Dランク
初依頼をこなしてから、同じ内容の討伐を毎日行った。
また、討伐は三時頃には十分な数をこなせるので、それから夕方過ぎまでは師匠と訓練することになった。
終わったら報酬をもらって夕食。そして、宿へ。宿では寝る前に魔力圧縮と魔力操作、魔力放出を行い気絶するように毎夜眠った。
そんな日々を繰り返して二週間。ギルドで今日の報酬を受け取るといつもはそれでお疲れ様でしたと送り出してくれる受付嬢が、俺達を引き止めた。
「ネロ様はこの二週間で一定の実力を認められましたので、今日からE級となります。こちらプレートです。おめでとうございます」
おーもうランクが上がるのか。これは嬉しい。
「ありがとうございます」
ひとまず礼を言っておく。
「これからはDランクの討伐依頼も受けることが可能なので、それも考慮にお入れ下さい。ネロ様はギルド内でも有望視されてますので、どんどん依頼をこなして頂けると助かります」
そうなのか。そんな大層なもんでもないがね。
……ちょっと師匠ニヤニヤしない。
「わかりました。可能な限り尽力させて頂きます」
「はい、よろしくお願いします」
受付嬢がペコリと頭を下げた。
その後、その日はいつも通りの日常を送った。
翌日。
ギルドの依頼掲示板の前にて。カガミ師匠が腕を組んで依頼を眺めていた。
そして——
「これだ! 今回はこの依頼をこなすぞ! ネロ!」
師匠が依頼書を見せてくる。
依頼書を見せられても俺は字が読めない。
「俺、字読めませんよ」
「むっそうか。そうだったな。いろいろと不便だし稽古の時間の半分を字の学習に充てるか」
師匠が顎に手をやり考え込んでいる。
しかし、それは妙案だ。俺も字は習得したい。
「そうですねお願いします。俺も字は覚えたいので。で、その依頼はどんな内容なんですか?」
「あーこれか。Dランクの木の魔物、キラーウッドの討伐依頼だ」
「キラーウッド……物騒な名前ですね」
「まぁ名前は物々しいが、所詮Dランクだ。油断しなければ私たちの敵じゃないよ」
「そうですか。ならいいんですが」
「場所は森の外れの湖の近く。コイツらが沸いてるせいで湖の水が使えないらしい」
「それは厄介ですね、では早速討伐にいきましょう」
「そうだな! では行くか!」
討伐依頼書をカウンターに持って行って受領してもらう。
さて、では初のDランクの魔物との戦闘だ。油断せずにいこう。
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森の外れの湖の近くまでやってきた。少し遠くから様子を伺うと湖を取り囲むようにキラーウッドが五体ほどいた。
カガミ師匠がいつものように俺に行けと顎で合図する。
はいはい行きますよ。
俺はゆっくりキラーウッドに近づいていく。あと五メートルといったところでキラーウッドが俺に気づいた。
全員でその枝を振り回して迫ってくる。
うん、相手は木だし今日は火炎魔法でも使ってみるか。
俺は右手を水平に一振り。
それと同時に炎が現れる。
炎は迫ってきたキラーウッドを飲み込み瞬く間に燃えた。
他の草木に燃え移ったらいけないので、ある程度したら水魔法で消化した。
キラーウッドは物も言わぬ炭へと姿を変えた。
あっけない……
これでDランク。もっと骨があってもいいんだけどなぁ。
「ネロ! 気を抜くな!」
俺が少し油断していると、森の中からわらわらとキラーウッドが出てきた。
おそらく三十体はいる。
いかんいかん油断禁物だな。
よし、今回は雷を使ってみるか。
俺は刀を抜き構える。そして、雷魔法を発動。刀の周りに纏わりつくように紫の電気が爆ぜる。
それに加え身体強化を発動。
一気にキラーウッドの群れへと突っ込んだ。
一太刀、また一太刀するたびにキラーウッドが次々と燃えていく。
時に刀を払い電撃を飛ばす。
キラーウッドはみるみる数を減らしていき、ものの数十秒で殲滅できた。
キンッ
魔法を解除し、刀を鞘に収める。
まぁこんなもんか。
「いやー見事見事。その電撃を刀に纏わすのはやっぱりいい発想だったね。威力が段違いだ」
「まぁそうですね。電撃も飛ばせるんで便利な技です」
「うむうむ、技も試せて依頼も達成。上出来だね」
「そうですね、ではギルドに報告に行きましょうよ」
「そうだな」
師匠が満足そうに頷いた。
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翌日、今日も適当なDランクの依頼を受けた後、俺達はギルドの資料室に来ていた。
昨日言っていた文字の読み書きを早速覚えようとしてのことだ。
資料室はそこまで広くなく十畳ほどの部屋の両脇に棚が置いてあってそこに本やスクロールが置かれていた。
カガミ師匠が棚から一つのスクロールを出してきてテーブルに広げた。
そこには地図らしきものが書かれていた。
「これは……地図……ですか?」
「そうだ、文字と共に教養を学ぶのがいいと思ってね。ここがこの国であるリストリア。ここがアデル共和国。ここが聖ルートビア。ここが——」
師匠が次々に国を指差して答えていく。凄いなこれだけの国からこの世界は成り立っているのか……まぁ前世でも相当な数の国があったしそんなもんか。
「ここがエルフの国リーフレット。そして森を挟んでその北が魔族の領域、魔族領ーーー」
そこでカガミ師匠の講釈は一段落した。
「魔族とかいるんですねやっぱり」
まぁ、転生する時に魔王がいるとか聞いてからそこまで驚きはしないが。
「あぁ、数年おきに人間と戦争をしている。厄介なやつらだよ」
「勇者とかいないんですか?」
魔王と言ったらやっぱり勇者だろ。
「聖ルートビアで召喚された勇者がいると聞くな。だが、まだ魔王と戦えるほどじゃないようだ」
「そうですか……」
いるんだ勇者……しかも召喚ってラノベとかなら同じ日本人だよな。ちょっと会ってみたいかも。でも、勇者とか国賓扱いだろうし今のままじゃ無理か。
「それじゃ次に魔物図鑑を見てみよう。それで文字を練習するといい」
「分かりました」
そこから師匠にまずは本を読んでもらってから、自分で文字の書き取りを行い、魔物の絵と照らし合わせたりして少しずつ文字を覚えていく。
そこから三時間ほど勉強しただろうか。師匠がそろそろ切り上げようと促してきた。
久しぶりの勉強で肩が凝った。これから夕飯までは師匠との訓練だ。凝り固まった体をほぐそうと思う。
そういえば孤児院のラステルが資料室に来たがってたなー。孤児院の皆んな元気にしてるかな?
なんて思いながら資料室を後にした。
その日から勉強が一日のサイクルに組み込まれた。
文字は順調に覚えていっている。まだ7歳の体だからか物覚えがいい。スポンジみたいにいろいろ吸収していく。
そうこうしてるうちに、そろそろ冬がくるという時分。
いつものように討伐依頼を達成したことをギルドの受付嬢に報告すると、おめでとうございますといきなり言われた。
なに? 俺誕生日まだだけど? と思ったが違った。
「本日の依頼達成を受けましてネロ様にはD級に昇格して頂きます。こちらプレートです。これで近くのC級ダンジョンへ入ることが出来ます。ネロ様の益々のご活躍をお祈りいたしております」
そのお祈りは縁起が悪いからやめてほしいものだ。就活を思い出す。
まぁそれはさておきやっとダンジョンに潜れるのか。
冬になる前で良かった。ここいらは雪が積もることがあるらしいから、討伐依頼など受けにくくなるらしいしな。
ダンジョンなら気候は関係ない。
「ありがとうございます。精進していきます」
「ついにダンジョンアタックだな!」
カガミ師匠が楽しそうに声を上げた。
「はい! 楽しみです!」
俺も気合い満々で応え、次の日から早速ダンジョンに潜ることにした。
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ダンジョン初日。
C級ダンジョンの入り口には人の行列が出来ていた。
また、露天なんかも開かれている。中を覗くと俺にはよくわからない魔道具などが置いてあった。
カガミ師匠曰く状態異常を防ぐ魔道具などらしい。
俺達はいらないのか? と聞くとまだそこまで深い階層まで潜らないから大丈夫とのことだ。
ワクワクしながらダンジョンの入り口の行列に並ぶ。
ダンジョンってどんな感じなんだろうなぁ。宝箱とかでいい装備が手に入ったらいいなぁ。などなど期待を胸に、今か今かとダンジョンに入れるのを待つのであった。