六章 [2]
「貴様のような湯水のごとく札を消費する人間は大変だな」
素直に称賛する気持ちもあったが、飛露はあえて皮肉めいた感想を述べた。
「自分で作ってるからこそ、好きにたくさん使えるんだよ」
そう答えつつ、志閃は机の札を無造作にかき集めて、平べったい筒状の札入れに収めはじめた。同じようなものを十個ほど用意し、それを懐や袖の中、腰など様々なところへ留めていく。
「何枚札を持っていくつもりだ?」
「二百枚はあるはずだね」
得意げに答えて、志閃が右手首をひるがえす。すると、先ほどまで何も持っていなかった彼の指に十枚ほどの札が挟み込まれていた。
「札入れ、いろんなところにあった方が、どんな体勢でもすぐに札を抜けて便利だし。俺、手先の器用さと手首の柔らかさには自信あるのよ」
志閃は様々な効果を持たせた札を駆使して戦う術師だ。札を素早く取り出すことが何よりも重要らしい。
「そういう飛露だって、めちゃくちゃいっぱい矢持ってない?」
飛露の腰の矢筒には矢羽のない細い矢がぎっしりと詰まっている。一見ちゃんと矢としての機能を果たせるのか疑問に思えるシンプルさだが、飛露が気を込めで射ることで、普通の矢以上の威力と命中力を得られる。
「五十本ほどしかない」
飛露は指先で矢を確かめながら答えた。
「札も持ってるみたいだし、充分充分」
志閃は飛露の矢筒の横にある札入れに目を留めている。
「ああ、そうだ、飛露」
そして、ふと昨夜妖舜に言われたことを思い出した。彼がその時そうしたように、仕草で飛露に耳を貸すように示し、いぶかしげにする飛露の耳元で妖舜にもらった助言をつぶやく。
「貴様がそうして欲しいのなら、わたしは一向にかまわん」
それを聞いた飛露は、昨夜の志閃ほど戸惑っていないようだ。
「もともとわたしと貴様はそう言う関係だ」
「ん~。そう言われると、確かにそうなのかもだけど……」
悩むような志閃。
飛露はそんな同僚を頭の先から足元まで一通り眺めた。
黒髪のところどころを金に染めたあいかわらずの癖毛に、眠そうな目、女性受けがいいように髭はきれいに剃られ、こぎれいな格好をしているが、着物の胸元はだらしなくはだけている。いつもの志閃だ。
「準備はできたようだな」
本当はあちらこちらにはねた癖毛も、着崩した着物も嫌いだが、飛露はこれで妥協した。
「謁見の間に行くんだっけ?」
――帝が志閃を呼んでいる。
そう言う話だったはずだ。
「そうだ。行くぞ」と飛露が頷いた。




