3.いきなりクライマックス!?
「『メガヒール』!」体が仄かに光、傷が塞がる。だが疲労は回復しない。
ジリ貧だ。
「『ホーリークロッツシールド』!」ガン!とナイトシールドを構え唱える。
聖騎士の彼女のスキルだ。コレで皆、数回の攻撃は防げる。
今、立っているのは僕と彼女だけだが、「『メガヒール』」聖騎士の彼女にも唱える。
「ありがとうございます。勇者殿」ニコッと笑う。
礼を受ける資格は僕には無い。
上級神官が先にやられた。僕は自分の能力を過信していた。なんの問題も無い。
だって負けた事が無いんだから、何でもできると、思っていた。
幼い少女魔道士が倒れた。補助魔法が得意のイケメンが倒れた。
精霊使いのエルフが倒れた。屈強な壁の傭兵団長だった戦士が倒れた。
姫の立場にも関わらず参加してくれたが、配下の従士隊共々倒れた。
次々に戦闘不能にされていく仲間達、状態異常の蔓延、回復アイテムの不足。
足らない戦闘力に、防御力。全く耐えられなかった。あまりにも早過ぎた。
無謀のうえに力不足。
敵の前衛の黒騎士の連続攻撃が集中する。
ドガガガガガガ!パキン!致命的なダメージ、キャアア!と吹き飛ぶ聖騎士。
すでにヒール如きでは回復しないダメージ量を受けていた。聖騎士は戦闘不能になった。
「力及ばず申し訳ありません。勇者殿」泣きながら顔を歪め倒れていく。
自分のせいだ。やりようはあった。そのヒントは皆が出していた。
聞かなかったのは自分。気づけなかったのは自分。
ここは魔王城でありながら魔王城ではない。魔王の作った結界内部である。
城毎飲み込む規模の大きさの真っ黒な空間。中には幅50m程の一直線の黒い石の床。
この中では魔の力が強まり、聖の力は弱まる。すでに敗けは喫していた。
勇者達の後ろの床は消えて行止まり、すでに開かない入ってきた扉だけがポツンとある。
前方には果てしなく続く魔物たちの群れ。その際奥の玉座に魔王は座っていた。
黒騎士や魔物の群れの奥から、しゃがれた魔王の声が上がり、勇者達の元にも響く。
「なんとも無様な。今代の勇者は私まで届きもせぬか。フハハハー」
「くっ」
「このままでは、こちらの力の片鱗も見せずに決してしまいそうであるな。
そうだ、最後のとどめは将軍の1人にでも決めさせようかの。
誰か、試したい兵はおらんか」
「では私めが、拝命いたします」
より大きい黒騎士が現れる。暗黒騎士団長、四天皇、将軍の一角だ。
ズザッ!と勇者までの兵士が除け、道ができる。ドガッ!ドガッ!と歩く。
「これが勇者と仲間の力とは・・・時代の流れか・・・ブザマだ」
今回の失敗は、たしかに自分の失敗だ。皆の意見を聞かなかった。まだ早いと・・・
皆が強くなる時間も経験も足りなかった。壁が弱かった。援護が弱かった。
仲間が弱かった。
仲間の質が悪かった。
自分に合う、強い仲間を集められなかった
そうか、僕はまだ大丈夫だ。ここをなんとか乗り切れば・・・
僕さえいれば、何度でも戦える。
今度こそ、勇者の僕に合うもっと強い仲間を集めればいいんだ。
「・・・うっ・・・勇者殿あぶない・・・」
「ゆうしゃ、さま・・・きを、つけ・・・」
「・・・力が、あれば・・・」
「力になれず・・・めんぼく、ない・・・」
「ゆうしゃ・・・がんばって・・・」
戦闘不能に陥っている倒れ付した仲間が、声を掛けて来た気がした。
はっ、何を考えているんだ。仲間達はまだ生きている。まだ僕を応援してくれている。
そうだ、忘れていた。勇者しか魔王を倒せない。僕が諦めちゃ駄目なんだ。いくよ。
「みんな、ありがとう。」
「みんなの命、無駄にしないよ!」
僕は目の前の黒騎士と魔王を睨む。
禁呪を使う。コレを使えば体も魂もただでは済まないだろう。
文字通り命も魂も燃やす究極の殲滅魔法『ライフブレイクバーン』今はコレしかない。
「我は命じる、己が命の為、汝らを贄に魂まで燃やし爆ぜよー」
「何!?その魔法は!」
「『ライフブレイクバーン』!!!」
勇者は構え叫ぶ。勇者以外の仲間達の体から、赤黒い禍々しい光が溢れ出る。
「あっはっはっはっはあー!」魔王が笑う。赤黒い光が収まっていく。
「不発!?」勇者が驚く。
「勇者が、禁呪を使うか。しかも不発!面白い、侮っていたよ。
今回の勇者は面白い!仲間を犠牲にしても生き残りたいか、勇者よ」
「なぜだ!?」勇者は焦る。魔法の起動は完璧だった。
「興が乗ってきたよ。勇者よ。
今少し楽しませてくれ勇者の一行達よ『シンリバイブレイン』」
「何をする気だ!魔王!?」勇者の仲間達に淡い光が降り注ぎ、仲間達は目覚める。
全体蘇生魔法、戦闘不能から復帰、全ての状態異常を解呪、体力だけ数%回復させる。
倒れ伏していた仲間達が、痛む身体を鞭打ちすぐ起き上がり、勇者に駆け寄る者。
すぐに勇者の前に敵から庇う様に身を挺する者。自分の身体を調べ戦闘の準備をする者。
「勇者さま、大丈夫ですか?」まず勇者の身を案じる姫と、集まる従士達。
「これは、第二戦目の開始ですかな?勇者どの」屈強な戦士が剣と盾を構える。
・・・どうする。この魔王の結界の為、こちらの転送魔法は不可能。
「勇者殿、何度でもこの力尽きるまで
おっ、おつ、お付き合いいたしまる。あう」聖騎士が赤く焦りながら、鼓舞する。
・・・無理だ、何度やろうと結果は同じ。
「勇者よ、一つ教えてやろう。
自己犠牲魔法『ライフブレイクバーン』の禁呪版のことをな」
魔王の笑みが深くなる。
「そんな魔法を使おうとしたのですか勇者様!?
魂まで燃やし尽くすのですよ。転生さえ叶わなくなります!!」
本当に心配し、勇者に憂いの目を向ける精霊使いのエルフ。
「私の勇者さまにそんな事させません!」勇者の事を思い、大切な思いを口にする姫。
魔王の笑みはますます深くなる。
「あの禁呪魔法はのう、相互の信頼や忠誠のような強い絆があって発動する。
そんな中途半端な、あいまいな魔法でのちょっとした歪で発動しなくなるのじゃ。
例えば、どちらかの信頼が切れた瞬間などでのう。発動の瞬間が特に危ないんじゃよ」
「禁呪魔法、他者犠牲魔法の『ライフブレイクバーン』はの~w」
「なんの話しをしている!魔王、その辺で戯言はしまいだ!」戦士が吼える。
「他者犠牲魔法・・・」少女魔道士は聖銀の杖を構えたまま考える。
「なるほど、私達仲間の連携を絶つ作戦ですね。利きはしませんよ」と残念なイケメン。
「魔王!勇者殿を愚弄したこと、絶対に許さない!」ナイトシールドを震わせる聖騎士。
「大丈夫ですか勇者さま。私達は皆、あなたの・・・」心配し姫が勇者の傍らに立つ。
「なるほど、それで発動しなかったのか」勇者は真面目な顔で頷く。
「え?」姫が呆ける。
魔王にいやな笑顔が張り付く。
「勇者よ。私は、万全ではない勇者との戦いは望んでいない。
勇者の心意気に感心した。間違いに気づいた。お前は強くなる。その素質がある!」
「なにを?」その場の全てが動かない。
「そこで、余が一つの提案をしよう。
この結界を脱出できる余の転送魔法をやろう。
一人用だがの。コレを魔王と勇者の再戦を願う犠牲者への、余からの手向けとしよう」
魔王がパチンと指を鳴らす。
勇者達の前に、青白く揺らめく魔方陣が現れる。
「俺達を舐めるな!勇者が魔王の甘言などに耳を傾けるか!」
「勇者さま、気にしないでください。私達は負けません」
「・・・勇者・・・」
勇者が、キリッと不正を信じぬ顔を向け魔王に吼える。
「魔王!お前の言う事などを信じれるわけがないだろう!」
「余は楽しい戦闘を望む!それだけが真実。だが逆境を変える一手ではあろう?勇者よ」
「・・・」
「・・・」
勇者が仲間達に振り向く。どこまでも誠実で正しく、澄みきった瞳で見つめる。
「みんな!僕を信じてくれ!」
仲間達は安堵した目、勇気絞る目、恋慕の熱のある目、自己犠牲も問わない目を向ける。
「僕はきっと、君達より強い仲間を集めてみせるよ!」
「え?」・・・何を言っているのだ。
「君達よりも信頼でき、僕がいつまでも信頼し続けられる仲間を見つけるよ!」
勇者の顔はいつもと変わらない端正な顔、いつものように仲間達に話かけるように。
「・・・」
「僕がいれば、何度でも魔王と戦える!君達の犠牲は無駄にしないよ!」
「だから、僕を信じて!」
とん!と足取りも軽く転送陣に飛び乗る。どこまでも澄みきった、いい笑顔だ。
「あっ!?」と従士隊の一人が転送陣に駆け込むが、勇者だけが笑顔を残し消えた。
「あーはっはっはっはぁーーー!たのしいな~。
人は、だから面白い!!なんと心地よい感情だ!期待通りだよ勇者よ~あはははー」
魔王の高笑いが響く。
魔王の結界につつまれ、魔の力は強まり、魔物の群れに幾重にも囲まれた戦場で。
唯一の希望の光、正義の象徴、笑顔の素敵な勇者は、仲間を見捨て一人で逃げた。
「え?ゆ、勇者さま、どこに隠れたのですか?
悪ふざけは、城の私の部屋にいる時だけにして下さい」怒りますよと虚ろな目で探す。
「ゆーうーしゃーーー!!!」ゴズン!剣を握ったガントレット毎、床を殴りつける。
「・・・勇者殿」ガシャン!剣も盾も手から滑り落ち、無表情のまま涙を流す。
「手向けの犠牲者・・・私達の事でしたか・・・私達は、勇者に、切り捨てられた!!」
「・・・無理か・・・」いろいろ試していた少女魔道士は、ここでとうとう諦めた。
信頼が、忠信が、友情が、正義が、愛が、全てがドス黒い絶望に塗り替えられる。
戦意は失せ、姫の従士兵は逃げ出す。
数人は魔物に追い詰められ床から落ちた。数人は絶望に跪き、誰かれへ恨み言を叫ぶ。
数人は狂ったように後の開かない扉を、叩き続ける。血が噴出し、骨が折れても・・・
「今日はなかなかの余興じゃった。
次回が楽しみよのう~。余は満足した、そこの塵芥はお前達で素早く片付けよ」
グウオオオォーー!魔物は吼える。ガシャン!ガシャン!黒騎士たちは槍を構えなおす。
槍をかわす戦士。ブシュー!掠ったが浅い。いつもの癖で殺気に反応したからか。
怪我の痛みで正気に返った。死ねない。ガガガガギン!魔道士が冷気の飛礫を放つ。
「正気か、魔道士。魔法はどの位持つ」
「・・・正気。数回が限度・・・少しでも倒す・・・」
「いい返事だ!ガハハッ」豪快に笑う戦士。薄く微笑む少女魔道士。
「姫さん目ー覚ませ!、エルフ!魔法はどうした? 優男おめーも嬢ちゃん見習え!」
「おい、騎士の嬢ちゃんどうした、盾をとれ!敵に立ち向かえ!聖騎士だろうが!!!」
戦士に首元を掴み上げられ揺さぶられる。死んだ目で涙を流し続ける聖騎士。
「私は、何を信じればいいのかもうわからない。なぜ勇者は・・・」
黒騎士たちは、すぐとどめを刺しにこない。
少しでも長く痛みと屈辱を与える為、もてあそんでいるのだ。
もう、魔道士の嬢ちゃんもエルフも優男も限界だ。
魔法は枯渇し、杖やナイフで応戦しているが、如何せん後衛役だ。満身創痍だ。
戦士も支援無しでは、削られる一方だ。
「あうっ!?」魔道士の嬢ちゃんが、太ももに槍を食らい倒れる。
「くそっ!」回り込み戦士が防御する。弾かれ、戦士も槍を腹に食らう。
槍を掴み押さえ込み。剣を黒騎士に打ち込む、ギン!と鎧に弾かれる。生にとどかない。
「つまらん!」黒騎士の団長が命令する。
「囲みつつ、全力刺殺!!」
黒騎士たちが一旦引き、整列し統制を取り槍を一斉に構える。前進する。
「はあ、はあ」失血で魔道士は意識が薄れている。
戦った他の仲間も傷を受け、立てない。後には、戦闘意欲のない絶望したままの仲間達。
戦士は激高する。誰に叫べばいい?誰に怒りを向ければいい?
「神よ!!!これが、俺達の旅の最後なのですかー!こんな!」
全てに絶望する。
***
自称、金髪の美少女。16歳、ツインテールの女の子がいた。
先程、馬で急いで掛けていった人がいた。どこから来たんだろうと見たら城壁があった。
「ん?」城壁の中にはでかい黒い饅頭のような、スライムのようなモノがあった。
「なんだろう?これ」手を入れてみる。ズブズブと入る。
触った感触がないなと思っていたら、急に引きずりこまれた。「あわわわわ!?」
気づくと、黒い空間の中にいた。一直線の長い廊下。後には大きい扉。
目の前には、血だらけで座り込む、エルフと女の子達。
その奥には槍を構えた黒い兵士達。はるか遠く廊下の向こうにまでひしめいていた。
「あのー、すいませんが、ここどこですか?」
みんなに見られ、緊張するなか質問してみた。空気読めてないですか?