、白ずくめの二人に小さく手を振って合図した。


「自己紹介が必要であろう?」


 二人が白い頭巾を取った。中年の男と女。二人とも見覚えはない。少なくとも禁軍の兵士や著名な軍人ではなさそうだ。


「西方元帥のはとこ、泉子豪(せんしごう)です」


 中年男性が先に自己紹介をした。西方元帥と言えば、国境西側の警固を行っている軍の頂点。そして、泉蝶(せんちょう)の父親でもある。彼女の親類らしい。


「泉蝶姫将軍にはいつも世話になっておる」


 飛露(とびつゆ)は彼と握手を交わしながら言った。子豪の纏う気は落ち着いていて強い。彼は泉蝶と違って気を感じ取れる術師のようだ。


玉麗燐(ぎょくれいりん)ですわ。いつも息子がご迷惑をかけて申し訳ありません」


 女性の方もほっそりした白い手を差し出してきた。彼女の名前に覚えはなかったが、「息子」という単語と、金茶色のたれ目から予想がつく。


貴女(あなた)志閃(しせん)の――」


「母です」


 いたずらっぽく笑う顔には、志閃と似たものを感じる。


「私がここにいること、閃には内緒ですよ。あの子は心配性だから」


 この長春仙(ちょうしゅんせん)護衛任務が極秘中の極秘だということは分かるが、禁軍将軍の息子にすら知らされていないのか。陛下の判断に異を唱えるつもりはないが、飛露は不遇な同僚のために目を細めた。


「長春仙様とあとの二人はこの先にいる」


 帝はゆっくりと庭を横切った。その後ろに飛露が並び、さらに後ろを白伝と残りの二人がついてくる。


 庭を囲む高い壁には小さな木戸があった。

 木戸の横には護衛部隊の老爺が座っている。髪も髭も白く伸び放題で、ボロを纏った体はピクリとも動かない。しかし、彼の纏う気は大きく重く威圧感があった。年老いてはいるが、強い術師だ。彼とは戦いたくないと飛露は思った。


 次に老爺が守っている扉の先に意識を向ける。濃い気を感じた。このあたりの気も濃いが、その先はさらに濃度が高そうだ。帝都――源京(げんきょう)を覆う五色の気は、宮殿の最奥から湧いている。つまり――。


 帝は木戸を開けた。


 その先には草花が茂る空間と、中央に小さな祠。小さくても作りは繊細で優美。宮殿内のどこよりも細かく細工が施され、たくさんの術具で飾られている。そして、その祠からはとめどなく気が湧いていた。


「…………!」


 この国の中心。桃源国を守る気が湧きだす龍穴だ。飛露は初めて見る光の柱に足を止めた。これ以上近づくのは恐れ多い気がしたのだ。


「大丈夫ですか?」


 飛露の背に白伝の手が触れた。彼に押されるように、飛露の足が再び動き出す。


 その間にも帝は龍穴を守る祠へと進んでいた。いや、その前に立つ人々へ、か。

 先ほど紹介された二人と同じ白ずくめのいでたちをした者が三人。真ん中のひとりだけは頭巾をかぶっていない。二十歳すぎほどの女性で、巨大な狼が二匹、その後ろでくつろいでいた。彼女が「救世主」長春仙だろう。


「長春仙様、昨日(さくじつ)お話しした禁軍の飛露将軍を連れてまいりました」


 帝が敬語を使うところを久しぶりに見た。それだけ彼女は桃源にとって大切な存在なのだ。


「よろしくお願いいたします」


 飛露は彼女から十メートルほど離れた場所で深々と頭を下げた。


「長春仙ですわ」


 大きな狼を従えた女性は、飛露にすり足で歩み寄ってくる。


「顔を上げてくださいな」


 飛露は長春仙の言葉に従った。手を伸ばせば触れられそうな距離に女仙が立っている。

 つややかな直髪はカラスの濡れ羽色。頭には一輪の花が()してある。五枚の外が赤く内が白い花弁。円形に近い花弁は少ない枚数でも存在感が強く、彼女の黒髪に美しい色どりを加えていた。野ばらの一種だろうと飛露はその花の形から検討をつけた。


 彼女の纏う気もバラのように高貴で尖ったもの。花の美しさに惹かれるが、不用意に近づけば、とげでけがをしてしまいそうだ。仙と名乗るだけあって、その気は大きく、護衛など必要なさそうに感じられた。


 あでやかな笑みを浮かべた女仙は、さらに一歩飛露に歩み寄ると、彼のほほを両手で挟み込んだ。底の厚い履物を履いているのか、お互いの視線はわずかに長春仙が低いだけだ。

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