孤児院の外へ
魔法を一通り試してからは、魔法の発動スピードの向上、種類を増やす事に力を注いだ。
また、体が大きくなったら魔力放出、圧縮を行い魔力量の増大に努めた。
そういえば話せるようになってから、ステータスと唱えてみたりしてゲームのような設定がないが試してみたが、反応はなかった。
この世界は目に見えて能力が分からない設定なのねと思っていたのだが、五歳になる直前で鑑定の儀というものがあると知らされる。
なに?ステータスわかるの?と少し期待したものの、鑑定の儀は授かったスキルのみを把握するものらしい。
スキルは神が与えしもの。有用なスキルを持つものは神に愛されているとされ教会が囲い込む。
また、剣聖技などと出た場合は国に囲い込まれ、将来魔王と戦うために訓練させられるのだとか。
なんか難儀なもんだね。スキル一つで人生を左右されるとは。
ちなみに年齢的に孤児院の他の子供達はすでに鑑定の儀を終えている。
最年長のミリアは料理、テファは裁縫、ドントは建築、ラステルは速読、そしてヒースは剣術。
ヒースは一人戦うスキルであることから皆んなに自慢している。
しかし、俺からするとマリエラが一番凄い。マリエラのスキルは治癒。
俺が生前望んだ人を癒したいという思いを具現化できるスキルだ。
治癒のスキルを持つマリエラは10歳になると教会で仕事をすることになっている。
今八歳なのであと二年だ。なんだかそう考えると寂しいものだ。
それまでにマリエラに治癒魔法を教えてもらうことは出来ないだろうか。
でもマリエラ治癒魔法使えないみたいなんだよね。
昔一回軽く聞いてみたら、さっぱりわかんない!って満面の笑みで言われた。
マリエラらしい。
そんな感じでどうしようかなぁと考えている内に五歳になり、鑑定の儀の日がやってきた。
鑑定の儀はこの町リーネットから北西に馬で三日行ったところの都市カサンドラで行われる。
カサンドラには大規模な教会がありそこで毎年春に行われる。
あっそういえば、この世界の暦は360日で一年。30日で一ヶ月。春を4月としてそこから12ヶ月スパンで年が回っていく。
つまり、前の世界とほとんど一緒というわけである。その他にも食べ物の名前だったり、動植物の名前なんかも同じものが多い。
案外、どっかで繋がっているのかもね。前世でもこっちのようなファンタジーの話があったし。
それはともかく今は鑑定の儀についてだ。
出発は明日。今年鑑定の儀を受けるのは俺だけなので付き添いのシスターは一人だ。俺を初めて見つけてくれたあのシスター、スーザンが同行してくれる。
スーザンは優しく、またちょっと筋肉質だ。筋肉質というのは口が裂けても言えないが、盗賊の一人や二人倒してしまいそうなので、頼もしい限りだ。
出発当日の朝。みんなが見送りしてくれた。
「いってらっしゃい!」
「すげースキルだったら隠すなよ」
「緊張しないようにね」
「無事に帰ってきてね」
などなど皆んなから一言ずつもらった。
馬車に乗り込み皆んなが見えなくなるまで手を振った。
なんか寂しいなぁ。ずっと一緒にいたもんなぁ……まぁでもしみったれてても仕方ない!
今は初めて外へ出ることを楽しもう!
何気に孤児院から出るの初めてだしね。
町は人がまばらで、畑がほとんどだった。家も点々とあるのみ。中心部には少し店なんかもあった。字が読めないのでなんの店かは分からないが、薬草の絵や武具の書かれた板が掲げてあったので、そうではないかと思う。
町を出ると見渡す限りの草原に街道が延々と続いている。
なかなか見応えのある景色だ。前世ではこんな風景、アメリカの西部とかに行かないと見れないのではないかと思う。俺はもちろん生前アメリカなどに行ったことはないので、この景色が新鮮にうつった。
「お尻は痛くない?」
スーザンが俺に気を遣って話しかけてきてくれた。
「今のところ大丈夫。ありがとね」
「そう、それなら良かったわ。痛くなったら言うのよ。膝枕でもしてあげるから」
スーザンの筋肉質な太ももはさぞ柔らかいだろう。
俺は笑顔を浮かべてありがとうと返しておいた。
そこからの旅は順調だった。街道は魔物も間引きされているのか、全然出会わない。
一応馬車のまわりには護衛の冒険者が三人ほどいるのだが、仕事がなくあくびなどしている。
このまま平和に目的地へと着いてほしいものだ。
と、そんな願いも虚しく出ました魔物。いやそりゃね異世界だもの。そりゃ出るわな。
馬車を取り囲むようにゴブリンと思しき生物が棍棒片手に佇んでいる。その数六匹。
すぐに護衛の冒険者が動いた。男の冒険者がゴブリンへ急速に接近すると首を一太刀。次のゴブリンへと駆けていく。
馬車を挟んで反対側の女の冒険者が短刀を両手に一つずつ持ち、ゴブリンへと接近する。跳躍しながら短刀を一線。ゴブリンの目を潰した。うめき声を上げながらタタラを踏むゴブリンの心臓をひとつき。こちらも苦も無く処理した。
残る一人の女冒険者はローブを纏い杖を持っていることから、魔法使いだと思われる。
魔法使いは何やらモゴモゴと口ずさみ杖をゴブリンへと向けた。
すると、ドッチボール大の火球が飛んでいきゴブリンを焼いた。
そのままの勢いで冒険者達は残りの三匹を処理。無事戦闘が終わった。
この戦闘で一番驚いたこと。
それは……えっ魔法って詠唱いるの?
昼休憩になり、俺は干し肉と硬いパンを食べ終わると女魔法使いのところへ向かった。
「すいませんちょっと話いいですか?」
女魔法使いはまだパンをふがふがと齧っていたが、いいわよと返事してくれた。
「すいません、まだ食事中なのに」
「もう食べ終わるところだし大丈夫よ。それで話って何?」
「あの……変な事を言うようだったらすいません。先ほどの戦闘で詠唱をしてるように見えたんですが、魔法って絶対詠唱が必要なんですか?」
「詠唱は絶対ではないわ。でも、無詠唱ができる魔法使いはとても稀少ね。千人に一人とかじゃないかしら。私も詠唱短縮とかはできるけど……それが限界。ただ、詠唱をすると威力が上がるって報告もあるわ。だから、覚えておくことにこしたことはないのかもしれないわね。あなた魔法使いを目指してるの?」
「あっはい実はそうで! 将来魔法使いになって皆さんみたいに魔物と戦いたいなーって! ははは!」
言えない。俺が無詠唱でしかもこの魔法使いさんより威力の高い魔法を使えるだなんて……というか、そんなの暴露したら面倒ごとに巻き込まれる予感しかしない。ここは徹底的に隠し通す!
「そう、ならこの後の鑑定の儀で有用なスキルが出るといいわね。私は魔力操作のスキル持ちよ。魔法関連のスキルはいくつかあるけど、それでも魔法が使える人は百人に一人とかじゃらないかしら。つまり狭き門ってわけね。てっごめんなさい! 夢を潰すような事言って!」
女魔法使いは胸の前で両手を合わせて謝ってきた。
「いや、気にしてないですよ。僕もなれればいいなー程度なので! そんなに気負いしてないんで大丈夫です!」
「そう? ならいいんだけど。でも、魔法使い以外でも冒険者にはなれるし、夢は持ち続けてね」
「はい! 将来冒険者になったあかつきにはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
そう言って腰を直角にまげ深くお辞儀した。
すると女魔法使いは大笑いしながら、ええよろしくと涙目で片手を差し出した。
俺はその手をとり固く握手した。
その後も旅は順調に進んだ。魔物は時々出たが、いずれも三人の冒険者により瞬殺された。
そして、旅も三日目の夕方。遠くに大きな壁に囲まれた街が見えてきた。
あれが今回の目的地、カサンドラだ。
検問で何時間も順番待ちし、街に入る頃には夜になっていた。
冒険者達にお礼を言い別れたあとスーザンと共に宿をとるべく街の中を歩く。
街では仕事終わりの職人や冒険者がそこかしこで酒を飲んでて陽気な笑い声が聞こえる。
人族だけでなくエルフや獣人、ドワーフなんかもちらほら見かける。
街の陽気な雰囲気とザッ異世界の光景を目の当たりにして俺のテンションは鰻登りだ。
あっちをキョロキョロ。こっちをキョロキョロ。
「そんなにキョロキョロしてたら危ないわよ。私に捕まりなさい」
スーザンに言われその逞しい腕を掴んで歩く。
俺ホントに異世界に来たんだ……としみじみと実感する。
今世ではきっと後悔のない人生にしてみせるぞ。
街の明かりに照らされて、俺はそう改めて決意した。
翌日、小鳥のさえずりを聞きながらスーザンの腕の中で目覚めた。
朝チュンかな? やだっもうお嫁にいけない!
と、アホなこと言ってないで窓を開けて外を眺める。道には店がひしめきあって出店されており、人の声で賑わっている。
夜の街も良かったけど、昼もいいなーとニンマリする。
スーザンが起きたら支度して出発だ。
今日はついに鑑定の儀。
果たして俺のスキル、究極健康体はどう評価されるのか?
面倒な事にならなければいいんだけどなー。