六章 [4]
「いえ、そこまでは言いませんが、あなたの不真面目な態度には眉をひそめるものがあります。今まで将軍を務めてきた実績、功績は十分にありますので、クビとは言いません。しかし、しばらく謹慎していただきた――」
「いや、なにそれ。マジでわけわかんないんだけど」
「おい、志閃。陛下の御前だぞ」
さらにいらだつ志閃をたしなめるように言ったのは飛露だ。
「じゃあ、飛露は納得できるわけ? この、戦の! 大変な時期に、俺が、索冥軍の将軍を十年近くやってきた俺が、将軍位をはく奪されて、謹慎!」
志閃が大きな身振り手振りで話しているのは、自分の中の怒りを少しでも発散させるためだろうか。
「陛下の判断ならば、それに従うのみだ」
一方の飛露はいたって冷静だ。
「そういう、『陛下が』『陛下が』って言って、何も考えない飛露のそういうところ、俺、本当に嫌い」
「志閃」
飛露がたしなめる。
「なに? じゃあ、『わかりましたー。謹慎しまーす』ってうなずいて、自軍のことも国のこともほっぽっていいわけ?」
「…………」
飛露は答えない。
術師としての側面も持つ飛露は嘘をつかない。飛露自身、納得できない命令だと思ったのだろう。何も答えないのがその証拠だ。
しかしそれでも、彼はそれが帝の命ならば従う意志がある。
志閃は大きなため息をついた。
「やってらんないわ。俺、『不真面目』らしいし、勝手にすればいいよ。ただし、前線から宗剛と王紀を呼び戻して、宗剛を中心、妖舜を補佐で索冥軍をまとめさせて。もしそれで回らないような問題が起これば王紀に」
「それを決めるのはあなたではありません」
しかし、帝のそばに控える文官がきっぱりと志閃の言葉を否定する。
志閃の眉間に深いしわが寄った。いつも穏やかに垂れている目がいらだちに鋭く細められる。志閃の纏う気が怒りをはらみ、周りのものを威嚇するように大きく膨れ上がった。
「本当に、マジでむかつくんだけど」
そう言う志閃の声にも、いつもの陽気さが全くない。
「飛露、志閃の気を封じろ」
そんな志閃の様子に低く命じたのは、顔すら確認できないような暗い影に鎮座するこの国の帝だ。
「御意」
飛露がうなずいて、すばやく相手の気を封じる術式が書き込まれた札を放つ。しかし、それが志閃に届くことはない。飛露の札は、志閃の放った札と衝突して激しい音とともに砕け散った。
飛露は背負っていた弓を取ると、自分の前を大きく薙ぐ。志閃は飛露の札を迎撃する際に、札を二枚はなっていた。一枚は札破壊用。もう一枚は砕けた札を目くらましに、飛露を攻撃するつもりだったようだ。
飛露に叩き落とされた札が強い光を放つ。目くらましの札か。飛露は片手で目をかばいつつ大きく一歩飛び退った。
「なに? 飛露、本気で俺とやりあうわけ?」
こちらも距離をとって飛露を見据える志閃からは、ただならぬ敵意があふれている。彼と相対する飛露だけでなく、謁見の間内を警護する武官たちにも緊張が走る。扉を守る兵が二人、壁際にいる兵が二人。三人は護衛部隊所属、一人は戦術部隊所属の禁軍兵士だ。
「周りの禁軍隊員に、角端軍将軍飛露より命令だ!」
飛露は志閃の問いに答える代わりにそう声を張り上げた。
「帝の命に背く反逆者――志閃を捕えよ!!」
そう命じる飛露の様子に迷いはない。
しかし、命じられた側はそうはいかなかった。捕えろと言われた相手は、禁軍の一将軍なのだ。




