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神との邂逅

 気がつくと見渡す限り真っ白な空間にいた。


「ここどこだ?」


 一人ごちると、いきなり目の前に絶世の美女が立っていた。ただ存在を意識しないとすぐに姿を見失いそうになる。美女ということは分かるが具体的にどう美女なのかも頭に残らない。

 不思議な感覚だ。


「よく頑張りましたね」


 存在が希薄な美女が急に褒めてくれた。褒めてくれてもなんのことか分からないと、どう反応していいのか分からない。

 俺がなんとも言えない顔で無言を貫いていると再度声をかけられた。


「失礼しました。困惑させてしまいましたね。まずは自己紹介から。私は天界に存在する女神の一柱。ユリネラと申します。この度はあなたへの状況説明とこれからの事について話したく参りました」


「はぁ……」


 神様とかいきなり言われてもなんのこっちゃって感じである。

 こんな反応になるのも許してほしい。


「まずは状況説明から。あなたは残念ながら先ほどお亡くなりになりました。そして、その魂の強度が一定を越えたので、この場へとお呼びしました」


……やっぱり意味が分からない。死んだのは分かる。末期の膵臓がんだったのだから。

 その後の魂の強度がどうのという部分が分からない。


「あの、魂の強度って……?」

 

「魂の強度とはそのまま言葉通りです。魂の強さを表します。これが強いとより高次の存在へと至れます。具体的には私のような神などです」


 うーんと、魂が強いと神様になれるの? なんかまだ釈然としないけど、とりあえず納得しとくか。でないと話が進まない。


「その、まだよく理解しがたいところはあるんですが、魂の強度が一定を越えたってのはどういうことですか?僕が神様なんかになるってことですか?」


 自分で言ってて恥ずかしくなる。なんだよ神になるって……


「まだ神にはなれません。あなたは先の一生で非常に魂の強度をあげました。不遇な境遇に置かれながらも常に前向きに考え努力してきた。こんな言葉を聞いたことはありませんか? 人生は修行だと。なので徳の高い人ほどその一生は短い。これは、事実です。人生は神が与えた試練。そこで魂の強度を上げ、やがては神へと至ってもらう。それがこの世の仕組みです」


 うーん、なんとなく分かった気がする。なんとなくだけど。


「そう……なんですね。では僕はまだその試練が足りないって事なんですね」


 なので分かった部分だけ確認してみる。


「はい、そういう事になります。しかし、とても惜しかったのですよ。途中と最後、あなたは自分の境遇を嘆きましたね。それが、あと一歩魂の強度を高めてくれませんでした」


 それは鬱になった時と最後の記憶にある惨めな懇願だろうか?

 あれだけで足りない判定になるのか。あれは誰だって思うだろ。思わないとしたらそれはもう人間では……そうか、だから神か。

 少し自分の中で繋がった。


「では、僕はまた人生という修行に出て魂の強度を高める旅にでるんですか?」

 

「はい、そうなります。それがこれからの事です。通常なら以前と同じ世界に生まれ直し生きて頂きます。ですが、冒頭でも述べた通りあなたの魂は一定の強度を越えました。以前と同じ世界に生まれ直しても、どんな劣悪な境遇だろうとしっかりと耐え、徳を積みすぐに亡くなるでしょう。それではあなたの魂の強度は上がりません。なのであなたには以前よりも生存が難しい世界へと行ってもらいます」


 え? それってもしかしてラノベとかでよくある異世界転生とかいうやつ?

 でも待て、記憶がそのままとは限らない。消去されて生まれるなら転生とは言わない。


「あの、記憶とかは?」


「通常なら消去してから生まれ直してもらうのですが、あなたの場合辛い過去を覚えていた方が魂の強度が上がりやすいと判断し、記憶はそのままでの生まれ直しとなります」


「マジか……」


 異世界転生きちゃったよこれ! 病弱で床に伏せる事の多かった俺は読者を好んでしていた。その中でも、夢に溢れて空想に思いを馳せる事のできるラノベは大好きだった。

 自分もこんな一生を送ってみたい。そう何度思ったことか……ヤバい感激で涙が。


「大丈夫ですか? そんなに悲観的にならずとも、あなたには少しアドバンテージを与えます。辛い過去を背負ったまま、以前と比較して生きづらい世界へ行ってもらうのですから」


 転生特典キターーー!! 

 なになにどんな特殊な能力くれるの?

 それとも選ばせてくれる? 

 いや、まだ能力と決まったわけではないか……果たしてどんなアドバンテージなのか?


「アドバンテージってどんなのですか?」


「あなたが行く世界には一人につき一つスキルが与えられ生まれてきます。それをあなたは三つ好きなものを選ばせてあげます。それをもってアドバンテージとさせてもらいます」


 すんげーアドバンテージきたー!!

 選ばせてくれるの? 

 いやー何選んじゃおうかなー?

 剣術? 魔法適正? 鑑定? 

 いやー夢が広がるね。


 ……いや、待て。違うだろ。俺が望ぶものはそんなものじゃない。第一に選ぶのはアレだ。アレしかない。


「それではこのスキル欄から自由に三つ選んで下さい」


 目の前に透明の板のようなものが現れ、そこにスキル名がズラーと載っていた。指でスクロールすると下のスキルを見ることができる。

 まずはあのスキルだ。それ以外は正直おまけだ。

 下に指をスクロールさせ、そのスキルを探していく。

 下へ下へ下へ……うん?


「あのースキルってこれだけですか?」


「はい、それだけです」


 それだけと言っても千はあった。

 しかしない! 

 俺が求めてたスキルがない!


 それは『健康』!

 あんな前世だったんだ。こう望むのも仕方ないだろう。病気や怪我さえなければどれだけ楽だったか。どれだけ人生を楽しめたか。

 だから、このスキルだけは絶対外せない! 

 絶対にだ!


「あの健康とかってスキルないんですかね?」


「健康? それはスキルではなく状態では?」


 確かに言われればそうだ。しかしラノベの中には健康をスキルにもらってるものもあった。そう考えるとあっても不思議ではないのだ。だから食い下がる。


「確かに状態かもしれません。でも、状態異常耐性なども状態の変化じゃないですか?なら、スキルとして成立させてもいいと思うんですが……」


 状態異常耐性とは毒や精神障害なんかを防ぐスキルだ。

 体を異常な状態から正常に保つと言う点では状態の変化と言える。


「それも一理ありますね。ではこうしましょう。選べるスキルを三つから一つにして新しく健康体になるスキルを作りましょう」


「いっいいんですか!? それなら是非お願いします!」


「しかしスキルが一つだけになるのですよ? ホントにいいんですか?」


「いいんですっ! 健康であることがいかに大切か俺は知ってるんで!」


 興奮して一人称が俺になってしまった。

 でも神様は特に気に留めた様子はない。


「では、制作にあたります。しばしお待ちを」


 それから、神様は空中で指を動かしてウンウン唸りながらスキルの作成を行ってくれた。

 10分ほど経った頃だろうか、神様ができましたよと声をかけてくれた。


「名前は究極健康体アルティメットフィジカル。怪我はおろか病気にも絶対かかりません。しかし、それだけです。今からあなたが行く世界では少し物足りないかもしれませんよ。ホントにいいんですね?」


「はい、構いません。ところで僕が今から行く世界ってどんなところなんですか?」


 まぁスキル欄を見るに大体予想どおりだとは思うが。


「そうですね、言うのが遅くなってしまいました。あなたがこれから行くのは剣と魔法の世界。魔物が跋扈し魔王が存在し、数多の種族が争いを行っている過酷な世界。その名をルーテネジア。文明は中世のそれに近いので、そこも現代日本で生きてきたあなたには辛いかもしれませんね」


「いやいやいや! それでいいです! むしろそうでないと!」


「そうですか……分かりました。では、ここにずっと留まらせるわけにはいかないので、そろそろ行ってもらいましょうか」


 ついにくるのか。

 果たしてどんな世界なのか? 

 興味が尽きない。

 絶対来世では良い人生を送ってやる。

 意気込む俺をよそに神様が指をパチンと鳴らした。


 その音と共に俺の意識は暗闇へと沈んでいった。


【女神視点】


「ふう、行きましたか」


 今回の移送者は少し時間がかかった。何せないスキルが欲しいと言い出したのだから。

 なので急遽、三つのスキル枠を一つにし、余った神力をもってスキルを創造した。

 名前は究極健康体。彼にも説明したとおり怪我と病気にならない、いわば状態異常耐性の上位互換のようなスキルだ。

 怪我になった場合超速で治り、免疫力を最大にし病気を寄せ付けない。

 元々、状態異常耐性、怪我を瞬時に治す超再生というスキルはあったので、そこに病気にならないという新たなスキルを加え、三つのスキルが一つになったと考えれば妥当なスキルに思えた。


「果たして彼は生き残れるでしょうか?」

 

 女神は心配した。

 しかし、女神は見落としていた。これが、生前生物学を学んだものからすると、とても魅力的なスキルであることを。


 この力をもって彼は世界に名を轟かせることになる。そしてゆくゆくはまた出会うのである。

 この女神ユリネラと。

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