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五百禁軍の姫  作者: 白楠 月玻
六章 消えた蓮と救世主
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六章 [7]

「……あなた自身は、今回の志閃(しせん)の謹慎の件、妥当だと思ってるの?」


「そんなわけなかろう」


 意外にも、飛露(とびつゆ)の答えに迷いはなかった。


「陛下の言い分もわかるが、わたし自身は、志閃に落ち度はなかったと考えている」


「それでも、陛下の前では異を唱えないのね」


 飛露と志閃の二人で主張すれば、帝の勅令を覆すことだってできたかもしれない。


「陛下にも考えがあるのだろう。たとえば、陛下にも志閃の最近の疲労はお見通しで、謹慎と言う形をとることで強制的に休ませることにした、とかな」


 謁見の間で志閃の去り際に帝が発した言葉は、志閃を思いやるような内容に聞こえた。


「周りくどすぎるでしょ。素直に休めって言えばいいじゃない」


「そうすると、なぜ宮殿警護の志閃がそこまで疲労しているのか、変に勘繰るものがでてくるだろう。志閃が時々前線に行っているのも、あたりの気の監視を行っているのも、全て勤務外のことだ。勤務外のことで疲労困憊して、通常業務に支障をきたすなど、将軍としてあってはならぬ。それを悟られぬように謹慎と言う形をとったのかもしれぬ」


「……推測でそこまで考えられるなんて、あなた本当に陛下を敬愛しているのね……」


 納得できない帝の命令に、なんとか納得できる理由を無理やり付けた、と言った感じだ。志閃が飛露の忠誠心を気持ち悪がるのもわかる。


「無論。わたしが今ここにいられるのは、全て先代と今の陛下のおかげだからな」


 その言葉で飛露が遠く海を隔てた異国の出身であることを思い出した。


「あなたは――。いいえ、なんでもないわ」


 思わず飛露の過去を聞きそうになった泉蝶(せんちょう)だが、すぐに言葉を飲み込む。泉蝶の問いを察したらしき飛露は、わずかに目を細めた。しかし、彼自身から自分の過去を語る気はないようだ。


 泉蝶は「ふぅ」と小さく息をついた。


「なんにしても、起こってしまったことはどうしようもないわね……。禁軍のことは、あたしと王紀(おうき)で何とかするわ」


「うむ……。すまぬ」


 飛露は浅く頭を下げた。


「それと、もし、余裕ができたら、志閃に会いに行ってやってくれぬか?」


「あら? 心配なの? 意外ね」


 思わずそんな言葉が漏れる。


「あいつのふしだらで軟派なところは大嫌いだが、あいつの術師としての能力は認めておる」


 しかし、志閃に対する称賛を口にするのはかなり屈辱なようで、飛露の表情は歪んでいた。


「……『術師は嘘をつけない』って言うのは大変ね」


 そんな感想が出る。飛露は「ふん」と鼻を鳴らした。


「志閃も、良くあなたこと褒めてたわよ。自分と並ぶくらい強い戦士だって」


「あいつと並べられるのは不愉快だ」


 なんとか飛露の機嫌を取ろうとしたが、どうも逆効果だったようだ。


「……ごめんなさい」


 ここは素直に謝っておく。


「だが、謝るほどのことでもない」


 飛露の眉間に寄っていたしわが少し減った。


「おぬしも王紀も、将軍に上がって日が浅い。戦の厳しい時期にわたしも志閃も赤覇(せきは)もここにいられぬこと、本当にすまない」


 そして一転、飛露の眉が下がり、申し訳なさそうな顔になる。


 泉蝶と王紀は二十代前半。若い上に、将軍歴も一年ほどしかない。一方の飛露は志閃が禁軍に入ったころにはすでに当時の角端(かくたん)軍将軍の右腕としてかなり高い地位にいたと言うし、その志閃は泉蝶と王紀が禁軍に入ったころ、すでに仙術部隊を治めていた。この二人の禁軍将軍歴はかなり長いだろう。

 赤覇は二十代後半で将軍歴こそ浅いが、以前は陸軍で若くして武術指導の教官を務めており、その能力と軍部への幅広い人脈から帝直々に頼まれて歩兵部隊の将軍についたという輝かしい経歴持ちだ。


「なんとか、やれるだけやってみるわ」


 彼らと比べると経験も能力もない泉蝶は、そう言うのがやっとだった。

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