第6話~燃える炎と冷えた風~
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mahousekai
~速水sid~
「やはり無理じゃったか」
国を見渡せるこの広い部屋に杉山が座り、龍王と工藤と私が静かに立ち並んでいる。
「はい。なぜだかはわかりませんが幸運の悪魔、吉良幸一の魔法が威力を増していました」
工藤がいつもとは違う口調や雰囲気で杉山に的確に吉良幸一の情報を言い渡す。
「そうか、吉良の脱獄の理由。吉良と一緒に行動していた人々。謎だらけじゃ」
何時ものように杖で体を支えながら起き上がった。
「さらに"大いなる計画"と言って俺にだけ…いえ。大いなる計画という物に何か関わっているようです」
工藤が自分にだけ逃げろ、と言われた事を濁らして話した。
「そうか。熱也にとっては大切な友じゃったのにな…」
「俺は軍の人間としてやるべきことはやります!たとえ、その相手が友であろうと親族であろうと」
工藤は決心した綺麗な左目で杉山を見つめていた。
一方の右目には計算され尽くされた髪が被さり見えない。たとえ見えたとしても私は何も驚かない。
「その心意気、総帥として誠に誇らしく思う」
杉山が細い目を重そうに開けながら言う。
「それは……え…」
工藤が杉山の後ろに広がる窓ガラスを見て目を見開いた。
それを見た杉山もすぐに振り返る。私も窓ガラスに視線を移した。
「え…」
その光景に私は声も漏らした。
窓から少し離れた空中に浮いている灰色に水色が被ったような髪の色で前髪の中心にピョンと飛びだ一塊の髪をユラユラと靡かせる女性がこちらに向かって進んできた。
「なんだあれ…」
どんどんこっちに進む女性。
終には窓に手が届く所まで近づいた。
それにしても、悔しいくらい美人だ。
綺麗な薄い青いろの髪に色白な肌。大きくて輝いた瞳。さらにフワフワな服装。耳には髪と同じ色の丸いピアス。
どこを取っても綺麗だ。
彼女は手をガラスに当て目を瞑った。
「何をするつもりだ…」
あまりにも不思議な光景と行動に4人は黙って見守るしかなかった。
そうしている内に彼女のフワフワとした服と長い髪が逆立ち、強風が吹いたように揺れ始めた。ガラスは大きな音を立てて振動する。
「なんと…」
杉山がつぶやいた頃には彼女の掌を中心にガラスが凍りつき始めた。
終にはガラスの大半が凍り彼女が人差し指で軽く押すだけでガラスは砕け散った。その瞬間外から真冬かと思うくらいに冷たい強風が部屋を走り回った。
「誰だよ」
妙に落ち着いた工藤の口調。その問いを無視して耳につけたピアスを撫でる。
すると風が止み浮いていた女性は軽々と部屋に入り込んだ。
「私は北風の使者。北崎恵美。それしか明かせない。いや、明かす価値が無いわ。今から貴方達は美しい凍りになるんだからね」
冷めた目でこちらを見る北崎はこちらに掌を向ける。その行動に杉山は動かず、工藤はポケットに入った魔法陣の布を掴み、龍王は姿勢を下げた。だが私は工藤の後ろにスタスタと歩いて身を潜めた。
「そう身構えなくても、貴方達に私の冷風を防げるわけがないのよ」
そう言うと神崎は目を瞑った。その瞬間冷気が通り抜け当たりに強風が走り回った。