第7話~魔力と仮説~
~工藤side~
「なんで…なんで凍らないの!?」
北崎が目を開き自らの掌を覗いた。
「凍る?確かに、全然風がこない」
周りを見ると後ろにいた速水も不思議そうな顔をしていた。杉山と龍王は当然の様に立っている。
「ははっ。風なんて弱っちいの効かねぇよ。俺の魔法は総帥の剣すら通さない盾。それを好きなの場所に好きな大きさで出せる。無敵の魔法」
そう言ったのは龍王だった。かつて守護の賢者が使った魔石。それに認められたのだからある程度はできるだろうと思っていたが、まさかこれ程とは。
「この魔法、守護の魔法のはず。どうして貴男が…?」
北崎が見つめていた手を下ろし問いた。
「知らねーよ!できんだから仕方ねぇだろ」
北崎が少し固まってニヤリと笑うと振り返る。
「思わぬ収穫だったわ。守護の賢者が再び現れた。かなりの魔力を持っている。ボスに伝えなきゃ」
神崎が窓から飛び降りようとしながら呟く。
「大いなる計画に巻き込まれ大変なことになる」吉良の言葉が頭に過ぎる。
「大いなる計画…大いなる計画ってのとそのボスは関係あるのか?」
俺が恐る恐る問う。
「さぁね」
望んでいた回答では無く、軽く流され北崎は落ちていった。
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「なんなんだよ」
大半の窓が粉々になり床は凍り付き資料などで散らかった部屋で俺は静かに呟いた。
「てか、何なんだよあいつ。多分俺の魔法無かったら皆カチカチだっただろ」
龍王がハハッと笑いながら言う。それを聞いて龍王の魔法の威力、いや守備力を思い出す。
「お前なんで1日であんなに魔法使えたんだ?」
「小僧は記憶喪失だと言っておった。守護の魔石を使えるのだ。昔魔法を使っていたとしても不思議ではない」
俺の問いに答えたのは杉山だった。
「それはそうですが。では魔法を2種類使えるという事になります。でも魔石は1つ…」
龍王の握りしめていた魔石を指差して言う。
「まぁ仮説に過ぎんよ。深く考えるな」
杉山が細い目からこちらを見て言った。
「では、今日は失礼します」
時計を見て午後8時だと言う事を確認し速水と目を合わせドアノブに手をかける。
「では、仕事をさぼるなよ。熱也」
決まり文句の様に毎回この部屋を出る前に言う言葉を軽く流して戸を閉めた。
「しかし初めてであの魔力は大佐のも超えてたかも知れませんね」
最上階から階段で降りる間に速水が馬鹿にしているのか龍王を誉めているのか笑顔で言った。
「俺には魔力制限の魔法陣も付いてるし」
あんな少年に負けるのが悔しく言い訳をするが速水がそこを突いてくるのはもう解っていた。
「言い訳ですか。認めたらどうです?」
こんないつもの会話が微笑ましくなっている自分が居た。
「あぁ。あいつは強いよ」
「大佐も強いですよ」
飛び切りの笑顔でそう言う速水。4年前と変わらない綺麗な笑顔だった。
「大変だったな」
「はい。無事で何よりです」
「ああ」
太陽は大陸と反対方向に落ちてゆくのであった。