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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
六章 消えた蓮と救世主
110/143

六章 [10]

「そうだな……。あとは――、他の禁軍将軍を信じること、くらいか」


「いつも信じてるわ」


 共に仕事をしているのだ。信頼していないわけがない。


「そうか? もしかしたら、信頼が揺らぎかねない出来事が起こるかもしれない。それでも、信じてやってくれ」


 占い師が「起こるかもしれない」と言った時は、その起こりうる未来がすでに見えている。


「わ、わかったわ」


 なにが起こるのか、皆目見当がつかないが、泉蝶(せんちょう)は深くうなずいた。


志閃(しせん)がふざけているように見えても、飛露(とびつゆ)将軍が陛下のために味方を犠牲にするようなやり方をしても、王紀(おうき)将軍が何を考えているのかわからなくても、赤覇(せきは)将軍が――……。いや、赤覇将軍だけはまっすぐで誠実で、信頼が揺らぐことはないか」


 泉蝶はもう一度うなずく。唇を引き結んで、まじめな顔をしてだ。


「あと、姫将軍は気を感じ取れないらしいが、それを気負う必要もない。姫将軍がいるだけで強くなるやつもいる」


「……言っている意味が良くわからないわ」


 気を扱えないことをいつも悩んでいる泉蝶を励まそうとしたが、いい言葉が浮かばなかったのだろうか。泉蝶は軽く首を傾げた。


「いつか分かる日が来る」


 妖舜(ようしゅん)はそうごまかしたように見えた。


「ほら、他に占い師に聞きたいことはないか? これから先は俺も今まで以上に忙しくなるだろうから、のんびりおしゃべりする時間は取れないかもしれない」


 そう問いかけられると逆に分からなくなる。


「この戦いの行く末は――」


 誰もが気になっていることをおおざっぱに聞いてみた。


「それはわからない。だが、大勢の人々が良い未来を手繰り寄せようと今この瞬間も奮闘している。今言えるのはそれだけだ」


「そう……。それじゃあ、水蓮(すいれん)は――」


 そして、急にいなくなった少女のことを尋ねる。


角端(かくたん)軍に入ったお嬢さんだな。志閃も彼女のことを気にかけていた。……今の居場所はわからない。だが、そのうちまた戻ってくる未来が見える。ただ、姫将軍は彼女の再訪に関する場面にはいないようだ」


「わかったわ……」


 聞けば聞くほど、泉蝶は戦を左右する重要な局面に関われない気がしてくる。禁軍将軍と言う高い立場にいるにもかかわらず、だ。


「姫将軍は本当にまじめだな。もっと個人的なことを聞いてもかまわないんだぞ。恋愛話や、友人のこと、西方の家族のことも――。と言っても、帝都から姫将軍の実家は遠すぎて、さすがの俺でもぼんやりとしか見えないが……」


 泉蝶の生家は、代々この桃源国の西端の国境を守っている。家の歴史は古く、帝からの信頼も篤い。泉蝶が若くして将軍位についているのも、そんな縁が少なからず関係している。禁軍は帝自身やその家族にかなり近い場所で仕える軍なので、由緒ある家出身のものが多い傾向にあった。


「そうね。お父様やお兄様たちは元気かしら……」


 思わずそんな言葉が漏れる。


「元気だ。国境警備から離れられず、こちらの戦に参加できないことにやきもきしているだろうがな」


 適当に言ったのかもしれないが、占い師の口から出た言葉は不思議と信じられた。


「ありがとう。占いのことはもういいわ」


 淡くほほえむ泉蝶。


「いいのか?」


 逆に妖舜は怪訝な顔をしている。


「ええ。未来って言われても、あまりぴんとこないし、あたしは今だけを見据えて生きる方が向いているみたいだわ」


「……変わった人だ」


 そのあとは、二人で事務的な話をした。


 志閃が抜けた警護の穴をどう埋めるか。戦闘力が皆無な妖舜が代わりに入ることはできないので、そこはあさってに帰ってくる宗剛(そうごう)に任せる。彼があさっての午前に戻ってくるのはほぼ確実だと、妖舜は請け負った。


 ただ、呼び戻す人数よりも多い人を、代わりに前線に送らなくてはならなくなるそうだ。今でも減らせるところを減らして警護してきたが、いよいよきつくなってくる。


「そこは心配するな」


 しかし妖舜は自信たっぷりにうなずいた。


「これからは俺も禁軍将軍が集まる朝礼に参加する。その時に、人員を薄くしても害のない場所を占ってやろう」


 占い師というのは、本当に頼もしい。


「ありがとう。助かるわ」


 泉蝶が口にした言葉は心からの感謝だった。


「志閃がいなくなって不安だと思うが、奴の穴は極力埋める」


 その感情が伝わったのだろう。妖舜はやさしくほほえんだ。

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