ダンジョンアタック
やっとダンジョンに入れるところまで来た。目の前には二メートルほどの鉄の両開き扉。
雰囲気あるなー。
それをゆっくり両手で開いていく。
中に入るとそこは洞窟のようになっていた。壁に所々青く光る石があってそれが僅かな光源となっている。だが、全体的に薄暗い。
師匠がスクロールを取り出しそれを開いた。すると野球ボール大の光の玉が空中に現れた。
「師匠、それは?」
「光のスクロールだよ。私は光属性は使えないんでね。持ってたものを持ってきたんだ」
「光なら俺出せますよ」
俺は右手からバスケットボール大の光の玉を生み出す。通路が明るく照らし出される。
「ああ、だけどダンジョンは何が起こるか分からない。魔力は温存しといた方がいい」
「そうですか、わかりました」
了承の意と共に俺は光の玉を消した。
部屋が少し明るい程度に戻った。
「では、行くか」
「はい!」
さぁ初のダンジョンアタックだ! 気合いを入れていこう!
と、思ったのに最初の方は人が多くてモンスターはもう倒されてしまいいなかった。
俺が肩透かしをくらってしばらく歩いていると前方に背の低い人影のようなものが見えた。
師匠が俺を片手で静止する。
「コボルトだ。弱いがこの暗さだ。気を抜くな」
「わかりました」
いつもの如く俺が始末に向かう。ここ数ヶ月師匠はほとんど魔物と戦っていない。俺が気を抜いて取り逃した魔物を狩るぐらいだ。なので、このダンジョンもボス含め俺が基本的に倒すことで話がついている。
ちなみにこのC級ダンジョンは地下五階層まである。
階層毎に出るモンスターが変わり、一階層はあのコボルトというわけだ。
コボルトは全部で三匹。まだこちらに気づいていない。
俺は先手必勝で攻める。
身体強化を発動し一気に距離を詰め刀を一閃。一匹のコボルトの首を落とす。
仲間がやられてやっとこちらの存在に気付いたのか、コボルト二匹が戦意を剥き出しに飛びかかってきた。
俺は引かずにそのまま突っ込みコボルト二匹の間をすり抜けた。
両者が動きを止めた時、コボルト二匹の体が横にズレた。
勝負あり。
俺は刀を鞘に収めた。
「ネロにはこの階層は余裕だね。というか当分は苦戦しないだろう。でも、4階層からは、糸を吐いて身動きを阻害してくる蜘蛛の魔物が、五階層には麻痺毒を吐いてくるカエルの魔物が現れる。初めてのことだしネロでも少し苦戦するかもね」
糸を吐く魔物は糸にさえ当たらなければどうということはない。身体強化をフルに発動して対処しよう。麻痺毒を吐く魔物はたぶん俺からしたらザコだ。俺のスキル究極健康体で麻痺は無効化されるはず。でも、スキルのいい検証になるかもなぁ、試しにわざと受けてみるのもいいな。
なんて、考えていると師匠が俺が臆したと思ったのかニヤニヤしている。
「なんだ? ネロでもやっぱり怖いかい?」
「いえ、ちょっと考え事をしていただけです」
「ホントかな〜まっいざと言う時は私がいる。ネロは気にせず全力を出せばいいさ」
全力か……そういえば今まで出したことがないな。師匠との訓練でも主に剣技と魔法の組み合わせを鍛える感じだし……なりふり構わず剣を振るって魔法を放ったことがない。
このダンジョンで全力は出せるだろうか。少し期待してしまうな。
その後も探索は進む。ダンジョンは広く地図がなければ一階層を攻略するのにも一日以上かかる。
カガミ師匠は一度このダンジョンを攻略しているので、道は分かっているはずだが、教えてはくれない。
このダンジョン攻略もあくまで俺の訓練のため、とのことだ。
あっちなみにダンジョンで倒した魔物はしばらくするとダンジョンに吸収される。栄養を無駄にしないためかね。ダンジョンが生き物と言われるのが分かる気がする。
手探りでマッピングしながら進み、一日が終わろうとしている頃、やっと二階層へと下る階段を見つけた。
ちなみにここに来るまでに宝箱はあったが、錆びたナイフなどロクな物がなかった。
「ふぅ〜やっとですね」
「お疲れ様。今日はこれぐらいにして引き上げよう」
「はい、もうお腹ペコペコです」
ダンジョンに入って食べたのは干し肉と硬いパンのみ。
育ち盛りの体には物足りない食事だった。
「では、早くいつもの酒場へいくか」
「はい、そうしましょう!」
こうしてダンジョンアタック初日は終えた。感想としては魔物は意外とあっけなくマッピングがきついのと腹が減るといったところか。
そうだな、明日は少し多めに昼食を持っていくとしよう。
ダンジョンアタック二日目。
この階層でも人は多かったが一階層よりマシだった。この二階層にはホブゴブリンが出た。普通のゴブリンより二回りぐらい体が大きくて筋肉質だ。三匹ほどでよく行動していて、連携して攻撃してくる。
俺は魔法剣士として立ち振る舞い、刀を振りながら魔法を放ちその連携を防いだ。
よってホブゴブリンも俺の敵じゃなかった。
その後探索は進みまた夕食前には下の階層へと続く階段を見つけられた。
今日は昼食を多く持ってきたので、そこまでお腹は減っておらず余裕があった。
ちなみに宝箱からはまたロクな物が出てこなかった。C級じゃそんないい物は出ないのかね。残念だ。
ダンジョンアタック三日目。
人がだいぶ減った。もうほとんど会わない。三階層の魔物は豚の姿をしたオークだった。今までの魔物と違うのはこいつら防具とかつけて完全武装してる。武器も剣や槍などを持っていた。
おい、宝箱はロクなもんがないのにどっからそれ手に入れた!? と思ったがカガミ師匠が言うには殺した冒険者から奪ったものらしい。確かにそう言われるとサイズが微妙にあってないのとかいる。
ともあれ、この階層から死者が増えるらしい。Dランクでありながら無理をして攻略しようとした冒険者がその餌食になるのだとか。
これは気をひきしめていかなければ……
そう思っていたのだが、一階層、二階層と変わらず余裕で倒せてしまった。
もしかして俺強い?
と自惚れそうになったが、師匠との訓練ではまだ勝てないでいる。剣技も魔法の連携もまだまだだ。
それで強い?
はっ寝言は寝て言わんとね。
ということで、自分に喝を入れ先に進んだ。
今日は階段を見つけるに至らなかった。一階層と二階層を突破してこなければならず、時間がかかってしまったのだ。
これからさらに時間がかかることになるだろう。
転移魔法陣とかあればいいんだけどなー。
まっそんな便利なものはないか……
ということで俺はショートカットなど使えず正攻法で攻めていくことになる。
今日は何食べようかなー。そうだ、豚肉がいいな。
ダンジョンアタック四日目。
昨日マッピングしたところまで行き、そこからまた地道に探索。
昼を回った辺りで下の階段を見つけた。
早速、四階層に足を踏み入れる。
四階層にはダークスパイダーという蜘蛛型の糸を吐く魔物がいた。サイズは一メートルぐらい。虫嫌いは発狂するだろうね。そんなに苦手意識のない俺でも嫌だもん。
糸に絡め取られたら厄介なので当初考えていた作戦の身体強化を全開にして逃げ回り、即斬る、もしくは魔法で攻撃するようにした。
作戦は成功。あっけなく退治することができた。
またマッピングしていき夕方頃には戻ることにした。
ちなみに時間が分かるのはカガミ師匠が時計を持っているからである。
前世の時計と違って魔石で動く時計らしい。ファンタジーだね。
ダンジョンアタック五日目。
夕方頃にやっと階段を見つけた。やはりかこまでくるのに時間をとられている。でも、仕方ない。地道に行くとしよう。
ダンジョンアタック六日目。
今日はダンジョンに入る前に師匠が露天で麻痺耐性のある指輪を一つ買ってきた。
「今日から五階層だ。五階層には麻痺毒を吐くワイルドフロッグが出る。だから、ネロの分の麻痺耐性の指輪を買ってきた」
「あれ? 師匠の指輪は?」
「私はもう持っている」
師匠の指には既に指輪が嵌められていた。まぁ考えたら一回攻略してたら持ってるか。
「それでは行くか」
師匠が前を歩き出す。俺もそれについて行った。
時間がないので五階層まで一気に駆け降りていく。今までは俺の訓練のためいちいち魔物も倒していたが、基本スルー。道が通れない場合だけ瞬殺した。
その甲斐あって昼前には五階層へと続く階段のところへ到着した。
さて、最終階層だ。気合いを入れていこう。そう意気込み俺はそっと師匠が渡してくれた指輪を外した。
五階層を少し行くと毒々しい紫色をした一メートルぐらいのカエルがいた。
アレがワイルドフロッグか。
早速、麻痺毒とやらを放ってくれないだろうか?
そう思い何もせずにいるとカガミ師匠から声がかかった。
「なんだネロ? 毒を警戒しているのか? 心配せずとも毒が吐き出されるスピードはそんなに早くない。ネロなら十分避けられる」
「そっそうなんですか? でも、念には念をってねーはははっ」
「まぁ好きにしたらいいが……あまり時間をかけると他のフロッグ達も寄ってくるからな。気をつけろ」
「はい」
さて、一応の言い訳はたった。後はわざと麻痺毒にかかればいい。
そう思っていた矢先、ワイルドフロッグが口から黄土色の痰のようなものを吐き出した。
あれか!
俺はわざとその痰を避けずに受けた。
ネト〜と汚い痰のような物が体に纏わりつく。
一瞬体全体が硬直したような気がしたがすぐに元通りになった。
それにしても、うへ〜実験の為とは言えこれは失敗したかも。せめて霧とかなら……
「ネロ! 大丈夫か!?」
カガミ師匠が慌てて駆け寄ってきた。
「あっはい、指輪が効いているようでなんともないです」
「そっそうか、ならいいんだが……なぜ避けなかった?」
「うーんと、指輪の効果がどんな感じなのか知りたかったんです」
それを聞いてカガミ師匠が呆れる。
「お前ってやつは……とりあえずそんな格好では戦う気にならんだろ。あのワイルドフロッグは私が倒すからネロはタオルで体を拭いてろ」
「はい、すいません……」
俺が体を拭き終える前にカガミ師匠が戻ってきた。
まぁカガミ師匠なら瞬殺だよなー。
あれ? 顔が厳しい。
「ネロ、あんな危険な真似はもうよせ。魔物相手では何があるかわからんのだからな。例えばその粘液が麻痺毒じゃなかった可能性だってある。そうなれば助からなかったかもしれない。私はお前を失いたくない。分かったな?」
「はい、すいません。以後気をつけます」
俺はしゅんと見せつつ内心で謝っていた。
何故なら、スキルの検証のため今後も自分を使った実験をするつもりだったから。
これだけは譲れないんです師匠。
ホントすいません。
体を拭き終えて五階層の探索を続けた。
ワイルドフロッグは油断しなければ難なく倒せた。もう、あの麻痺毒にもかからないようにした。
実験は済んだからな。
後は考察だ。