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スケアクロウ  作者: カーズ
3/5

第2話 月子

 参ったね、ほんと。

 この状況ってさ、ギャルゲーで言えばクリア直前、攻略確定なところまで来ちゃってるよね。ちらちら目が合ったり、ちょっと手を振り合ったりしただけなのにね。これゲームだったら『なんてビッチヒロインなんだ!』ってコントローラーぶん投げてるとこだよ。

 さて、当の俺はというと、コントローラーぶん投げようか、それともすんなりOKしちゃおうか悩んでいる最中だ。さっきも述べたように、この榊祐介が歩んできた十六年間はあまりにイカ臭すぎる。その足跡はビッチャビチャ通り越してカピカピである。俺の人生を振り返れば、いつもそこにある一人の伝説的AV女優がいた。

 IKUMI――彼女との出会いは衝撃的だった。デビュー作『スーパーアイドルデビュー! 水野IKUMI』を観た俺はそりゃあもう猿の如く励んだものだ。更に彼女の人気を決定づけた二作目『IKUMIのイクイク十連発!』では右手にタコが出来た。そして何作かを経て『IKUMIのパイ☆パンX!』『IKUMIのぶっかけ奥さんスカスカ熟女!』で俺は完全にノックアウトされ、我がスカスカ生涯を彼女に捧げようとすら思った。

 しかし、その時は突然訪れる。

 彼女は『IKUMIの北海道で二本ハメファイターズ!』をリリース後、引退宣言してしまったのだ。なんでも、これからは映画界に進出したい、とか。その時の俺の喪失感と言ったらもう、気付けばホームセンターで首吊り用のロープを購入していたくらいだった。精神科に通おうかと本気で悩んだが、「いやあ、お気に入りのAV女優が引退して、もう死んでしまいたいんです。生きてるのが嫌なんです」なんて言えるかってんだ。だから俺は彼女の引退作をまだ観ていない。俺にAV道のなんたるかを説いた親父は涙ながらに抜きまくったそうだが、俺はまだまだその域には達せなかったみたいだ。

 

 ……なんの話をしてんだ俺は。

 いやいや、関係大アリだ! そんな俺だからこそ、悩んでしまうのだ。俺は自分が最低のイカ野郎だと自覚している。そんな俺が学園二大アイドルの一角、美波月子とそういう仲になってよろしいのか? 実はこれって、美波と楓子が仕組んだ壮大なドッキリなんじゃないか? 屋上に行ったらお馴染みのあのボードを掲げた楓子が待ってるんじゃないか? もしそうだったら俺、『大成功! テッテレ~』なんて言えねえぞ。そのまま屋上からダイブして地獄にイクイク十連発だぞ。

 

 さっきから周りの視線が痛い。そりゃそうだよな。なんたって〝あの〟美波月子から話しかけられたんだもんな。しかもその内容がアレだもんな。

「祐介、お前マジでどうする気だ? あの感じはどう考えたってそうだよな?」

 中島オブ・ディスティニーよ。お前もそう思うか。

「う~ん……本気で分かんねえ。俺、どうすりゃいいんだ」

「よかったじゃん榊。美波さんって確かにちょっと変わってるけど、超可愛いんだから儲けもんだと思えば?」

 おお、隣の席から留美っぺが参戦してくれた。この留美っぺ――中井留美はB組のオアシスと呼べる存在。気だてが良くてちょっと可愛くて、そして何よりパイオツカイデーなのである。それだけで彼女がこの地球上に存在する意味が大いにあると断言しよう。だから留美っぺからそう言われると嬉しい反面、ちょっと寂しい気もする。俺は留美っぺが好きだし、何より美波はそんなに大きくなさそうだし。

「留美っぺよぅ、やっぱりお前さんもそう思うかね」

「そらそうよ。このサカナは逃しちゃ駄目でしょ。ここでイモ引いてるようじゃ榊、あんたの男がすたるわよ」

 確かに、このチャンスを逃せばこれからあと何年生きるか分からないが、ずっとIKUMIの幻影に悩まされ続けるイカ臭人生を送る可能性大だ。

 今、『それでええやん、IKUMIで抜いてイカ臭いってステキやん?』と思う自分と、『何を言ってるんだ。映像のパイオツやマンマンより実物のパイオツマンマンの方がイイに決まってんだろ!』と思う自分が壮絶なヴァーリ・トゥードを繰り広げている。……てか、こういうのって所謂天使と悪魔の囁きってやつだよな。白と黒のせめぎ合い。……俺の場合、どっちも真っ黒な気がするんだがそこんとこどうなのよ。

「俺だったら迷わず行くね」

「あたしが男でもそうするよ」

 中島と留美っぺはそう言ってから、手拍子を始めた。それが少しずつ教室内に拡がっていく。

「榊、ボンバイエ! 榊、ボンバイエ!」

 中島の絶叫に、クラス中がノリだした。

 

 ――榊、ボンバイエ!

 ――榊、ボンバイエ!

 ――榊、ボンバイエ!

 ――榊、ボンバイエ!

 

 こうまでやられると、もう後には引けないじゃないか。

「分かった、分かりましたよ。この燃える闘魂、アントニオ榊がやってやろうじゃねえか! 迷わず行けよ、行けば分かるさ。バカヤローッ!」

 更に盛り上がる観衆に、俺は楓子仕込みの卍固めを中島に仕掛けて応えた。……『IKUMI、ボンバイエ』と囁く自分を未だ感じながら。

 

 三時間目が何の授業だったか覚えていない。な~んにもアタマに入ってこなかった。先生が、クラスメイトが、みんなアントニオ某さんに見えた。……やっぱり俺、病院に通おうかしら。

『先生、周りの人がみんなアントニオ某さんなんです! ボンバイエなんです助けて下さい!』

 ……隔離されるな。うん。


 

  × × ×

 

 

 私の世界にヒトは存在しなかった。

 全てが〝ソレ〟だった。

 いつからだろう、と考えだすと鈍い頭痛に襲われる。だから、最近はもう考えないようにしていた。でも遠い昔に〝普通に〟見えていた記憶がある。……と、思う。

 あ、また頭痛だ。これだから厭なんだ。少しでも今の状況に悩んだり、昔のことを思い出そうとするとこうだ。もしかしたら、私の頭の中に小さな悪魔がいて、私がそういうことを考えるとチクリチクリと針で突ついているのかもしれない。だから私はいつからか、考えることをやめていた。

 

 私は、狂っているのだろうか。

 いや、違う。少なくとも、今は違うと言い切れる。何故なら、彼がいたから――彼が、見えたから。

 それは、コトバで表すとしたら安易になってしまうかもしれないが、それでも奇跡、としか言えなかった。私には彼が見えた。彼の黒髪、切れ長の目、白い歯――全てはっきりと見えた。今こうして教室で机を並べ座っている〝ソレ〟らとは明らかに違う。彼は――彼だった。

「ンムフフフ……月子、とうとう言っちゃったねぇ」

 ああ、彼女もそう。彼女のおかげで私、だいぶ救われてる。

 土屋楓子。彼女とは小学生の頃、仲が良かった。だからだろうか、同じ高校に入学して久しぶりに会っても、彼女は彼女だった。

 

 ――あのトき、イなカッたかラ――

 

「――ッ!」

「ちょっと月子、大丈夫?」

「……うん、少し立ちくらみしただけだから」

 

 時折、私の思考にノイズが走る時がある。コレは何なのだろうか。そうするとまた決まって頭の中がチクチクしだすから、やっぱり私は何も考えないでおこうと思っていた。

 

 でも――。

 でも、私は出逢ってしまったのだ。彼に、榊祐介に。それからというもの、私の目には当然、彼しか映らなかった。私の場合、これは比喩でもなんでもない。まさしく、彼と、たまにこのサル娘しか目に映らなかったのだ。

「……で、勝算は?」

「わかんない。ただ、私の気持ちをぶつけるだけ」

 そう、私は決心した。

 彼に想いをぶつける。ぶつけて――

 

「――楓子、どうしよう。何て言えばいいのかな?」

 どうすれば彼にこの気持ちが伝わるだろうか。世界にたった一人しかいないという、この気持ち。世界に私達二人だけでいいという、この気持ち。

「んなもん簡単じゃない。アンタさっき言ったでしょ、私の気持ちをぶつけるって。それでいいと思うよ。ヘンな小細工するよりはさ」

 楓子は机に頬杖をつきながらあっさりと言った。この子のこういうところ、嫌いじゃない。

「それにしても祐介かぁ。あたしは断然ヨン様の方がいいなぁ」

 この子のこういういちいち古いところ、嫌い。

 

 でも、そうよね。素直に自分の気持ちをぶつけるしかないよね。

 まず、好き。好きなの。どうしようもなく。ここから私の想いが太陽に――ううん、外宇宙に届くくらい好きなの。毎秒ごとに〝好き〟が膨張していってるの。もはや地球のスケールなんかじゃ測りきれないくらい好きなの。よし、じゃあ言おう。彼に好きって言おう。それから――それから――

「ん? 月子?」

 ――つ、付き合いてぇ。イチャイチャデレデレしてぇ。毎日毎時間毎分毎秒一緒にいてぇ。手ェ繋ぎてぇ。いや、この際だからお互いの手と手を手錠にかけて一生一緒にいてくれや状態になりてぇ。ち、ち、ち、チューとかも当然してぇ。も、も、も、もっとエグいこともしてぇ。そしたら彼はこう言うはず。

 

『ねえマイハニー月子』

 ――なぁに? マイダーリン祐介くん。

『僕達はずうっと一緒さスウィートハート』

 ――そうね、私達はずうっと一緒。地獄の底まで愛 LOVE YOUよ。

『だったら……いいだろ?』

 ――えっ、こ、こんなところで?

『僕達のラヴに場所なんて関係ない。僕は君に溢れるパッションを届けたいんだ』

 ――だ、駄目よ。恥ずかしいわ。

『どうして? 僕は君を愛してる。君は僕を愛してる……違うかい?』

 ――愛してるわ。誰よりも。

『だったら……こっちにおいで。さあ、ほら……』

 ――ええ。でも祐介くん、私初めてだからその……優しくしてねんげっ!

 

「月子! あんたどっかにトんでたよ! 大丈夫?」

「…………ええ、大丈夫よ」

 強烈な投げっ放しジャーマンを喰らい、私は現実に無理矢理引き戻された。この、腐臭漂う現実に。

 そう、やっぱり私を取り巻く現実は〝ソレ〟ばかり。

 生徒も〝ソレ〟。

 先生も〝ソレ〟。

 用務員も〝ソレ〟。

 

 私は狂ってなんかいない。絶対に。だから、彼に伝えるんだ。昼休みになったら。私の全部、ぶつけるんだ。

「あ、祐介だ」

 なんですとっ!?

 いた。確かにいた。楓子の頭越し、廊下を彼は歩いていた。ていうか、楓子ジャマ。

「ははっ、ま~た中島とバカやってる」

 だからジャマだって言ってんでしょこのエテポンゲ! 彼の御尊顔が拝めないじゃないのよエテポンゲ!

 ええい、ままよ! 私は席を立ち、そのまま廊下へと駆け出した。するとその勢いに気付いたのか、彼がこちらを見た。

「はうわっ!?」

 いきなり目が合ったものだから、私の内部回路がショート。しかしダッシュの勢いは収まらず、私はずるんとバナナの皮で滑るようにベタな尻餅をついてしまった。

「お、おい、大丈夫か?」

 いや~ん、やっぱりええ声してはるわ~ん。

「……う、うん」

「てか、その……」

 彼は何か困ったような目で私を見ている。まあ、そりゃそうよね。こんなバカみたいなとこ見せちゃって。

「その……ぱ、パン……」

 パン? 今日のお弁当はご飯だけど。まあ、あなたがパンがいいって言うなら私もパン――

「…………」

 そこで私は気がついた。彼の目線が私の下半身――いや、もっとはっきり言ってしまえば股間付近を凝視していることに。

 まあ、しょうがないよね。男の子だもの。そういうことに興味があってもってぶべらっ!

「……パン」

 

 もう死にたい。

 私、パンツ丸出しやん。

 どこの世界に告る前にパンツ見せるアホがおんねん。しかもなんかショッボイパンツ。あかんわ、もう。全てが終わった。せめてもっとゴージャスな勝負パンツにしとくんやった。それこそ彼がそのまま顔突っ込んでくるくらいのエロティカパンツに。

 とにかく、終わった。はいはいお終いよっと。よかったらなんぼでも見ていきはったらよろしいですやん。どうせタダでっさかい。

 ――と、

「ほら、立って」

 か、彼が手を差し伸べてくれた。

 触れてもいいんだろうか? こんなショボショボパンツ女が彼の美しい手に。

「さ、早く」

 えいやっ! 触れてしまった。

 伝わる。

 熱が。

 彼のたいおん! が。

 

 ぎこちなく立ち上がった私に、彼はこう言った。

「昼休み……行くから、さ」

 サンライトイエロー・オーバードライブゥゥゥゥッ!!

 

 もうなんなんこの人めっちゃかっこええやんそんなん言われたらパンツビッシャビシャになってまうやんショボショボがビッシャビシャにグレードアップしてまうやん。

「うん……待ってる、から」

 

 ああ、コケてよかった。心からそう思う。彼に触れられたし、優しさも感じたし、オーバードライブも伝わってきたし。

 

 でも、ガチで漏れそう。

 

 

 

  × × ×

 

 

 

 ……見ちまった。初の生パンモロだった。あまりに衝撃的すぎて、思いっきり素のリアクションしか出来なかった。しかし冷静になった今なら言える。

 

 月子さん

 パンツはちょっと

 ショボかった

 

 祐介、心の俳句である。

 いやしかしそのショボさが逆にそそるというかなんというか、ええ。とにかく、ええもん見させてもらいました。縞パンでした。春のパン祭りでございました。

 当然、四時間目の授業も全くアタマに入ってきません。脳裏に焼き付いた縞パンで、さて今夜は大忙しだぞってなもんですよ。何かこう、自家発電でも出来ちゃうんじゃねえかってくらいの、ね! 中島はあの後ソッコーでトイレに駆け込んでたけど、俺はジェントルメンだからガッコーでそんなことは致しません。紳士のたしなみはあくまで自宅で、ね!

 しかし美波ってのはほんと、ヘンテコな女だなあと思う。パンツを見られたことより、俺の手に触れたことの方が衝撃的だったっぽい。……ちょっと調子に乗っちゃってもいいのかしら。

 でもなぁ、ここまで用意周到に仕込んどいて、いざ本番って時にボード持った楓子が――ってまだちょっと思ってんだよなあ。そしたら俺もうこのガッコーの全員巻き込んで爆破テロでも起こしてやるからな。テッテレ~!

 

 なんて言ってる間にさあ、四時間目終わっちゃったんですけど。その瞬間、クラス中の視線の集中砲火を浴びてるんですけど。するとまた中島と留美っぺが手拍子。

 

 ――榊、ボンバイエ!

 ――榊、ボンバイエ!

「元気ですかーっ! 元気があれば何でも出来る。元気があれば美波の縞パンが見れる! それじゃ、いくぞーっ!」

 

 イチ!

 ニー!

 サン!

「ダーーーーッ!! アリガトーッ!」

 

 乗せられる俺もアホだが、このクラスはいったいなんなんだ。留美っぺもたいがいアントニオヲタだな。沸き起こる榊コールを背中に受け、俺は颯爽と教室を後にするのだった。

 

 もうここまできたらしょうがない。自爆テロの覚悟も出来てるし、告白でもドッキリでも何でもこいってなもんよ。どんなリアクションでもやってみせるぜ。なんならアツアツおでんとか用意しててもいいんだぜ?

 屋上への階段を、一歩一歩踏みしめる。なんだろう、この高揚感。脳内でロッキーのテーマが流れてやがる。さて、目指すエイドリアンはガチか、それともアツアツおでんか。

 

 屋上に着いた。ドアノブをひねる。か細い金属音を伴い、ドアを開くと、そこは青一面の空と、春の開放感。

 

 そして、彼女はいた。

 俺に背を向けて、立っていた。

 彼女はゆっくり振り返る。俺は、息を呑んだ。

 さっきまでのドタバタ劇が一瞬にして消し飛んだ。

 俺の眼前に立つ美波月子は、掛け値なしにただただ、美しかった。これまで見てきたどの美波よりも。

「よかった……来てくれて」

 その笑みは、黒木にも通ずる儚さ、神秘性があった。

「行くって、言ったろ」

「うん、でも……よかった」

 ドッキリとかアツアツおでんとか自爆テロとか考えてた自分をぶん殴りたい。

「さっきはあんなみっともないとこ見せちゃったけど」

 美波は……本気だ。

「私の気持ち、聞いてくれる?」

「……ああ」

 美波はふうと深呼吸を一つ。そして両手を胸にやり、口を開いた。

 

 

「私、あなたが好き」

 

 俺は今、夢を見ているのだろうか?

 

「あなたの声が好き」

 

 そう思うくらい、美波の声はどこか、ふわふわとした響きに聞こえた。

 

「あなたの仕草が好き」

 

 この、独特の浮遊感。空が近いからだろうか。

 

「あなたの笑顔が好き」

 

 そう言って美波はまた笑う。ふんわりと、笑う。

 

「あなたの目が好き」

 

 そう言って美波は優しく目を細める。幼子を見守る母のように。

 

「あなたの髪が好き」

 

 春陽と風が、美波の黒髪を艶めかせる。

 

「あなたの全てが好き」

 

 そして美波は、もう一度、続ける。

 

「榊祐介くん、私、あなたが好きなの」

 

 何がどんなリアクションでもやってみせる、だ。美波の告白に俺、何も返せてないじゃないか。なんか言え、俺。

 

「……うん」

 それだけかよ! どうした祐介、アントニオ榊はどこ行った?

 

「だから……だから、ね。榊くん、私と付き合って下さい」

 サンライトイエロー・オーバードライブゥゥゥゥッ!

 キた。ビリビリキた。これがコクられるってことか。

 はっきり言おう。今朝の黒木といい、今の美波といい、俺が今まで出会ってきた、抜いてきた、どんな女よりも美しい。……IKUMIとはいい勝負かな?

「あの……榊くん」

「ファッ!?」

「へ、返事……」

 ですよねー。そうなりますよねー。

 どうすんだ、俺。美波はそりゃあめちゃくちゃイイ女だ。でも、でもさ。

 

 この女には絶対ナニかある。

 常人には理解出来ないナニか、もぞもぞと闇の中で蠢くナニかをこの女は胸に秘めている。

 そんな女と上手くやっていけんのか俺が。恋愛経験ゼロの、俺が。

 焦るな、俺。

 よ~く考えろ、俺。

 

 ――よし、決めた!

 やっぱムリだわ! こいつ、なんか訳分かんねーし! 縞パンだけはありがとな! 早速今夜のオカズに使わせてもらうわ! なんなら記念に貰っとこうかな、なんつって。

 

「ああ、いいよ」

 

 ――断れる訳ねーだろーが!

 だって可愛いんだもーん!

 

「ほ、ほんとに……いいの?」

「ああ、もちろん」

 某居酒屋風に言うと『よろこんでー!』

 

「うれしい……私、とってもしあわ」

「お、おいっ!」

 咄嗟のことに反応出来なかった。

 美波はふらりと眩暈をおこし、そのままビターンと顔面から倒れてしまった。急いで抱きかかえる。

「美波っ、大丈夫かよ!?」

「うふ、優しいね。月子って呼んで。祐介くん」

 満面の笑みで応えたが、その鼻からは鮮烈な赤のパッション。まあつまり鼻血だ。まさかパンツ見た後にコクられて、直後に鼻血まで見せられるとはまさに出血大サービスとはこのことだな。

 でもまあ、な! オンナに出血はつきものだしな。月モノだけになんつって飛び降りようかなマジで。

「祐介くん、これからずーっと一緒にいようね」

「あ、ああ……つ、つき、月子」

 

 月子は、笑う。ふんわりと、笑う。

 こんな笑顔を見せられると、そりゃまあ、さ。こっちもそんな顔になるってもんさ。

 

 五月某日、俺に、何だかヘンテコな彼女が出来ました。

 

 五月某日、私に、一生の伴侶が出来ました。

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