鑑定の儀
スーザンが起きてから鑑定の儀が行われる教会へと向かう。
通りは宿の窓から見たように露天が立ち並びお祭り騒ぎだ。
鑑定の儀は各地から人が集まるとあって、このような様相になっているらしい。
屋台にはイカ焼きに焼きそばにチョコバナナ、リンゴ飴。
前世でもお馴染みなものが売られている。中には、よく分からない素揚げやフルーツなどもある。
異世界ならではの食事もあるようだ。まぁそりゃそうか。文化が違えば食も異なる。
俺はよく分からない素揚げを買ってもらい、食べながら教会へと歩をすすめる。
なんか食感はイカっぽいのに味は白身魚みたいな食べ物だった。
教会へ着くと教会前の広場に人だかりが出来ていた。ゆうに千人はいるんじゃなかろうか? 凄い人だ。
こんな人数入るのか? と教会を見上げる。うん、入るねたぶん。めっちゃでかいもん。扉とか三メートルはあるんじゃない?
それに綺麗な彫刻がしてあって幻想的だ。
俺が教会に見惚れていると教会の中から、青い法衣をきた男が出てきた。
「ただいまより鑑定の儀を行います! 皆さま焦らずゆっくりと教会の中へと入って下さい!」
指示されたようにゆっくりと教会の中に入っていく。教会の中はリーネットの教会の作りと似ているが広さが桁違いなのと正面にある像が女神像だけでなく、他にもいくつかの像があった。全部で七体かな。それぞれが手に錫杖や武器を持っている。
人の列は進んでいき先ほどの教会然とした部屋から、大きな広間のようなところに出た。
正面の一段高くなったところに何やら水晶のようなものが置かれていて、その横に先ほどとは違う法衣の男が立っていた。
人がその広間へ入るのをしばらく見届けてから男が声を張り上げる。
「それでは只今より鑑定の儀を行います! 順番に前へ来て名前を伝えたのちこの水晶に触れて下さい! それで授かったスキルがわかります! では、一番前のあなたから」
そうして鑑定の儀が始まった。先ほどの神官に加え、記録係らしき神官、そして複数の神官達が水晶の後ろに待機していた。
これだけの人だ。なかなか順番が回ってきそうもない。暇だなぁ。
なんて思っていると時折、神官たちがおー! と声をあげている。
何か有用なスキルでもあったのかね。興味ないけど。だって、良いスキルほど教会や国に自由を奪われるんだよ。そんなのまっぴらごめんだよ。
俺が心の中でごちていると、一際大きな歓声が上がった。
あまりの騒ぎに広間にいた人達もざわざわし始める。
すると広間に一際豪華な法衣を着た男が入ってきた。
男は水晶を確認したのち近くにいた神官に何やら指示を出していた。
騒ぎが収まり神官の人だかりからこの騒ぎの張本人であろう人物が姿を表す。
長い綺麗な金髪にエメラルドのような緑の瞳、まっすぐな隆鼻に桜のような唇。
絶世の美少女だった。しかし、服はそんなに仕立ての良いものではない。普通の平民が着ていそうな服だ。
それがとてもアンバランスに見えて戸惑ってしまう。
この子にはきっと綺麗なドレスが似合う。
俺の横を先ほどの結果など興味がないような様子で通り過ぎていった。
一体、どんなスキルだったんだろうな?
少し気になった。
「次! そこの君!」
ぼーっとしてると神官が俺を指差していた。
あっ俺?
あーはいはい行きます行きます。
若干小走りで水晶の前へ行く。
「では、水晶に手を置いて下さい」
俺は言われたままに手をのせる。
果たして吉と出るか凶とでるか?
「これは……究極健康体?」
「初めて聞くスキルだな」
「どんなスキルなんだ?」
「字面からするに健康になるスキルでは?」
「それだけか?」
「いや、私もハッキリとは……」
神官達が口々に思ったことを口にする。
そう、なんでもない。ただ、健康になるだけのスキルですよ〜。だから何も特別なことはないですよ〜。
面倒ごとを避けたい俺は心の中でそう唱える。
すると一際豪華な法衣を着た男が前に出てきた。
「いかがなさいましょうニコル司教?」
「そうですね、名前だけではどんなスキルかはハッキリしません。今まで知られていなかったスキルである以上、検証は必須でしょう。まだ幼い時分ではスキルを上手く使えない可能性があるので、大体スキルが扱えるようになる10歳からこの者を教会預かりとします」
死刑宣告が出た気がした。
俺のスキルは怪我や病気を寄せ付けない。病気は分かりにくいが、怪我は一瞬で治癒するので調べられればバレるだろう。そして、おそらくどこまで怪我をして大丈夫なのか?などの検証も行われるだろう。下手したら、どんな脳の構造をしてるんだと脳を弄られたり……ヒーーー!!
終わった。
俺の人生は10歳で終わる。
今世はなおも短い人生だったな。
女神さま俺はやっぱり神になんかなれないみたいです。すいません。
意気消沈してからはほとんど記憶がない。
スーザンと一緒に馬車に乗り帰ったのは覚えてる。
でも、気づいたらいつもの孤児院だった。
メンタルズタズタ。俺って弱い……
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孤児院に入ると子供達が駆け寄ってきた。
「なあなあどんなスキルだったんだ?」
「凄いスキルの人いた?」
「街は楽しかった?」
などなど質問攻めにあう。
俺は小声で。
「10歳から教会へ行くことになった。スキルは究極健康体」
「なんだそれ? どんなスキルだよ? というか教会に行くことにってそれじゃ……」
と、ヒースが何か言いかけた時。
「私と一緒だね! ネロ!」
自然と俯いていた俺はその元気のいい声で顔を上げた。
マリエラが満面の笑みで俺の顔を見ていた。
「私が三年早く教会にいくでしょ? だから、ネロがきた時にはいろんなこと教えてあげるね! 心配しなくても大丈夫だよ! お姉さんに任せなさい!」
マリエラはない胸をその小さな右手で叩いた。
はっははは……マリエラはなんて眩しいんだろう。
それなのに俺は……まだ確定もしてない未来を妄想して一人落ち込んで……情けない。
そうだ、まだ確定してないんだ。そんな未来にならないようにすればいい。
体を弄りまわされるなんてまっぴらごめんだ。
そうだ俺は……強くなるぞ。
権力やそこいらの武力に簡単に屈しないほど強く。
それで俺の我を通してやる。
脳筋と笑うなら笑え。
俺は元科学者だが貴族社会のような人間関係で成り上がるのは苦手だ。
なら、正面突破あるのみ。
今ある力を最大限磨く!!
「ありがとうマリエラ!」
俺はマリエラの手を両手で握った。
「うん、よろしくねネロ」
こうして鑑定の儀は終わった。
そして俺は改めて決意を固めたのである。
もっと強くなると。
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その夜おれは部屋に入ると考えた。
ちなみに四歳になってからは共同部屋だ。孤児院の子供達全員と雑魚寝する感じで生活している。そんな子供達が周りでキャッキャッと走り回る中俺は考えていた。
さて、強くなるといってもどうしたものか?
タイムリミットは五年。
それまでにそんじょそこらの権力が簡単に手を出せない強さになる。
ここは異世界だ。前世と違って個の力が大きく影響するはず。
なので、この方針はそれほど馬鹿げていないと思う。
ただ、それは可能か?
そこが問題だ。
まずこういっちゃなんだが環境が悪い。共同部屋になってからは魔法の訓練も出来てない。今は魔力の増強に励むのみだ。あとやれることと言ったら魔力操作ぐらいか。これは、今までやってなかった。単純に魔法を練習してたら身につくと思っていたのでやらなかったのだ。だが、これからは寝る前にでもやった方がいいだろう。基礎は大事だ。そんな簡単なことを忘れてた。
あとは、魔法を存分に使える場所。それと出来れば剣術も学びたい。これらを満たす何かいい解決案は……
ボフッ!
顔の横に枕があたる。
「あっごめんネロ! 痛かった?」
マリエラが俺に笑いながら謝罪してくる。謝る気ねーだろ。
くそくそくそ、こうなったらやけだ!
明日院長に何か伝手がないか聞いてみよう。その際時と場合によっては俺の能力も開示しよう。それでいこう!
俺は頭にあたった枕を掴んでマリエラへと投げ返した。
「マリエラ! お返しだ!」
「キャー!」
こうして孤児院の夜は老けていく。
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翌朝、ミリアが作ってくれたスープを飲み干す。
ミリアはスキルが料理だ。現在、14歳のミリアは来年には孤児院を出る。仕事はスキルを活かして働きたいと考えているようだ。なので、一年程前からミリアが厨房に立つようになった。
「ミリア、今日も美味しかったよ。ありがとう」
実際ミリアが料理をしだしてから味が大きく変わった。
「喜んでくれたならよかったわ。ネロ……なんか思い詰めてる?」
「えっ? えっ? そんなことないよ! 全然いつも通り!」
俺はない力こぶを作ってみせる。
「そう、でも何かあったら遠慮なく言ってね。私達は家族なんだから」
「うん、ありがとう」
危ない危ない、緊張してたのが顔に出てたか。
俺は何事もなかったような顔をして中庭へと歩いていった。
午前中皆んなが遊んでいるのを隅で座って眺める。脳内ではあー言われたらこう言って、こう言われたらあー言ってとシミュレーションの真っ只中だ。
「ネロ! 遊ぼ!」
マリエラが手を差し出してくる。
「うん、今日はちょっとやめとくよ。こうやってぼーっとしときたい気分」
「大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫! 心配いらないからマリエラはまた遊んできな」
「うーん、わかった。でも、なにかあったらすぐ言うんだよ!」
「うん、ありがとう」
マリエラが皆んなのところへパタパタとかけていく。
さて、そろそろ行くか。
果たして俺の願いは叶うだろうか。いや、ここでつまずくわけにはいかない。是が非でも成功させる!
俺は手をグーにして胸元に掲げる。
気合い十分。いざ尋常に勝負!