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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
六章 消えた蓮と救世主
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六章 [12]

 

  * * *


 翌朝、飛露(とびつゆ)は宮殿の最奥にある帝の住まう居城――碧龍宮(へきりゅうきゅう)で目覚めた。


 昨日、義明(ぎめい)をはじめとする部下に多くの指示を出したあと、飛露は荷物をまとめて碧龍宮に居を移していた。この宮殿には、帝を守る軍である禁軍の兵士が寝泊まりできる部屋がいくつかある。帝には「翌朝」と言われたが、はやる気持ちが抑えられなかったのだ。


 急いで帝と謁見するための身支度を整えながら、飛露はいくつか考え事をした。


 まず、謹慎を言い渡された志閃(しせん)のこと。

 昨日禁軍拠点を出る前にあたりの気を確認した際、彼の気配は感じられなかった。すでに王宮を出ていたのだろう。謁見の間での彼の様子から、さらに何かひと悶着起こす可能性を危惧していたが、そうならなくて安堵した。


 今日から常に帝のそばにいることになる飛露は、状況を見つつ、志閃の謹慎を解いてもらえるよう働きかけるつもりだ。志閃は副官に索冥(さくめい)軍をまとめさせるよう言ったが、志閃がいないと仙術部隊はもちろん、禁軍自体もまとまらない。


 彼は腹が立つほど気楽だが、それが若い隊員にとっては親しみやすさと映るらしい。

 多くの軍は非常時の連携を円滑に行うために、常日頃から上下関係を重視し、規律だった行動を要求される。しかし、仙術使いの場合は違う。


 術師の能力は千差万別。それぞれの力を引き出すには、枠にはめず、各々が最も活動しやすい条件を整えなくてはならない。ある程度定石がある武術よりも仙術の戦法は多様だ。その自由さを与えるにも、志閃の奔放なやり方はあっている。まじめで厳しい飛露には到底真似できない。


 ――それは陛下も理解されていると思っていたが……。


 敬愛する帝を批判しそうになって、飛露は慌てて首を横に振ってこの思考を打ち切った。


 次に考えるのは、水蓮(すいれん)のこと。


 周賢(しゅうけん)の気の乱れを見事な手腕で治した後、消息がつかめない。彼女の気は独特なので探しやすいはずなのだが、何度探しても、彼女の気配は感じられなかった。

 宮殿から出たのだろうか。しかしどうやって? いくら人が減って宮殿の警固が薄くなっているとはいえ、城門や城壁の監視には手を抜いていない。


 そもそも、水蓮はなぜ周賢を助けた? 彼女が黒幕ではなかったのか。

 彼女がかつて帝が見たという夢の救世主なら嘘をつく必要などない。志閃の「救世主か?」と尋ねる問いにも首を横に振った。あの時の彼女の気は嘘をついているようにはなかった。


 ――周賢にかけた術を自分で解く利点は何だ?


 答えはすぐに出る。


 術師は既製の術式を使う者と、自分自身で作った術を使う者の二種類がいる。前者の利点は手軽に扱えること。欠点は良く知られた術なので、解除が容易なことだ。逆に後者は術の準備に手間がかかるものの、容易に解除できない。

 周賢を操った術は確実に後者だ。水蓮自ら周賢の術を解除することで、秋夕(しゅうゆう)や他の者に解除法を研究させるのを防いだ。彼女自身が術をかけたのならば、あの短時間で周賢を治すのも簡単だ。


 ――強敵だな。


 身支度を整え終わった飛露は、寝台に立てかけていた弓と矢筒を装備した。眉間のしわがいつもより深いのは、彼の脳裏を駆け巡る思考のせいだ。


 水蓮の気は大きい。術師の強さは気の量と比例する。

 その上、角端(かくたん)軍にいた時の彼女からは、まったく害意を感じられなかった。水蓮が本当に禁軍兵士を操っていたのなら、そのそぶりを微塵も感じさせなかった彼女は大きな脅威だ。人を騙し、意のままに操ることに特化した敵国の少女に勝てるだろうか。いや、勝たなくてはならないのだ。陛下とこの国のために。


 決意を新たにした飛露は、勇ましい足取りで帝のもとへ向かった。

 当初の謁見予定場所は謁見の間だったが、彼が前日に碧龍宮入りしたことで変更されている。


 碧龍宮をさらに奥へ。


 宮殿内では身なりの良い使用人たちが、常に居心地の良い空間を作り出すために働いている。

 禁軍の兵士たちも時々見えた。多くは泉蝶(せんちょう)の護衛部隊と志閃の仙術部隊に属する者たちだ。碧龍宮勤務の兵士は住み込みになることが多く、交代もあまりないので、彼らのことはあまり知らない。ただ、帝の親族や高名な貴族出身の身元が明らかな者たちであることは間違いない。

 万が一にも帝に危害を加える者が居城に侵入しないようにと配慮された人選だが、出自優先で選ばれた彼らの中には、武人としての能力に乏しい者もいる。だから、飛露が呼ばれたのかもしれない。

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