異世界生活、即・奴隷生活!?グルーミングで窮地を脱してやる!
「……寒ぅ」
ガタガタと震える自分の肩を抱きしめ、私は膝を抱えた。
視線の先には、無慈悲にこの部屋と外界を遮る錆びついた鉄格子。床は冷え切った石造りで、吐き出す息はうっすらと白い。
私は異世界転生をしてここに居る。
昨今、流行りのエンタメとして定着しているアレだ。
だけど、ちょっと待ってほしい。
普通転生したら『お貴族様の赤ん坊』とか『チート魔術師』とか、百歩譲って『スローライフを送る農家』とかじゃないの?
どうして私は今、こんな極寒の牢屋で奴隷として監禁されているんだろう。
……こんな酷い話、ある?
絶望で視界が潤みそうになるのをこらえ、私は一度現状を整理することにした。
混乱した時は、とりあえずバックボーンを振り返るのがお約束だ。
私、咲楽屋敷あかりはどこにでもいる、ごく普通の専門学生だ。
自分で普通って言うのも図々しいかもしれないけど、波風立てずに生きてきた自負はある。
あの日もそうだった。学校の講義が終わり、いつものように居酒屋のバイトへ向かっていた夕暮れ時。
「わんッ!」
一匹のワンちゃんが車道に飛び出した。それに気づいた時には、足が動いていた。犬好きゆえ仕方無い。
でもそれが良くなかった。
それで向かってきたトラックに轢かれて死ーん。
……実は、その後の記憶がすっぽりと抜け落ちている。気づいた時には、私は真っ白な空間でやたらとキラキラした美女と対面していたのだ。
「犬畜生――もとい、小さな命を助けようとするその慈愛の心。感銘を受けましたわ」
女神と名乗るその女性は、慈愛に満ちた(今思えば胡散臭い)笑みを浮かべてこう言った。
「あなたを異世界ワンダールへと転生させて差し上げましょう。そこは天使族やエルフ族、それに犬猫が人の形をした亜人族も暮らす、とても楽しい世界ですよ」
「はあ、異世界……」
「転生記念に、特別サービスとしてユニークスキルも付与しておきました。ぜひ、向こうで活用してくださいませ!」
そんな女神様に半ば押し切られるようにして異世界入りの光の道に進んだ私。
期待に胸を膨らませて目を開けたら……。
「これですよ。ねえー女神様聞いてる? なんか設定ミスってませんか!?」
鉄格子に叫んでも、返ってくるのは冷たい隙間風の音だけ。
天使族やエルフ族や亜人族と仲良くキャッキャウフフする夢の生活はどこへ行ったのか。
ガシャン、と重々しい鎖の音が響く。
廊下の奥から、ガラの悪い男たちの足音が近づいてきた。
「おい、新しい商品は生きてるか?」
「ああ。あいつはなかなかの掘り出し物だ。明日のオークションで高く売れるぜ」
え!?私のこと!? やっぱりこの異世界で私って特別な存在なの!?
思わず鼻の下が伸びそうになる。
そうだよね女神様に選ばれたんだもん。
スーパースペシャルレア? ウルトラレア? ゴッドレア!?
いや〜、そんなに期待されちゃうと照れるなぁ!
「そのフェンリル族の雄だが」
「ん?」
フェンリル族の、オス?
「あんなに汚れてたら、どうしようもないぜ。せっかくの最高級品が台無しだ」
「ああ、それなら……」
…………。
……わ、私のことじゃなかった。
自意識過剰お疲れ様です。
恥ずかしすぎて独房の壁に頭を打ち付けたい。
コツ、コツ、コツ。
廊下に乾いた靴音が響き、こちらの牢屋へ近づいてくる。
「おい、お前。立て」
私の牢の前で止まったのは、さっきの会話の主だ。
着ているのは、あちこちが欠けた薄汚い鎧に、泥だらけのズボン。
服装から察するに、立派な王国の看守……とかではなさそう。どっちかっていうと、やっぱりガラの悪い野党か……
「出ろ」
ガチャン、と無造作に扉が開けられる。
え、ちょっと待って。一体どこに連れて行かれるの?
今すぐ売り飛ばされるの? それとも、まさかの処刑ルート!?
いや、おかしいでしょ! 女神様、やっぱりスポーン地点の設定ミスってるって! 誰か運営に報告して!!
内心で大パニックを起こしている間に、私は別の場所へと突き飛ばされた。
「ここだ」
連れてこられたのは、またしても牢屋。
だけどさっきの鉄格子とは違い、こっちは厚い鉄の扉に小さな覗き窓があるだけの、より密閉された空間だ。
ギィィ……と嫌な音を立てて扉が開く。
う、暗くて獣臭い……。
そこには、先客がいた。
「お前は、今日中にあいつを綺麗にしろ」
「へ?」
「説明はそれだけだ。せいぜい明日まで生きてろよ」
ドン! と背中を強く押され、よろけながら中へ入る。
背後でガシャン! と乱暴に扉が閉まり、鍵をかける音が響いた。
「……いてて。あいつを、綺麗にしろ……?」
私は恐る恐る顔を上げ、その先客を見た。
部屋の隅、木箱の上に腰掛けている人影。
彼は入り口とは反対方向をじっと睨みつけたまま、こちらを見ようともしない。
人の形をしているけれど、頭にはピンと立った犬の耳。そして、後ろには立派な尻尾。
こ、これが女神様の言ってた亜人族……!
本物のケモ耳に、一瞬だけテンションが跳ね上がった。
が、次の瞬間。私は冷酷な現実に直面して、急速にスンッ……と真顔に戻った。
そう。この亜人くん、びっくりするくらい汚れているのである。
髪はぐじゃぐじゃのボサボサ。色は本来白っぽいのか、それともグレーなのか判別不能なほど泥にまみれている。
身に纏っているボロキレは、もはや「着ている」とは表現したくないレベルの真っ黒さ。お顔まで泥と煤で塗りつぶされている。
どうすればここまで汚れるのよ……。これを、綺麗にしろって……?
幸い、部屋の奥にはライオンの口から水が出続けている謎の水道があり、水には困らなさそうだけど……。
「あ、あの〜……」
勇気を出して声をかけてみた。……が、無反応。
怖い。初対面の人、しかもガチの初めて見る亜人族に話しかけるのハードル高すぎじゃない!?
相手が向こうを向いているのをいいことに、私はその背中をジロジロと観察してみる。
身長は180センチ以上ありそう。あの尖った耳の感じ、ワンコっていうよりは狼っぽい。
尻尾は汚れきってネズミみたいに細長くなってるけど、あれちゃんと洗って乾かしたら絶対にフワフワになるやつだ。
なんて思っていたら、彼の脇腹のあたりが目に入った。ボロボロの服が、そこだけ不自然に張り付いている。
え、これ……怪我してる!?
服が真っ黒に見えたのは、汚れだけじゃない。大量の血が乾いて固まっていたのだ。
牢屋が薄暗くて、今の今まで気づかなかった。
「け、怪我してるじゃない! 大丈夫!?」
「チッ……うるさいな」
あ、喋った!
言葉が通じないかもなんて心配してたけど、そこは異世界言語翻訳(仮)が効いているらしい。
「あ、あの、ひどい怪我だよ? さっきの人たちに言って治療してもらおうか?」
「……チッ。あいつらにやられたんだよ」
「えっ!?」
「捕らえられた時に」
冷たく吐き捨てるような声。
そ、そんな……。捕まえて、怪我をさせて……
あまりに酷すぎる。
でも、なんとかしなきゃ。私、何か回復魔法とか使えないかな……?
異世界転生といえばこれだ。
私は祈るような気持ちで、小声で呟いた。
「す、ステータス、オープン……っ!」
ピン、という軽快な電子音と共に、目の前に半透明のウィンドウが現れた。よし!
どれどれ、私のチート能力は……。
【サクラヤシキ・アカリ】
人間 / ♀
【スキル】
愛撫療法
威嚇
……あ、愛撫療法!? なんじゃそりゃ!!
ちょっと待って、なんかいかがわしい漢字なんですけど! R指定大丈夫!?
焦ってスキルの詳細をタッチすると、ポップアップが表示された。
愛撫療法:愛しい気持ちで患部を撫でれば、正常な状態に戻すことができる。
「あ、これ回復スキルだ……よかった……」
一安心。名前はめちゃくちゃ紛らわしいけど。
でも、「愛しい気持ちで撫でなきゃいけない」って、これまたハードル高くない?
私はチラリと先客の彼を見た。
汚い。獣臭い。あと無愛想。
ごめん女神様。初対面の、しかも泥まみれ血まみれの亜人族に愛しい気持ちなんて1ミリも湧いてこないよ……。
よし、一旦保留! もう一個のスキルは……威嚇か
威嚇:相手を脅して行動を制限し、自らの要求を通すことができる。
……あ、これだ!
ピーンときた。
この状況、そしてこのスキル。使い道は一つしかない。
幸いなことに、手元には商売道具も揃ってる。
フフフ……。
「あのさ、さっきの話聞いてたよね? 私、あなたを綺麗にしなきゃいけないの」
「……」
「そっち行くよ?」
「来るな!!」
亜人くんが勢いよく立ち上がり、牙を剥き出しにして私を威嚇してきた。
さっき座っていた時も大きいと思ったけど、立ち上がると180センチ以上はある。
逆立った耳と毛のせいで、威圧感はさらに倍増だ。
「俺は売り物になんてなりたくねぇんだ!!」
「私は! あなたを綺麗にして、その怪我を治したいだけなんだ!!」
「余計なお世話だ!! 関わるな!!」
う……。
さすがに身長155センチの私じゃ、上からの迫力に押し潰されそうになる。
負けない!!……スキル威嚇発動!!
私は心の中で強く念じ、お腹の底から喉がひりつくほどの大声を出した。
「お座り!!」
渾身の一撃。
すると、さっきまで牙を剥いて暴れていた亜人くんがすとんと地面に膝をつき、ちょこんと正座をした。
よしよし、効いてる。
「え、えぇなんだこれ。体が勝手に!?」
亜人くん本人が一番驚いているようだ。
これ、なかなかのチートスキルなんじゃない?
「そのまま、洗い場まで移動して」
「 命令するなッ!」
反抗的な態度。だけど、スキルは継続中だ。
「移動して、ってば」
ススーッ……。
私の言葉に従って、膝立ちのまま奥の水道がある方へ移動していく亜人くん。よしよし。
さて、いよいよ本番だ。
私はずっと肩にかけていたカバンを床に下ろし、中身を一つずつ丁寧に取り出していく。
コーム、スリッカーブラシ、バリカン、爪切り、はさみ、そして犬用シャンプー……。
そう。私はこれでもトリマーの専門学生。
異世界に飛ばされたたタイミングが学校帰りだったから、犬(?)のトリミング用具は完璧に揃っているのだ!!
まずはそっと、彼の頭部の毛に触れてみる。
「ヴゥ……ッ」
彼は低く唸り声を上げているけれど、スキルの効果か、手を出してくる気配はない。
毛並みは血や泥で固まってパリパリだ。私はコームを使って、丁寧に大きな汚れを弾き飛ばしていく。それから、スリッカーブラシでじっくりと解かしていく。
……よし、次は問題の尻尾だ
尻尾はさらにカチカチの状態だったので、一度洗ってほぐしてみることにした。
水道の水に触れてみると、意外なことに少し温かい。
ちょっと硫黄の匂いがする。もしかして、温泉を引いてるのかな?
だとしたらありがたい。冷水よりはずっと汚れが落ちやすいから。
私は持参した犬用シャンプーをたっぷり付けて尻尾を洗い始めたが、あまりの汚れに全然泡立たない。それどころか、カチカチの塊もビクともしない。
これ、相当手強いね……!
私はコームを駆使して、毛を傷めないように、けれど必死に固まった汚れをほぐしていく。格闘すること数十分、ようやく毛が一本一本バラバラになって、本来の柔らかさを取り戻してきた。
「ふぅー……!」
思わず達成感で一息つく。
すると、今まで黙っていた亜人くんが、ぼそりと話しかけてきた。
「あんた……変わってるな」
「え?」
「俺が怖くないのか? この牙も、爪も……」
怖くないと言えば、嘘になる。
だけど……
「怖いけど。目の前に怪我をして、ボロボロに汚れてるワンちゃんがいたら、放っておけないの」
「……あいつらに言われたからだろ。売値を上げるために」
「まぁ、それもあるけどね」
それだけじゃない。
汚れた毛並みを整えて、本来の姿に戻してあげたい。それはきっと、私の本能みたいなものだ。
「……フン」
彼は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
けれど、さっきまでネズミみたいに細くなっていた尻尾が、今は根元からわさわさと揺れている。
……あら。口ではあんなこと言ってるけど、ちょっと可愛いじゃん
さて、尻尾の次は体だ。
私は犬用シャンプーをスポンジにたっぷり含ませて、まずは首元から……
「待て! 体は自分で洗えるからッ!」
亜人くんが、慌てて私からスポンジを奪い取った。
その必死な反抗的態度に一瞬ムッとしたけれど
……あ、そうか。よく見たら体は普通の人間と(だいたい)同じなのだ。
わー!私、何を自然な流れで全身洗おうとしてたの!?
危うく事案になるところだった……!
「ご、ごめん。……じゃあ、向こう向いてるね」
私は予備の乾いたタオルをそっと横に置いてから、クルッと回って部屋の隅を見つめた。
背後からはバシャバシャと水が流れる音だけが響いてくる。……なんだろう、この絶妙に気まずい時間は。
「……できたぞ」
不機嫌そうな声に呼ばれて振り向いてみたら……そこには、なんということでしょう!
体の泥は綺麗に洗い流され、かろうじて身に纏っていたボロ布が撤去されている。そして、下半身をタオル一枚で巻いただけの姿になった亜人くんが!
……わ、わお。筋肉ムキムキですごい……!
つい、まじまじと見てしまう。
無駄のない、しなやかで力強い筋肉。
「すごい筋肉。鍛えてるの?」
「あー? 獣人はみんなこんなもんだろ……」
獣人。そうか、彼らは自分たちのことをそう呼ぶのだ。
あ、そういえば肝心なことを聞いていなかった。
「あの、私はサクラヤシキ・アカリです。あなたの名前は?」
「……ロン。ロン・ルンシェルド・ラークだ」
ロン! なんかかっこいいけど、ちょっと可愛い名前だ。
「じゃあロン、次は髪の毛を洗うね」
「……あぁ、もう好きにしろ」
ロンはそう言うと、観念したように後ろを向いて座った。
気づけば、もうスキル威嚇を使わなくても素直に言うことを聞いてくれている。
もしかして、少しは信頼関係が築けたのかも? だったら、ちょっと嬉しいな
私は再びシャンプーを手に取り、彼のボサボサになった髪に指を差し込んだ。
これまた一回目では全く泡立たず、二回、三回……。
結局、四回目にしてようやく洗い終わった。
ゴシゴシとタオルで水分を拭き取ると、そこには
……わぁ、きれい
くすみのない、輝くような銀色の髪が顔を出した。
「もういいだろ……」
「あ、うん。お疲れ様」
少し離れてマジマジと彼を見て……私は絶句した。
か、かっこいい……!!
さっきまでのドロドロで真っ黒な姿とは、まさに天と地の差。
肩につくくらいの長さの銀髪が、彼の精悍な顔立ちにめちゃくちゃ似合っている。
「おい、これ」
「……ハッ」
あまりの変貌ぶりに見惚れていたけれど、声をかけられて正気に戻る。
ロンくんが指差したのは、例の脇腹の傷だ。
「治してくれるんだろ?」
「あ、そうだった! ごめんごめん!」
近くで確認してみると、傷口は完全には塞がっていないけれど、幸い血は止まっている。
だけど15センチくらいある深い傷痕は、見ているだけでも痛そうだ。
「しゃがんで。今、回復魔法をかけるから」
「……ん」
ロンくんは素直に座ってあぐらをかいた。
私は右手に集中力を集めて……いくよ。
愛撫療法、発動!!
その瞬間、私の右手が黄色い温かな光を放ちだした。
よし。あとはこの光に愛しさを込めて撫でるだけ……!
「傷口、触れるよ」
右手でそっとロンくんの傷口に触れる。
「うッ……あぁ……」
「ちょッ! !」
変な声出さないで……! 私が何か変なことしてるみたいに見えるから!
急いで光を纏った手でスゥーと傷口をなぞる。
すると、みるみるうちに肉が盛り上がり傷が塞がっていった。
よかった。これなら明日までには完治しそう
やり遂げた安堵感から、私はついいつもの癖で彼の頭にも手を伸ばした。
「よしよし。よく頑張ったね」
なでなで。
……あ。
ふと視線を感じて見るとロンくんとバッチリ目が合った。
彼は真剣な表情で、じーっとこちらを見つめて目を離さない。
照れる……! そんな綺麗な顔で直視されると、さすがに照れるって!
「あはは、ごめん。なんとなく、ワンコを撫でるみたいに撫でたくなっちゃって……」
照れ隠しに笑って手を引っ込めようとした、その時。
突然、ロンくんがガシッと私の両手を力強く握りしめてきた。
「ぉわっ!?」
「……ありがとう。サクラ……!」
一点の曇りもない、真っ直ぐな瞳。
さっきまでの刺々しい態度はどこへやら、彼は心の底からお礼を伝えてくれた。
……なんだ。不愛想だと思ったけど、案外、素直なところもあるんだね
「……どういたしまして」
繋がれた手の熱に、私の心臓が少しだけキュッとした。
それからは、もう、めちゃくちゃに大変だった。
綺麗になって(ついでに怪我も治って)元気いっぱいになったロンくんが、「ハァ〜〜」とか言って両手を握って力を込めた。
その直後、頑丈なはずの牢屋の扉を素手で粉砕したのだ。
え、力技!? 物理で解決!?
驚く私を余所に、見張りが気づく間もなくロンくんは廊下の鉄格子や扉を次々と破壊。
同じように捕らえられていた天使族の少女、エルフ族のお姉さん、さらにはリザードマンのおじさんまで解放して回った。
解放された面々と共に、勢いそのままに出口へ突撃。見張り役をなぎ倒し、文字通り力ずくで突破!
外は深い森の中で、空には月が浮かんでいた。
真っ暗な夜の森を、ロンくんは私をひょいとお姫様抱っこして、先頭を切って疾走する。
「うわあああ、ちょっと! 速い、速いッ!!」
あまりの急展開に、私はあわあわと彼の首にしがみつくことしかできない。
そのまま一時間以上走り続けた頃、ようやく森を抜け、山間に広がる美しい草原へと辿り着いた。
月明かりに照らされたのは、一緒に逃げてきた天使、エルフ、リザードマンの三人組。
自由の身になったとはいえ……その姿は、さっきまでのロンくんと同じく、泥と煤でボロボロの薄汚れた状態だった。
……あぁ、もう。
ダメだ。私のトリマーとしての魂が、静かに、けれど激しく燃え上がっている。
この子も、あのお姉さんも、鱗の隙間に泥が詰まってるリザードマンさんも……
よし!! ちょうど目の前には綺麗な小川がある。
みんなまとめて、私の手でピッカピカに綺麗にしてあげようじゃないの!!
「みんな、そこに座って! 綺麗にするよ!」
私の呼びかけに、逃亡者たちがきょとんとした顔をする。
そんな彼らの横で、ロンくんだけが「やれやれ」と苦笑いしながら、自慢の銀色の尻尾をわさわさと振っていた。
こうして、私の「奴隷から始まった異世界生活」は、最高に騒がしく幕を明けたのだった。




