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転生とスキルと

 ん? なんだここは?

 何か暖かいものに包まれてる。これはお湯?

 目が開かない。息もできない。でも苦しくはない。


 そうか、ここはお腹の中か。

 転生すると言われていたのでその事実がすんなりと入ってきた。

 しばらくすると周囲を覆っていた水が排出されていった。


 あー破水か。そろそろだな。

 頭からとても窮屈な穴へと押し込まれる。

 痛い痛い痛い! これなに? いきなり苦行だよ! 

 

 心の中で喘ぐも無常にも体は少しずつ進んでいく。

 そして、瞼越しに光がさした。

 あー俺産まれたんだ。

 その感慨と共に、大声で泣いた。

 肺に空気が入ってくる。

 その空気はとても澄んでいた。


-----


 現在俺は、毛布に包まれて雪がしんしんと降る外に放り出されていた。

 いや、カゴみたいな中には入ってるよ。でもさ、こんな真冬に赤子を外にほっぽり出すとかどんな親だよって思うよね。

 まぁ結論から言うと俺は望まれて産まれてきた子じゃなかったみたい。

 なので今こんな状況で教会と思しき建物の前に放置されている。

 ただでさえ生きづらい世界だって聞いていたのに、捨て子とはさらにハードモード。

 どんだけ魂の強度とやらを上げたいんだよ。

 まぁでも、スキルはもらってるしトントンなのか? 

 いや、トントンじゃダメだろ。

 ここ厳しい世界なんだろ? 

 だからスキルくれたんだろ? 

 そこでトントン。

 この状況はマイナスだよちくしょう。

 女神に騙された。


 心の中で女神に毒付いていると、教会の扉が開いた。一人のシスターらしき人が出てきて、俺を見つけるやいなや駆け寄って俺を抱きかかえてくれた。

 何か言葉を話しているが、理解できない。

聞いたことのない言語だ。

 シスターは俺を抱えて教会の中へ入っていく。

 教会は赤い通路の先に女神と思われる像があり、通路の左右には椅子が設けられている。いわゆる誰もが想像する教会って感じだ。


 シスターは教会側面にある扉へと入っていき、俺を他のシスターに預けた。

 そのまま元々の用事へ向かうのか、入ってきた扉から出て行った。

 預けられた俺は抱かれることしばし。暖炉のある暖かい部屋へと入った。

 するとその暖かさから、急に眠たくなってきた。

 俺は抗うことの出来ない睡魔に襲われ、そのままそっと目を閉じた。


-----


 半年が経った。俺は今日も今日とて赤ちゃんしている。お腹が空いたら泣いて人を呼び、眠たかったら眠り、もようしたら遠慮なくぶっ放す。

 そんな毎日だ。たまに子供達が俺の周りに群がってキャッキャッ言ってる。

 言葉は分からないがきっと可愛い可愛いと騒いでいるのだろう。

 ふっ存分に我の可愛さを堪能するがよい。くるしゅうないくるしゅうない。はっはっはっー!

 とか、ちょっと調子にのってみたが、本音を言うとずっといてほしい。

 だって暇なんだもん!


 何もやることないんだよ。日がな一日ベットの上。出来るのは少しの寝返り。後は言葉になってない声をあげるぐらい。

 暇そうで死にそう。こういう時ラノベとかだと魔力操作を覚えたりするんだよね。

 俺もそれにならってやろうとしたさ。

 でもさ、無理なんだよ。

 そもそも魔力なんてものが存在しなかった世界で生きてきた俺からしたら、魔力がなんなのか全く分からない。

 前世で霊を見ようとする努力に近いかもしれない。

 全く掴みようがない。


 そんなこんなで無為に毎日を過ごしていたのだが、ある時転機が訪れた。


 ついにつたい歩きが出来るようになり、ベットの縁を掴んでベット内をテトテトと歩いていた。

 目線が高くなり部屋を見ることができた。

部屋は暖炉と古びたソファそして背の低いテーブルがあるのみで、とても簡素だった。広さも5畳ほどだろうか。

 それでも、今まで天井を見上げることしかできなかった身としては、とても世界が広がった感じがした。


 つたい歩きをし始めて一カ月ほど。ある時ふっと足を踏み外してしまい額をベットの縁に盛大にぶつけてしまった。

 これは絶対特大のたんこぶができるやつだ。

 部屋には誰もおらず俺は一瞬大声で泣いて人を呼ぼうかと思った。


 だがその必要はなかった。

たんこぶは出来た。手で額を抑えていたのでそれは確認した。しかし、少し痛みがしたと思ったらまるで時を遡るようにたんこぶがなくなり、元の綺麗なおでこに戻った。


 え? なにこれ? 魔法? いや違う。

 これが俺がもらったスキル、究極健康体アルティメットフィジカルの効果なんだ。

 すげーな、厳密に怪我をしないわけではないが、速攻で治ると。再生に近いのかな?


 でも、待てよ。たんこぶって治る時、皮膚の下にある血液が下の組織に吸収されて治るよな。

 究極健康体はこれを早めているのか? 

 それとも、中の血液をどこかへ飛ばしているのか?


 究極健康体の効果が怪我全体に効果があるならば、中の血液を飛ばしてる線は薄い。そんな症状に応じて臨機応変に対応を変えるというのはとても効率が悪い。


 ならば血液の吸収を早めたと考えるのが妥当だろう。

 そこで疑問に思う。


 これは時に干渉してるのか?


 ここで思考実験をしてみた。仮に指が切断されたとする。究極健康体の力で指が治る時、切断された指が逆再生のように元に戻るのか、切断された指はそのままで新たに組織が生まれ新しく指を形成するのか?


 これは、今答えを出すことはできない。

 なぜなら、たとえば切断された指を速攻で消してしまったとしても、時を戻して治るのなら消えた指が復元し元に戻ると考えられるからである。

 時に干渉していたらなんでもアリなのだ。だが、直感的には後者だと思われる。

 やはり、消えた指が復元され元に戻るというのはいささか強引な気がする。


 なので、今は仮に新しい指が生まれると考える。

 指が新たに形成されるなら、指の体細胞が全ての組織になれる万能細胞へと変化し新たに指を形成したとみなすべきか。


 ここで自分の中で復習だ。細胞はもともとどんな組織にでもなれる万能細胞だ。それが分化という特定の組織になる過程を経て、幹細胞、そして特定の細胞へとなる。

 分化の過程で遺伝子にロックがかかり特定の細胞にしかなれないようになる。

 このロックを人為的に外し幹細胞へと戻したものが、IPS細胞である。

 うん、前世の記憶は薄れてないな。


 ここで話を戻そう。

 指の再生の思考実験から仮に時を遡っているわけではないということは、最初考えたたんこぶが治る仕組みは、皮膚の下の血液がどこかにいったということになる。


 つまり七面倒なことに、このスキルはご丁寧に症状に応じて治し方を変えている可能性があるのだ。

 そう考えると凄いスキルだな。


 では、ここでまた疑問が浮かび上がる。


 失った血液は何処へ行ったのか?


 また、それをなすための力はどこからきているのか?


 血液は空中に霧散したと今は考えておこう。

 より重要なのはスキルの力はどこからきているのかということである。


 よく考えれば不思議である。よくラノベなどでスキルは出てくるが、魔力を消費するスキルなどは聞いたことがない。


 スキルは技術のようなもので、魔力は必要ない。そう説明されるものが多い。中には神が力を与えているといった例もあるが正直釈然としない。


 神は基本的にどの世界でも不干渉のスタンスを貫いている。

 それが、スキルの時だけ力を与える? 

 スキルなんて世界中でそれこそ今この一瞬にも途方もない数の行使がされてるのに、それを一つ一つ見守っている?

 そこまで過保護だろうか? 

 確かに俺は神に実際に会ってスキルをもらえた。交渉も出来た。

 しかし、神は言った。

 人生は修行だと。そしてそれは神へと至る道だと。

 ならば、他の神が力を貸している状態で神に至るというのは違和感がある。


 きっとスキルは自力の技なんだ。そうでないと辻褄が合わない。


 なら話はまた元にもどる。


 スキルの力はどこからきているのか?


 これを確かめるにはトライアンドエラーだな。

 元研究者の血が騒ぐぜ!


 そこから俺はシスター達がいない時をみはからって何度もたんこぶを作った。

 そして、それが治る様子を観察、考察の日々を繰り返した。


 そうこうしてる内に一歳になった。

 ちなみに、たぶんだが俺の誕生日は孤児院の前で見つかった日だ。


 皆んなからおそらくお祝いの言葉をもらいながら、シスターや子供達がお手製のぬいぐるみをくれたりした。

 ささやかだが嬉しかった。

 ぬいぐるみはヨダレなどで汚さないように丁寧に扱った。

 こういうのは大事にしなきゃね。


 そして、また研究の日々。

 いつ終わりが見えるか分からないこの感じ。思い出すな〜。


 などと感慨に耽っているとその時は突然きた。


 いつものようにベットの縁で額を打ちつけ、たんこぶが出来たのを手で確認しつつ周囲を確認する。

 しかし何も起こらない。

これで何度目か……と落胆しつつそろそろ視点を変えて自分の内に意識を向けるようにしてみた。

 

 すると……感じた。

 たんこぶが治る一瞬、胸のあたりに仄かに暖かさが宿ったような気がする。


 興奮した俺はもう一度試してみる。やはり感じる。意識しなければ分からないであろうほどの暖かさ。


 これはなんなのか?


 魔力? 

 いや違う。それなら何かが減った感覚なり、魔力が移動した感覚があるはずである。

 何も減らず、また胸のところだけの感覚だとは思えない。

 考えられるとしたら……スキルの発動キー。


 力がどこからくるのかは今も分からない。だが、スキルを発動させるキーとなるものはあるのではないかと思っていた。


 神がスキルを与える。

 スキルの行使は神の手を離れている。

 ならば、自分自身の中に発動のきっかけがあってしかるべくである。

 それが、魔法刻印や魔法陣のようなものなのか、それとも別の何かなのかは分からない。

 しかし、確かに存在するのだ。

 発動キーが。


 一歩前進である。

 後は、この発動キーがどこに干渉してるのか? 

 それがわかればスキルの力の源がわかる。


 俺は、瞳に強い意志を孕んでまた頭を打ちつけた。


 てか、これ自傷行為だよね、今更ながら。

 みんなは真似しないでね。

 て、誰に言ってんだか……

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