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未来

ちょっと朝に投稿してみます。

夕方にも投稿します。

 今日も今日とて、中庭で子供達と遊ぶ日々。今は休憩と称して中庭の隅に座って魔力操作の鍛錬をしていた。最近は慣れたもので体の中で魔力を思うように動かし、時に足の裏からお腹からまた頭から魔力を放出出来た。その際放出量も適宜変えていく。そうしながら考える。もちろん例の件だ。


 院長を説得してから、もう三ヶ月経つ。院長はあれから知人へと手紙を送ったらしいが、その後音沙汰がない。

 やはり難しかったのだろうか? もし、教師が見つからなければどうしよう? 詰みではないだろうか。

 俺は教会にいいように弄ばれ、最悪精神が崩壊する。いや、究極健康体アルティメットフィジカルの効果で精神も崩壊しないのか? そこは分からないな。検証しようもないし。ただ、気持ちの良くないことは確かだ。俺はそこで教会を憎んでしまうかもしれない。そうすると何をするか分からない。俺の人生は灰色になる。


 そんなのまっぴらごめんだ! 

 だから教師が見つからなければ最悪この孤児院を出ようと考えている。独学ではあるが魔物を狩り、強くなるのだ。まぁ独学では限界はあるかもしれないが、やらないよりマシだろう。

 自分の中でタイムリミットは半年と決めている。だからあと三ヶ月。それまでに教師が見つからなければ孤児院を出る。

 もう何度目になるか分からない決意をし、そろそろ子供達の輪に戻ろうとした時、院長が一人の女性を引き連れて中庭にやってきた。


 もしかして……!


 はやる気持ちを抑えて院長達を見ていると案の定院長が俺を呼んだ。

 やっぱりだ! みつかったんだ!


 すぐに院長のところまで駆けていく。


 院長と一緒にいる女性は黒の袴を履いていた。髪も黒くこの国出身ではないのかなと思った。

 院長がこの女性はカガミさんという名前だと紹介してくれる。

 しかし、教師だとは言わなかった。不思議に思いおもわず質問してしまった。

 先生ではないのですか? と。

 すると院長はネロ次第だよと言った。


 ということはまだ決まっていないと。俺は試されているのかもしれない。教えるに値する人物かどうか。なら、第一印象は大事だ。


 俺は精一杯の誠意を込めて挨拶した。するとカガミさんは大笑いした。

 えっ? 俺笑われるようなことした? 

 戸惑っているとカガミさんがよろしくと言って手をとってくれる。

 その顔にはなおも笑顔が張り付いていて、とても無邪気に見えた。


-----


 カガミさんはその後、しばらく孤児院にいることになったらしく翌日一緒に朝食をとっていた。


 食べ終わるとカガミさんは子供達に囲まれた。


「カガミさん見てみて! 私が作ったぬいぐるみ!」

 

 裁縫がスキルのテファが、カガミさんに自分が作ったうさぎのぬいぐるみを見せている。ぬいぐるみは見事な作りでさすが裁縫スキルと言ったところか。


「これは凄い! テファは将来裁縫師になるの?」


「うん! それが私の夢!」


「いい夢だね」


 カガミさんは笑顔でテファの頭を撫でた。


「テファばっかずりーぞ! なぁカガミさん剣術教えてくんねーの? カガミさんBランクの魔法剣士なんだろ? 強いんだろ? なー頼むよー」


 ヒースがカガミさんに詰め寄る。カガミさんはハハハっと自重気味に笑い、そんな大層なものじゃないよと返している。


「カッカガミさんは首都から来たんだよね。どんな建物があった? やっぱり大きい?」


 ドントが遠慮がちに質問する。ドントのスキルは建築だ。建物に興味があるんだろう。


「大きい建物はたくさんあるよ。他にも小さいけど、凄い綺麗な建物とかね」


「そっかー僕も行ってみたいな……」


「いつか行けるさ、焦らなくて大丈夫」


 カガミさんはドントの頭も優しく撫でた。


「ほっ本はいっぱいある?」


 ラステルが顔を真っ赤にして尋ねる。ラステルのスキルは速読。しかし、孤児院に本はない。本は基本高価なのだ。


「本もあるよ。でも、一般に売ってるのは高価だから、私は冒険者組合の資料室で読んだかなー」


「……そっか、冒険者……」


 ラステルの中で何やら覚悟が固まりつつあるようだ。ラステルは基本気弱だが、芯は強いところがある。もし、冒険者を目指しても大成する可能性はあると思う。

 いいね夢。俺も持ってみたいよ。


「子供達がすみません。ご飯はお口に合いましたか?」


 最年長のお姉さんミリアが申し訳なさそうにカガミさんに言う。


「子供達は元気でいいね。料理はとても美味しかったよ。ミリアが作ってくれてるんだよね? ありがとね」


「はっはい、お口に合ったのなら良かったです」


 ミリアはほっとしたようにニッコリした。


 俺は遠巻きからそっとその様子を見て、カガミさんがなぜ俺の先生になることを保留にしているのか考えていた。


 ヒントはヒースとのやりとりにあったように思う。

 自分は大層な人間じゃない。そう言ったカガミさんの顔は浮かなかった。

 きっと何か思い悩むところがあるのだろう。


 俺はどうすればいいのだろう。

 分からない。ともかく、カガミさんにはあまり先生になってなってとは言わず、交流を深めるに留めよう。

 そこから、何か俺から感じ取ってくれればあるいは……まぁ俺もそんな大層な人間じゃないけどね!

 でも、彼女の傷口を抉るような真似は俺には出来そうにない。

 ここは運に任せるとしよう。


-----


【カガミ視点】


 孤児院での生活は予想以上に賑やかだった。子供達はことの他懐いてくれ、いつもカガミさんカガミさんと言ってくれる。

 みんなそれぞれ夢のようなものを持っていて、それに思いを馳ている。

 その姿を見ていると眩しかった。

 これがスコット神父が言っていた未来なんだろうか。


 未来といえばネロのことである。スコット神父から大体の事情は聞いた。十歳になったら、教会へ預けられること。特殊なスキルを持っており検証と称して非人道的な扱いを受けるかもしれないこと。それを回避するために力を求めていること。

 たった五歳の子供が背負うにはあまりに重い問題だ。


 そんなネロはヒースのように先生になってくれと年相応なお願いを繰り返してくるのかと思ったら、全くそんなことはなかった。

 むしろ一歩引いて極力その話題に触れないようにしているようだ。

 もしかして、私の心境を慮っているのだろうか? 

 スコット神父も賢い子だと言っていたし可能性はある。

 それにしたって老成しすぎだと思う。

 もっと子供らしくしてもいいと思うのに……そんな気持ちから、私はふと自分の方からその話題に触れてしまった。

 場所は中庭の片隅、子供達が駆ける中、私とネロは地面に腰を下ろしその光景をぼーと眺めていた。


「ネロは私に教師になってほしくないの?」


 ネロは私の横顔を見て一瞬驚いた顔をすると、また正面を見た。


「なってほしいですよ。でも、無理やりってのは好きじゃありません」


「私に気を遣ってるの?」


「はい、気を遣ってます」


 そのストレートな物言いに思わずふきだしてしまう。


「ネロは正直だね」


「そうでもないですよ。僕も嘘をつくことだってあります」


「そりゃ嘘をつかない人間なんていないよ」


「そうですね」


 風が心地よくあたり二人の静寂を満たした。


 ネロは本当に老成している。ホントに五歳なんだろうか? 大人と話している気分になる。

 ネロは……焦らないのだろうか? 私が教師にならなければこの子の未来は暗い。それをわかっていてこんなにも冷静に相手のことを気遣えるなんて。

 大人の私でも無理だ。きっと、正しい道に進めばネロは大成するだろう。しかし、私が教師にならなければその道も閉ざされる可能性が高い。

 私はどうすればいいのだろう……

 

「カガミさんは優しいですね」


 私が内心で迷っているとネロが不意にそんなことを言い出した。


「そんなことないよ。ただの卑怯者だよ」


 そう卑怯者だ。自分の傷口を気にして将来有望な一人の少年を見捨てようとしている。なんとちっぽけな人間か。


「昔聞いたこたがあるんです。ある男の話です」


 ネロが唐突にそう語り出した。


 話は悲惨なものだった。男は病弱の上に運がなく怪我を頻繁にした。それでも諦めず自分のやりたいことをやり、人生に希望を見出していた。一度は折れるもまた再起。やりたいこととは違う人生だが喜びを見出していた矢先、特大の不幸が襲い心が折れる。しかし、男は救われる。奇跡的な出来事によって見える世界は変わり人生を謳歌するようになった。


「人は変われるんです。きっかけさえあれば。僕はこの話でそう思いました。カガミさんが何に引け目を感じているのかは分かりません。ですが、きっといつかその気持ちに折り合いがつく日がきます。そのちょっとの間でいいです。僕に教えを説いてはくれませんか?」


 驚いた。

 今まで自分から一切頼んでこなかったネロが、私にはっきりと教えを説いてほしいとお願いしてきた。

 私はどうするべきなのか。男の話のように私も変われるだろうか。

 こんな卑怯で卑小な私でも。


 またスコット神父は言った。未来はこっちだよと子供達が手を引いてくれると。

 今私は手を引かれているのかもしれない。こっだよと。この手をとった先に何があるのか分からない。それが正解かも分からない。しかし、何かが変わる気がした。

 だから——


「こんな私でよければ」


「ありがとうございます」


 私達の間にまた風が吹き抜けた。

 それは頬を掠め微かに、でも確かに涼やかな気分にさせてくれたのだった。

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