六章 [11]
「あ……」
妖舜の言葉に、泉蝶は小さく声を上げた。ふと気になることができてしまったのだ。
「何でも聞け」
すでに泉蝶の内心を察しているらしき妖舜がそう促す。
「あなたの占いで、志閃がいつ頃戻ってくるかわからないのかしら……?」
「気になるのか?」
「た、他意はないわよ! あいつは強い軍人だから、早く帰ってきてくれれば、禁軍としても国としてもありがたいと思っただけよ!」
興味深げに口の端を上げた妖舜に、泉蝶はなぜか両手をばたつかせて答えてしまった。彼女の様子に、妖舜は一層笑みを深めている。
「そのニヤニヤ笑いをやめなさい! 職務で聞いてるだけよ!」
泉蝶は危うく妖舜に殴りかかりそうになったが、彼が戦えない人間であることを思い出して踏みとどまった。
「もちろんそうだろう」
妖舜はあっという間に笑みを引っ込めた。
真面目な顔でつるりとしたあごに手を当て、視線を宙にさまよわせる。仙術部隊の宿舎最上階にある志閃の部屋をしばらく眺め、城門の方向や窓の外から見える空にも目を向ける。
「志閃はもう宮殿を出たんだな。素早いやつだ」
今の志閃の状況を告げ、妖舜はさらに周りの気を確認した。その目は徐々に細まり、眉間にしわが寄っていく。
「……しばらくはかかりそうだな」
最終的に、妖舜はそう答えた。先ほどよりも低められた声は不満の表れだろう。彼も志閃には早く戻ってきてほしいのだ。
「だが、帝都や俺たちが一番危ない時にはすでに戻ってきている。……可能性が高い」
「……不確かなのね」
「悪いな。志閃みたいな強い気を持つ奴の未来は見にくいんだ」
「知ってるわ」
そううなずいて泉蝶はもう一つ思い出した。
「あなた、あたしに時間があるときに志閃に会いに行くよう言ってたけど、それって志閃が禁軍に復帰する早さに関係があるのかしら?」
「姫将軍の言動次第だが、影響は大いにありえる。志閃の帰還時期は、泉蝶姫将軍と飛露将軍の働き具合におおむね比例しているようだ」
妖舜は真面目な顔でうなずいた。
「だが急いで志閃に会いに行く必要はない。姫将軍に時間ができて、志閃に会いたくなった瞬間。それが最良の時期だ」
「……わかったわ」
あの女の敵のような軽い男に会いたくなる瞬間が来るのか疑問だが……。泉蝶は内心で首を傾げた。
「…………。義明が姫将軍を探し始めたな」
妖舜は泉蝶の内心を知ってか知らずか、志閃の話を切り上げた。彼の視線は弓部隊の兵舎がある方に向いている。きっと彼にだけ見えるものがあるのだろう。
「何かあれば言づけてくれ。と言いたいところだが、姫将軍が俺に急ぎで何かを伝えたくなることはなさそうだな……。これからはよく顔を合わせることになりそうだし」
そう言って、妖舜は最後に片手を差し出した。泉蝶は無言でそれを握り返す。
妖舜の手のひらはまったく剣を振ったことがないのか、貴族の姫君のようなやわらかさだ。ただ、大きさは成人男性のものなので、ものすごく手の大きな女性と握手したような変わった気分になった。
「これからよろしくな」
妖舜は涼しげな美顔に、女性が好みそうなはかなげな笑みを浮かべている。
「こちらこそ」
しかし、泉蝶はその表情に何も感じることなく、力強くうなずいた。




