表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/31

治癒魔法と新しい挑戦

 冬がきた。外は寒く時折雪がちらつく。しかし、この地方は比較的過ごしやすく積もることはない。


 そんな冬の真っ只中、俺は七歳になった。今年も皆んなからプレゼントをもらう。今年は木の腕輪だった。シンプルなデザインだが綺麗に彫刻が彫られていた。裏面にはネロと名前が彫ってあるらしい。俺は字が読めないのでわからないが。

 皆んなにお礼をいい誕生日の日は過ぎていった。


 そして、俺はそろそろかなっと思っていた。

 何がというとマリエラが旅立つ日だ。

 マリエラには治癒魔法を出来れば教えてもらいたい。

 俺の体はスキルですぐに怪我などを治してくれるが、そのスキルも絶対じゃないかもしれない。

 もし、スキルが発動しなかった場合のことを考えて治癒魔法は習得しときたい。


 また、単純に憧れがあった。

 それは前世からの憧れ。

 人を癒したい。


 そう思って頑張ってきた人生だった。だが、それも道半ばで諦めざるをえなかった。今世でそれを果たせたらどんなに嬉しいか。考えるだけで幸せになる。


 なので、マリエラには出発する前にどうしても治癒魔法を習得してもらいたい。それは彼女の為にもなるだろうしね。


 そう思いカガミ師匠に当分午後の訓練の半分の時間を、マリエラの治癒魔法の習得に当てさせてほしいとお願いする。

 カガミ師匠は快く了承してくれた。


 ということで午後のある日。

 俺とマリエラは中庭の隅にいた。


「マリエラ見てて」


 俺は鋭く尖った石で自分の腕を傷つけた。


「ネっネロ! だいじょう……ぶ?」


 傷はみるみるうちに塞がり元の綺麗な状態に戻った。


「なに……これ……」


 マリエラが呆然としている。


「これが俺のスキル。再生みたいなものだと思ってる。これを参考にマリエラには治癒魔法を習得してもらいたい」


 厳密にスキルで治るのと、魔法で治すのとでは違うところがあるかもしれない。スキルの力の源も分かっていないわけだし。

 ただ魔力とスキルの力は似ていると体感で感じていた。だから、この傷が治るのを見て何か掴んでくれるかもしれない。


「これ、凄いねトカゲの尻尾みたい……」


 トカゲの尻尾か……たしかにアレと治り方は同じかもしれない。トカゲの尻尾は切れた尻尾の先端が未分化な幹細胞へと戻り新しく細胞を形成し尻尾を復元する。

 腕を傷つけた時、傷は深いところから治る。そのことから傷口表面の細胞が幹細胞になり増殖していると考えられるかもしれない。

 それなら、マリエラにその仕組みを伝えてイメージしてもらうか? 

 難しいから優しく説明したふわっとしたイメージのものになるだろうけど……と、その前に魔力放出が出来ないと話にならないな。完全に忘れてた。

 それをまず教えよう。


「マリエラ、治癒魔法を使うにはまず魔力を感じ取って放出しないといけないことを忘れてた。マリエラにはまずそれを教える」


 そこから、マリエラに丹田あたりにある魔力を感じ取ってもらうとこから始まり、それを糸上に伸ばし指から放出するのを練習してもらった。すると、マリエラは筋が良く二週間足らずで出来るようになった。

 

「それじゃマリエラここからが本題だ」


 俺達の前には腕の千切れたトカゲがいた。

 たまたま中庭で見つけたトカゲだ。都合よく腕が千切れていたので捕獲した。

 知っての通りトカゲは尻尾は再生するが腕は再生しない。このトカゲの腕を治せたら治癒魔法成功ということだ。


「このトカゲの腕目掛けて魔力を放出しながらイメージするんだ。イメージは、まずこの腕の先の中には小さな小さな部屋がいっぱいあるんだ」


「部屋?」


 マリエラが首を傾げている。


「そう部屋。それは目には見えないほど小さいけど生き物の体には必ずあるんだ、今はそれがあるって俺を信じてほしい」


「わかった、ネロを信じる」


「ありがとう、でねその部屋のなかには住人がいるんだ。魔力を当てながらその住人にやわらかくなれーって念じてみてほしい。そして、それが終わったらその住人に部屋を増やしてってお願いするんだ。そうすると腕が元に戻るはずだ」


 これは細胞を部屋、遺伝子を住人とし、柔らかくなれーと念じることで遺伝子のロックを外し幹細胞へと戻し、増えろーと念じることで増殖を促そうとしている。


 かなり雑なイメージなので上手くいくかはわからない。でも、やってみなきゃわからない。


 マリエラが顔を真っ赤にしながはうぬぬっと唸っている。

 しかし、何も起きない。やはりダメか……


「マリエラ難しかったら……」


「やだっ諦めない!」


 マリエラは必死にトカゲの腕目掛けて魔力を放出しながらそう意気込んだ。


 その気迫に押されて俺は黙り込んだ。

 それから、数時間マリエラは頑張ったがダメだった。

 

 その夜ふと、俺は気づいてしまった。自分でアレほど明確にイメージ出来てるなら今の俺なら治癒魔法が使えるかもと。

 だが、もしここであの腕の千切れたトカゲを治してしまうと、マリエラの練習が出来なくなってしまう。ここはぐっと我慢だな。

 そうして夜はふけていくのだった。


 翌日もその翌日もマリエラは頑張っていた。

 何度もういいよと言おうとしたか。

 でも、その真剣な表情を見ては何も言えなかった。マリエラは俺を信じてくれてるからこそ、あそこまで頑張ってくれてるんだ。

 もし、俺が間違ってたら……うん、そうだ間違ってたらマリエラの貴重な時間を奪ってしまってることになる。あと少し見守ったら辞めさせそう。そうしよう。


 だが、俺はなかなかもういいよと言い出せずにいた。それはマリエラの姿が必死で胸を打ったからだ。

 毎日毎日魔力切れになるまで魔力を放出する。ひたすらに俺を信じて……

 その姿を見て逆に胸が痛くなってきた。そろそろ辞めさせよう。そう思いマリエラに近寄る。


「マリエラ……もうその辺に……」


「やった……」


 ボソリと呟く声が聞こえた。


「やったよ! ネロ! ほら見て!」


 マリエラが指差す先、以前まで千切れていた腕のところに新しい腕が形成されていた。


「ホントに出来たのか……凄い! 凄いよ! マリエラ!」


「ううん、ネロが教えてくれたからだよ」


 俺なんかちょっとコツみたいなのを教えただけだ。あんなふわっとしたイメージで成功させたマリエラの方が何十倍も凄い。


「凄いのはマリエラだよ。ありがとう」


「ありがとう? なんでありがとう?」


「なんでも!」


 ありがとう俺を信じてくれて。


 その後、俺も足の千切れたバッタで再生を試みてみた。結果は成功。やっぱり魔法はイメージがハッキリしてると成功するね。


 こうして俺とマリエラは治癒魔法を会得した。だが、この時の俺は知るよしもなかった。部位欠損を治すというのが一般には神の御業として扱われているということを。

 この能力によりマリエラは宗教と国に深く関わっていくのであった。



 そこから時は流れ、今日はついにマリエラが旅立つ日。皆んなが悲しそうにマリエラに声をかける。それをマリエラは全て笑顔で応えていた。


「マリエラ、マリエラとはまた教会で会うからね。お別れは言わない。またね」


 俺はマリエラへそう言い手を差し出した。


「えへへ、そうだね! またね! ネロ!   待ってるよ」


 マリエラはいつもの元気いっぱいの笑顔を見せて俺の手を取ってくれた。


「でも、これはそれまでのお守りだ」


 俺がマリエラに黒い腕輪を渡す。

 魔法の石で作った腕輪だ。表面に花の細工を施してある。


「綺麗……ありがとう! 大事にするね!」


「うん」


 そうしてマリエラが見えなくなるまで手を振る。

 待ってろよマリエラ。マリエラと次会う時には強くなっててみせるから。

 マリエラが教会で肩身のせまい思いをしていても、助けられるぐらい強く……


 

 それから毎日鍛錬の日々が続いた。

 そしてある秋の日。その提案は突然きた。

 いつものように午後の魔法訓練でカガミ師匠と魔法剣士の戦い方を学ぶ。

 だいぶ魔法と剣の組み合わせ方が分かってきた。カガミ師匠と互角とまではいかないが不恰好でない程度にはやりあえるようになった。


 魔法訓練が終わり肩で息をしている俺に、カガミ師匠が真剣な声音で話しかけてきた。


「ネロこの町を出る覚悟はあるかい?」


「はい? いきなりなんです?」


「ずっと考えていたんだが、今のまま訓練だけを続けても実践経験が身につかない。剣も魔法もそして魔法剣士としての戦い方も形になってきた。そろそろだと思ってね。試しにダンジョンを攻略してみないかい?」


「ダンジョン? それはあの魔物がいて罠があって宝箱が湧いてボスがいるあのダンジョンですか?」


 ラノベ知識とカガミ師匠から以前聞いた話を合わせて質問してみた。


「そう、そのダンジョン。カサンドラの近くにC級とA級のダンジョンがある。それを攻略してみないかい?」


「それは冒険者になるってことでしょうか?」


「そう、ダンジョンに入るには冒険者ギルドの許可がいる。C級ダンジョンに入るなら少なくともD級でないといけない。ネロの期限もあるしそろそろ出発して、ランクを上げた方がいいと思ってね」


 ダンジョン。

 かなり興味がある。カガミ師匠から聞いたところによると、ダンジョンはダンジョンコアを中心とした生き物らしい。宝物で人を誘き寄せ生み出した魔物によって殺し吸収する。

 ラノベの中でよくある設定と一緒だ。


 そこで実践経験を積む。

 願ってもない申し出だ。

 孤児院の皆んなと離れるのは寂しいが、十歳までにまた戻ってくればいい。

 とすると期限はあと二年ぐらいか。

 それまでにC級とA級ダンジョンの制覇。A級ダンジョンをクリアすれば教会を黙らせるだけの力も認められるだろう。面白い。やってやろうじゃないか。


「是非よろしくお願いします」


 俺は不敵な笑みで返した。


-----


 数日後、俺は孤児院の前で皆んなに見送られていた。


「ネロ、お前がいない間特訓して絶対お前をあっと言わせてやるからな。だから、ネロも強くなれよ」


 ヒースが拳を突き出してきた。

 俺はその拳に自分の拳を合わせる。


「ああ」


 ヒースはニヒルな笑みを浮かべた。


「きっ気をつけてね」


 トンドが遠慮がちに気を使ってくれる。


「ありがとう気をつけるよ」


「冒険者の資料室がどんなだったかまた聞かせてね!」


 ラステルが目をキラキラさせて言ってくる。


「うんうん、分かった分かった。ちゃんと話すよ」


「絶対だからね!」


 ラステルが拳を握りしめて詰め寄ってきた。俺は気圧されながら、うんと返事しておいた。


「ネロまたね、すぐ帰ってくるんだよね?」


 テファが心配そうに問いかけてきた。


「十歳になるまでには一度戻るようにするよ」


「絶対だからね! 待ってるよ!」


「うん、待ってて」


 テファとの話を終えてシスター達、院長に挨拶する。

 そろそろ出発しよう。

 また会えるんだ。そんな悲観的にならなくてもいいだろう。


 そう思いカガミ師匠と歩を進める。


 しばしの別れは寂しい。だが、新しい世界への期待もあり俺の足は軽く、どんどんと孤児院から離れていく。


 孤児院の皆んなが声を張り上げている。

 ありがとう皆んな。

 達者で。


 こうして俺の新しい挑戦が始まるのだった。

これにて幼少期編終了です。

次話から冒険者編がはじまります。


10万字を区切りにして話を考えていたので、当初ここで話を区切るつもりはなかったのですが、読み返すとあっここで区切りついてる、と思い区切らせてもらいました。

ここまでは下準備といったところでしょうか。

冒険者編ではネロの強さが垣間見えます。


ここまでで面白い!続きが気になる!と思って下さったら評価やブックマークなどをしてくれると、作者のモチベーションが爆上がりします。


それでは、よろしければ次話もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ