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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
六章 消えた蓮と救世主
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六章 [8]

「すまない……」


 飛露(とびつゆ)はもう一度言った。


「禁軍の隊員は経験も能力もある人ばかりだから、みんなに助けてもらいつつうまくやっておくわよ」


 将軍と言う人を導く立場にいるにもかかわらず、部下たちの力を借りないと軍を治め切れない自分の未熟さを泉蝶(せんちょう)はかみしめた。


(こう)の間者の件は、あたしじゃどうにもできないけど……」


 泉蝶は敵に情報を漏らしていた禁軍兵士周賢(しゅうけん)が返した本を次に借りた人たちの名簿をとりだした。昨夜、志閃(しせん)から頼まれていたものだ。飛露は無言でそれを受け取って、右から左へゆっくりと眺めた。


「バラバラよ。軍人もいれば、研究者もいるし、学生や、一般の人も――」


 志閃がいない以上、この名簿の人々の動向を調べることもできない。


「どうしようもないな」


 飛露は泉蝶が思ったのと同じ感想を述べて、名簿を彼女に返した。


「今は、秋夕(しゅうゆう)助手の研究がうまくいくよう祈るほかない」


 彼女は、周賢がかかった操りの術の有効的な解き方を研究している。それが成功すれば、術がかかっている人を見つけたり、操りを事前に回避する対策を講じたりできるようになるはずだ。


「……そうよね」


 気や仙術が重要な役割を果たすこの国で、気を感じられない泉蝶ができることは少ない。


「あまり気負うな」


 泉蝶の内心を察したのか、飛露がそんなことを言う。


「そうよね」


 泉蝶はそう繰り返したが、その様子は上の空だ。

 普段厳しい雰囲気を纏う飛露の眉が垂れた。さらに彼女を鼓舞する言葉をかけようと口を少し開いたが、ふと思い出して、飛露は泉蝶のほほを軽くつまんだ。


「なにするのよ!!」


 次の瞬間、泉蝶が飛露の手を振りほどき、臨戦態勢を取る。


「志閃がやっていたのを思い出して真似てみたが、確かに効果はてきめんなようだな」


 飛露は満足げに顎を上げた。


「泉蝶、おぬしは元気な方が似合っておる。あまり気負うな。禁軍のことは任せる。王紀(おうき)宗剛(そうごう)は遅くともあさってには源京(げんきょう)に戻るだろう。それまで仙術部隊は妖舜(ようしゅん)にでも任せておけば()い。陛下と戦のことは、わたしに任せておけ」


「……わかったわ」


 今度はちゃんと泉蝶に言葉がとどいた。飛露はそれに深くうなずいた。


「とりあえず、あたしがやるべきは――」


 泉蝶が浅く息を吸い込んだ。


「妖舜と義明(ぎめい)に会いに行き、これからの話をすること」


 今後は、志閃と飛露に代わり、彼らの副官にそれぞれの部隊をまとめてもらう。以前と変わらない形でお互いの部隊と連携をとるために、いくつか確認や打ち合わせが必要だ。


 はっきりと言う泉蝶に、飛露は再度うなずく。妖舜も義明も長く禁軍に所属している軍人だ。能力があり頭も回る。彼らがいれば、禁軍はつつがなく回るだろう。飛露は妖舜の人間性を全く信頼していないが、志閃の指示を反故にするつもりはないし、妖舜に能力があることは認めている。


「大丈夫そうだな」


 飛露は自分のするべきことをつぶやきながら強くこぶしを握りしめる泉蝶を見て、そう判断した。


「任せなさい。陛下のことは頼んだわ」


 泉蝶の言葉は力強い。


「無論」


 そう頷いて、飛露は今いる作戦本部をあとにしようと戸口へ向かいはじめた。その斜め後ろには泉蝶も続いている。


「わたしはこのまま義明と部下にもう一度今後の話をし、少し仮眠を取らせてもらう」


「じゃあ、あたしは先に妖舜に会いに行くわ」

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