冒険者ギルド
町の外に停車してある馬車へと向かう。カサンドラへは鑑定の儀で行ったことがある。馬車で確か三日といったところだ。
今回も護衛の冒険者がいる。その数4人。道中はこの冒険者達に任せておけば快適な旅を満喫できるだろう。
さぁ馬車に乗り込もうとした時、一人の冒険者がカガミ師匠に話しかけてきた。
「あっあの、もしかして神速の魔法剣士さんですか?」
二つ名かな? それにしても神速?
失礼になるかもしれないが、あまりカガミ師匠にそこまで速いイメージはない。
「あーそうだよ。私が神速だ」
「おっ俺C級冒険者のルイスっていいます! お噂はかねがね。道中よろしくお願いします!」
「あーこちらこそよろしく頼むよ」
カガミ師匠が馬車に乗り込む。俺もそれにならった。
「師匠、神速って?」
「あー私の二つ名だよ。ネロには見せたことはないが、真剣を使う時私がよく使う技を見てつけられた名だ。そのうちネロも目にすることになるよ」
そうなのか、それは楽しみだ。ということは、師匠は真剣だとさらに強いのか。凄いな。
そう思っていると馬車が動き始めた。さぁ出発だ。
旅は順調に進んだ。魔物も出たが護衛の冒険者達が危なげなく処理していく。
そして、三日後カサンドラについた。
護衛の冒険者達とも別れる。冒険者が最後までカガミ師匠にペコペコしていたのが印象的だった。
以前と同じように夜の街を宿を探して歩く。鑑定の儀の時にも思ったが夜の街は賑やかでこっちまで楽しくなる。
仕事終わりの冒険者と思われる人達が酒を煽っているのを見て俺も酒はまだ飲めないけど、あのように楽しめるのかなと思ったら気分が弾んだ。
そうこうしてるうちに宿を見つけた。
カガミ師匠と宿へと入っていく。もちろん部屋は一部屋だ。俺はもうそろそろ8歳になる。精神年齢で言ったら42歳だ。20代後半の女性と同じ部屋というのはいささかドギマギしてしまう。
まぁカガミ師匠は全く気にしていないのでこっちも気にしなければいいだけだが。
部屋はベットが一つに窓、そのそばに机と椅子があるのみの簡素な部屋だった。
まぁ孤児院よりは綺麗かもしれないが。ガガミ師匠が部屋に入るやいなや早速服を脱ぎ出した。
俺は咄嗟に後ろを向く。
「ん? ネロ、何を気にしているんだ?」
「いっいや、女性の肌は無闇に見るものではないなと思いまして……」
「ぷっそんなの気にする歳でもないだろう?」
いや、42歳なんで。めっちゃ気にします。
「いっいいんです。俺は紳士なんです!」
変態紳士って意味じゃないからね。
「そうか、まぁ好きにしたらいいけど、私は気にしないから見たかったら見ていいからな」
「みっ見たかったらって……見ないです!」
「あははは! そうか、まぁいい。今日はもう遅いし早く寝るぞ。明日は冒険者ギルドへ行ってネロの冒険者登録だ。ゆっくり休まないといけないからな」
「はっはい! わかりました!」
まるで童貞じゃねーか俺。情けない……
その夜一つのベットで肩を寄せ合って寝るという事実に直面し、俺はもう諦めた。
何も気にせず仏の心境で眠りについたのだった。
翌朝、存外よく眠れた目を擦りながら冒険者ギルドへ向かう。
カサンドラは中心の貴族街、西の商業区、東の平民街、南の宗教区、北の貧民街とからなる。
冒険者ギルドは西の商業区に位置する。宿も商業区にあるのでさして離れていない。
冒険者ギルドの前まで来た。看板のようなものには剣と竜が描かれていた。
カガミ師匠が入り口を躊躇いなく開け、中へ入っていく。
俺もそれに続く。冒険者ギルドの中は左に酒場。右に受付と依頼版がありザッ冒険者ギルドといった内装だった。
柄の悪そうな輩がそこら辺にいる。元日本人の俺からするとちょっと怖気づいてしまう。
しかし、カガミ師匠が何も気にせずスタスタと受付へ向かうので俺もそれにならった。
「この子の冒険者登録をしたい」
カガミ師匠が俺の背中を押して受付嬢に紹介した。
「規定の年齢には達していますか?」
受付嬢が事務的な笑顔で受け応える。冒険者には七歳からなれる。まぁほとんどの人はそんな年齢から冒険者なんて危なくてしないが。やるとしたら訳ありだ。
「ああ、もう七歳だ。あと少しで八歳になる」
「それでは、念の為確認をさせて頂きます。この水晶に手を置いて下さい」
受付嬢がテーブルの上にソフトボール大の水晶を出す。
俺は言われたようにその水晶に手を置く。すると水晶に何か文字が浮かび上がった。
「はい、確認が取れました。確かに七歳ですね。問題なく登録できます。登録料の五千リルはありますか?」
「ああ」
カガミ師匠が巾着から、大銅貨を五枚取り出す。ちなみに馬車代も宿代もカガミ師匠に出してもらっている。俺が稼げるようになったら返すことで話はついている。
あと、この世界の通貨単位はリルで、鉄銭十リル、銅貨百リル、大銅貨千リル、銀貨一万リル、金貨十万リル、聖金貨百万リルだ。
パンが銅貨一枚ぐらいなので、物価は前世と似通っているのかもしれない。
「確かに。それではここに必要事項をご記入下さい」
一枚の紙を差し出される。
すると字の書けない俺に変わってカガミ師匠が書いてくれた。
内容は名前、職業、スキル、出身地などだ。
スキルは隠す必要もないと思い究極健康体と書いてもらった。
紙を提出すると一瞬受付嬢が怪訝な顔をした気がするが、そのまま何事もなかったかのように話を進めた。
「それでは、冒険者のついて説明をさせて頂きます」
そこから、冒険者のルールみたいなものを説明される。
冒険者はFからSランクまであり、同じランクの依頼とその上下のランクまで依頼を受けることができる。また、ダンジョンに入るのもそれに準ずる。だが、常時依頼はランクに関係なく受けられる。ランクの昇級は適宜冒険者ギルドの判断で行われる。
冒険者ギルドでは素材の買取もやっており、利用する場合は受付横の素材受付のカウンターで行ってくれとのこと。
冒険者同士のいざこざには冒険者組合は基本不干渉。自己責任とのことだ。
また、冒険者ギルドは国とは独立した機関であり、組合の判断により冒険者を徴収することが可能。緊急時には協力してもらうと。
あと細々としたルールを聞かされたが、とりあえず犯罪などしなければ大丈夫という認識でいいと思う。
「こちらランクのプレートです。身分証明書にもなりますので無くさないようご注意下さい。再発行には五千リル頂きます。それでは、登録は以上となります。お疲れ様でした」
無事登録を済ませ、その後どうするのかカガミ師匠に聞いたら、早速依頼を受けようとのことだ。
依頼掲示板まで行きカガミ師匠が依頼を眺める。
俺も早く字を読めるようにならねーとな。
確か資料室を無料で使えるんだよな。そこで勉強するかー。
などど考えているとカガミ師匠がこれだなっと一つの依頼書を指差した。
そこには字の他に絵が描かれていて、それはよくファンタジーもので見たことのある姿だった。
「これは常時依頼だ。ネロは早くランクを上げないといけないからな。ちまちま薬草採集なんてやってられない」
カガミ師匠はそれでは行くぞと言って入り口へと向かう。
すると、入り口の近くに腰掛けていた柄の悪い三人組の一人がカガミ師匠に話しかけた。
「おう、天下の神速がガキのお守りか? 落ちぶれたって話は本当だったらしいな」
三人組がギャハハと品なく笑う。
カガミ師匠はしばし無言だったか、ニヤッと笑うと男に言い返した。
「いっとくがこの子はお前みたいな三下より強いぞ」
「あぁ?」
三下呼ばわりされた男が額に青筋を浮かべた。
「俺がそのガキより弱い? 落ちぶれて目まで腐ったか?」
「事実だ。嘘だと思うなら試してみるか?」
ちょいちょいカガミ師匠!? 何勝手に話進めてんの!? 俺はそんなの了承してないよ!?
「おもしれぇ、おいガキ。覚悟は出来てんだろうなぁ?」
そういうと男は腰の剣を引き抜いた。
おいおいマジかよ。
俺が動揺しているとカガミ師匠が俺に小声で話しかけてきた。
「ネロ、手加減しろよ」
「はい?」
「なんだなんだ作戦会議かぁ? いいぜ存分にやれよ」
男は両手を広げて言う。
「いや、もう終わった。じゃあネロ……やれ」
やれって物騒な……
でも、もう避けられるような状況じゃない。やるしかないか。
俺は腰から木刀を引き抜き正眼に構えた。
「なんだなんだぁ? 木刀で俺とやり合おうってか? ……舐めてんのかこのガキ!!」
男が怒り心頭で俺に突っ込んできた。
俺は身構えるも……おっそ。
なにこいつこれで本気なの? 俺がちっこいから手を抜いてるとか?
まぁそれならそれでいいか。俺にとっては都合がいい。
俺は男が剣を振り下ろす前に懐へと潜り込み真一文字に男の胴を叩いた。肋骨が折れる感触がし、男が地面に蹲った。
取り巻きの二人と俺達のいざこざを遠くから見ていた野次馬も静かになる。
「このぉガキ!」
すると、取り巻きの二人が気炎を吐いて向かってきた。
また、遅い。それにさっきの男より隙だらけだ。
俺は一人を掌底で顎を下から突き上げ、もう一人を鳩尾に木刀の柄を叩き込んで終わらせた。
冒険者ギルドの中が一層静かになる。
「いくぞネロ」
カガミ師匠が俺を促して外へと足を向ける。
俺もそれにならう。
ふぅなんとかなった。
もう、こんな無茶振りはよしてほしいものだ。
-----
ネロ達が去った冒険者ギルド。
静かだった室内が一気に喧騒に包まれる。
「やべー! あの三人腐ってもC級だぞ! それをあんなあっさり。何もんだあのガキ」
「神速の子供ってわけでもないよな?」
「ちげーだろ? たぶん」
「まぁ子供にしろ違うにしろすげー奴が冒険者になったな。これからが楽しみだ」
冒険者達は口々に新しく生まれたスーパールーキーに思いを馳せる。
しかし、冒険者達はまだ知らない。
ネロがあんなものではない正真正銘の化け物だということを。