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訓練

 カガミさんが教師になることを了承してくれた。結局カガミさんが何に引け目感じているのは分からなかった。

 いや、まぁ聞く気なんてなかったんだけど。


 当初決めていたタイムリミット三ヶ月がそろそろ見えだし焦りもあったのだろう。俺は自分でも驚くほど自然にカガミさんに教えを説いてほしいとお願いしていた。


 自分からお願いするつもりはなかったんだけどなぁ。

 人間とは不思議なものである。


 しかし、結果オーライ。カガミさんはそれを了承してくれた。孤児院の生活で彼女も何か感じるものがあったのかもしれない。


 そして、今俺は木刀を持ってカガミさんと対峙していた。


「なーなーカガミさん。なにすんの?」


 若干不躾な物言いのヒースが木刀を肩に担いで問いかけていた。

 俺がカガミさんに教えてもらえると知るやいなや、俺の方が教わる権利があると主張し、こうして一緒に教えてもらうことになった。


「まずは型からだよ。基本は大事だからね」


「えーつまんねぇ」


 そう言うなヒースよ。稽古とは基本つまらんものだよ。


 そこから二人してカガミさんから型を教えてもらう。

 カガミさんの剣術は東方の島国に伝わるもので、玄海一刀流げんかいいっとうりゅうという。

 詳しくは聞かなかったが、カガミさんは幼少の頃はその島国で育ち、理由があってこの孤児院に預けられたそうだ。

 通りで見た目が他の皆んなと違うと思った。前世の日本人に近い見た目をしている。ちなみにカガミさんは結構綺麗だ。クラスにいれば三、四番目ぐらいに人気がありそうな感じといえばいいのだろうか。


「ネロ! 集中して!」


「あっはい! すみません!」


 考え事をしていたら見抜かれた。

 集中集中。


 それからみっちり三時間型の稽古。

 ヒースは顔がグロッキーだ。


「では、剣術の稽古はこれまで! ヒースお疲れ様、ネロは午後から魔法の訓練ね」


「やっと終わった〜」


 ヒースが地面にペタンと座り込む。


「ヒースよくやったな。おつかれさん」


 俺は前世の経験と魔法の訓練で地味な作業には慣れっこだ。

 ヒースに労いの言葉を投げかける。


「うっせぇ余裕面しやがって。ぜってー負けねえから」


 そう言ってヒースは孤児院の中へと入っていった。


「ヒースは気が強いね。アレが良い方に向かってくれればいいんだけど……」


 カガミさんが若干憂いを帯びた顔で言う。


「大丈夫じゃないですかね。根はまっすぐな子ですから」


「ならいいけど。ほら、ネロも早く休んで来なさい。魔法の訓練はこの中庭ではできないから、外へいくんだから。体力は回復しとかないと」


 カガミさんがおれの背中をトトトっと押してくる。


「はい、いきますいきます。そういえばこれからはカガミ師匠って呼んでいいですか?」


「私はそんな大層な呼び方をされる人間では……」


 カガミさんの顔が渋る。


「いいんです! 僕が呼びたいだけなんで。カガミ師匠がなんと言おうと僕は折れませんよ」


「もう……ネロは見た目によらず強引だね。わかったよ。もう何も言わない。好きにしたらいいよ。さっそれよりも早く行くわよ」


 カガミ師匠が俺より先に孤児院の方へ歩き出す。


「カガミ師匠!」


「ん?」


 カガミ師匠が振り向く。


「えへへ、呼んでみただけです」


 俺ははにかんだ笑顔を見せながら言った。


「もう」


 カガミ師匠は呆れたような、しかし嬉しそうな顔でそう言い返したのだった。


-----


 午後、俺とカガミ師匠は町の外へ向けて歩いていた。

 俺が特大の魔法を使ったことを院長から聞いたらしく中庭では何もできないということで、町の外へ向かっている。


 カガミ師匠の冒険者時代の話などを聞きながら歩いていると、町の外に出た。

 さらにそこから歩くことしばし。


 広い草原に三メートルはある岩が一つある場所に着いた。


「この辺でいいか」


 カガミ師匠が辺りを見回して言う。


「それじゃネロ、魔法の訓練はまずネロの力量を見る。そこから私が教えられそうなことを教えていくって感じで」


「わかりました」


「それじゃお願い。的が必要な時はあの岩を狙ってね」


「はい」


 よし! まずは何からいくか。ひとまず火球を出すか。

 俺は片手を空へと向け魔力を放出する。そしてイメージ。手のひらの上にドッチボール大の火球があらわれた。


「ホントに青い……」


 カガミ師匠が何やら驚いているがここからは集中しないといけない。

 以前院長に見せたような火球を作るべくどんどん魔力を注いでいく。

 そして、今の俺が制御できるであろう限界の大きさまできた。

 それは以前よりも大きく直径二十メートルはある。

 俺の頬に熱波が当たる。


 あれ? これあの岩なんかに打ったらそこいら消し飛んじゃうんじゃない? 

 ヤバいどうしよう。

 消すか、いや、でもこの大きさの火球をちゃんと射出できるのか試してみたい。

 せっかく魔法の訓練をやってるんだ。出来ることはやっていこう!


 そう考えて俺は火球を空へと放った。

 火球は轟音をたてて登っていき雲を突き抜けやがて見えなくなった。


「どうでした? カガミししょ……師匠?」


 カガミ師匠が額に手をやりため息をついている。


「なんなのあれ! あんなの私が教えることなんてないわよ! 私は大規模魔法は使えないんだから! あれ以上のことなんて天地がひっくり返っても無理よ! 院長から聞いてはいたけど、話半分に聞いていたわ……これは私の失態ね」


 そう言ってまたため息を吐く。


「それじゃあ魔法の訓練は必要最低限にしましょ。剣術がある程度身に付いたら魔法と剣を使った戦い方を教える。その時に必要な技術を伝えるわ。後は詠唱で威力を高めるぐらいね。あれ以上高めてどうするんだって思うけど……まぁ私にできそうなのはそれぐらいよ」


 待って待って! せっかく広いところに出たんだ。孤児院の中では出来なかった魔法をいろいろ試してみたい。


「カガミ師匠! お願いです! 魔法はまだまだあるんです。少し実験させて下さい!」


「魔法がまだある……?それは、火系統でってこと? それとも他系統?」


「両方です」


「両方……」


 カガミ師匠が若干引き攣った笑みを浮かべた。


「な、ならやってみてちょうだい」


「はい!」


 そこから、俺は炎を斬撃のように飛ばすファイアカッター、竜巻のようなファイアストーム、水系統の特大ウォーターボール、ウォーターカッター、ウォーターストームなどなど系統を変えて次々に魔法を行使していった。

 そして最後に危ないからと一度も試したことのなかった雷系統を試すことにした。

 イメージは稲妻が手から放出されるイメージで。これは、初めてだしそんな威力はないだろうと思い、はじめて岩に向けて打ってみることにした。


 放出!


 紫の電撃が空中を走り岩に着弾すると岩が轟音をたてて一欠片も破片を残すことなく消滅した。

 そして岩の後ろは百メートルほどに及んで地面が抉れていた。


 こっこれは……予想外の威力……雷危ない。


「カっカガミ師匠どう……でした?」


 なんとなく言われそうなことは分かる気がしたが、俺は問いかけていた。


「どうもこうもないわよ! この非常識がー!!!」


 カガミ師匠は見た目に似合わず空に吠えた。


-----


「ネロがここまで非常識だと思わなかったわ。戦ったら私負けるんじゃない?」


「いや、僕は戦い方とかはわからないんで……あんなのただ威力があるだけですよ」


「その威力が戦闘ではものをいうんどけどね……」


 町へと帰るすがらそんな話をしていた。


「でも、ホントに少ししか教えることがないわ。どうしよう」


「それなら、カガミ師匠には僕が魔法が使うのを側で見てもらって危なそうだったら止める役を任せてもいいですか?」


「私からしたら全部危ないんだけど」


 カガミ師匠がジト目で見つめてきた。


「いや、魔力暴走とかは分かるじゃないですか。そういう圧倒的に危ない状況になった時助けてもらおうかと……ダメですか?」


 魔力を制御できないと魔力が暴走して最悪死ぬ。

 と、前世のラノベで読んだのでその可能性を提示してみた。


「うーん、それならいいわよ。確かに監視役は必要かもしれないしね」


「監視って……僕をそんな危険人物みたいに言わないで下さい」


「いや、危険人物だから」


「そっそうですか……」


 まー少しは自覚がある。なので、俺は何も言い返せなかった。


-----

 

 翌日の午後。また昨日と同じ場所に来ていた。


「それじゃ私が教えられる数少ないことを教えるわ」


「そんな卑下しなくても……」


「いいのよ事実だから」


 気にした様子もなくカガミ師匠はキッと顔を引き締めた。


「ネロ、私の職業は知ってるわね」


「はっはい、魔法剣士です」


「そう魔法剣士。でも、不思議に思わない? 午前中の授業では両手で剣を扱ってるでしょ? どうやって魔法を使うんだって」


「たっ確かに……」


「もちろん片手を剣から離して魔法を放つ時もある。でも、基本はちがうわ」


「???」


 俺は分からず首を傾げる。


「どうやるのか? それはこうするのよ!」


 するとカガミ師匠はただ立っているだけで周りに火球をつくり出した。その数4つ。


 なるほどそういうことか。魔力を体表面から放出し魔法を形成すると。それを4つもか……凄いな。


「これは、魔力を体から放出して魔法を作ってるの。剣術の合間にこのように魔法を出しながら戦うのが魔法剣士よ」


 そうかこれを剣術をしながら……だとしたら魔法発動と剣術を無意識レベルで出来るようにならないといけないな。

 これは難しそうだ。


「じゃあこれからは私がこの技術を教えていくわね」


 自分に教えられることがあって嬉しいのか、カガミ師匠は満面の笑みだった。


-----


 カガミ師匠に午前は剣術、午後は魔法の訓練および実験の日々を過ごして、季節は冬になった。


 訓練は順調に進んでいる。午前の剣術では型が基本だが最近では終わりにカガミ師匠と打ち合いをするようになった。カガミ師匠から反撃はない。こちらから一方的に攻撃するのみである。しかし、一本も入らない。当分はその一本を入れる、いや掠らせるのが目標だ。


 魔法の訓練は日頃から魔力操作の練習で体の至るところから魔力を放出していた俺は、いきなり一つの火球を生み出すことができた。その後練習して今では三つの火球を同時に出せる。しかし、かなり集中しないと出来ない。まだまだ実践では使えそうにない。

 ちなみに詠唱もちょこちょこ教えてもらってる。ただ……威力が凄すぎて……戦争でもいくのかって感じだ。実践で使うことは少ないだろう。

 魔法の実験はおおむね順調だ。最近は魔法をただ大きくするだけでなく魔力のように圧縮して小さくても威力が出るように練習している。

 魔法剣士として戦うならきっとそっちの方がいいだろうという判断だ。


 今日も訓練を終え外でかじかんだ手で、夕食を食べる。

 は〜あったかいスープが身に染みる〜。


「ミリア今日も美味しいよ。いつもありがとう」


「そう? 良かったわ」


 ミリアは微笑んで自分のスープを飲む。


 ミリアはこの冬が終わり春になると孤児院を出る。


 なので、最近はよくミリアに話しかけるようにしている。

 家族が減るのは悲しいものである。

 俺はそれを少しでも紛らわしたいのかもしれない。

 

「ミリアは孤児院を出たら王都で見習いをするんだよね?」


「小さい店だけどね。私には十分過ぎるわ」


「そっか……」


 何かやれることはないだろうか?

 自分で考えていてもいい案が浮かばない。

 カガミ師匠にでも相談してみようかな?


 スープをまた一口飲む。

 うん、美味しい。

 これがもう食べられなくなるのかぁ……

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