ファミリー3
ヘレニキア。それは12の個性的な国で構成された世界。エルディア、フリージカ、リューミュ、ポノル、他の8カ国も含め、どの国も本当に個性的だ。政策、言葉、宗教、学問、なにをとってもその国独自の雰囲気を感じることができるだろう。ここで一つ、青菊ノ国の政策、「201プロジェクト」について話そう。
昔、青菊ノ国に神がいたころ、神は親のない子を集めて自分の家に住まわせた。子が多くなりすぎると、子供を4人程の集団に分けて食事などの援助をしつつも自分たちで暮らしていかせた。すると、驚くべきことに子供達は互いに良い影響を与え合いながら成長していき、普通の子供よりも優れた子供になって優れた大人になっていった。
現在の青菊ノ国の研究より、これはただの伝説だとわかっているが、古来の青菊ノ国の民族である和人が親のいない子供を集めて一緒住まわせていたことは事実だということがわかっている。実際この方法は正しく行われれば子供の社会性や、思考力、忍耐力、さまざまなものを引き上げる事ができる上に、何よりも子供の孤独感を和らげる事ができるということが研究でわかっている。90年ほど前、青菊ノ国は旧支配国であった紅玉ノ国との先の大戦によって孤児が多く残された国だった。政府は未来ある子供たちを救おうと手厚い保護をしていた。しかし戦後から40年ほど経つと孤児は減り、孤児への手当ての予算が余るようになる。しかしだからといって、すべての孤児や捨て子が問題なく幸せに暮らしているわけでもなかった。元々孤児だった世代が多かった為、また、ヘレニキアの世界の中で最も福祉の発達した国の国民性もあり、余った資金は元々は孤児のための予算だったのだから、困っている親のない子供のために使われるべきだ、と世論は主張した。そこで青菊ノ国の政府は「201プロジェクト」を立ち上げた。この国を上げてのプロジェクトには多くのスポンサーがついたき、「特に問題のある12歳以上の子」が選ばれるようになった。「特に問題のある子」というのは素行が悪いとか、病気がある、などというものではなく、引き取り先でうまくやっていけなかったり、問題があったりして施設に帰って来た、いわゆる「出戻り」の子供が選ばれる。各養護施設は5年に1回、子供を推薦し、201プロジェクトに仮登録をすることが求められた。もちろん、該当する子がいなければ、辞退も可能だった。実際、青菊ノ国でさらに福祉が発達していくにつれてそんな条件に当てはまる子供は減っていったため、辞退されることの方が多く、募集終了時には大体4グループできる人数がいれば多い方、という状態であった。仮登録された子供たちは3ヵ月のトライアル期間を経て、問題がないようであれば本格的に共に暮らすことになる。子供達の暮らしは国からの資金はもちろん、多くの大手企業や団体などのスポンサーによって支えられており、その中で子供達は生活費の管理や家事などを学んでいくことでプロジェクト終了後も1人で暮らしていくことができるようになっている。福祉の国、青菊ノ国の誇るべきプロジェクトなのである。
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青菊ノ国、郊外、花昴郡、霧桐地区。学園都市として有名なこの地区に「第5回201プロジェクト」で作られた家族「ファミリー3」が暮らしている。
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「今日は静かな休日だな」
ソファーで新聞を読みながら呟く少年。彼は「ファミリー3」の最年長であり、「長男」の更科 澪。青菊ノ国の名門学校、東愁夏中高一貫校の高校2年生。冷静で優しく、どこか飄々とした少年だった。
「フラグ立ったよ今」
澪の隣でくつろいでいた少年、木 悠乃。「ファミリー3」の中でも一際、異彩を放つ天才だ。こちらも澪と同じく東愁夏中高一貫校に通っているが、まだ中学2年生だ。「ファミリー3」の末っ子だが、末っ子は彼だけではない。
「ねー私の靴下みてない?クローゼットの引き出し全部ひっくり返してみたけどなくて」
片方の靴下を片手にリビングに入って来た少女。同じく中学2年生で、末っ子の天霧 るい。若干誕生日が悠乃より早いことから自称「双子の姉」である。前の二人とは別の女子校、星蘭学園の中等部に通っている。
「お前、そのひっくり返したやつちゃんと片付けたんだろうな?」
紅茶と譜面を両手にキッチンからもう1人少年が現れた。高校1年生で「次男」であり、前の男子達と同じく東愁夏中高一貫校に通う彼は、東瀬戸 湊音。譜面はピアノを同じく趣味とする澪との連弾譜面だろう。澪曰く、「お前のは趣味のレベルじゃねえ」だが。
「……」
あ、忘れてた、と黙るるい。湊音が片付けておいで、と言おうとした時のことだった。
「か……片付けるわけなくない?私だし!」
「お前開き直ってんじゃないよ」
湊音は思わずツッコミながら紅茶を啜った。
「早速賑やかになってきた。フラグ回収早かったね。新記録更新じゃね?」
悠乃はポンっと澪の肩を叩いて、慰めるように言った。
「うるせー!僕は……僕は……優雅な休日に優雅に新聞読んでただけだったのに……!」
「「自分で優雅とかいうな」」
湊音とるいがくるっとそちらに振り返って言った。
「お前優雅とかこの中で1番かけ離れてる存在だろ」
「大丈夫、1番ではない、るいがいる」
湊音の指摘に澪が反撃した。
「「確かに」」
「なんだと!今のは聞き逃せない!っていうかそこ2人は納得しない!」
「ね、そういうとこ」
「確かに。優雅ではない」
「まあまあ落ち着けって。優雅じゃないのは事実なんだからしょうがない」
「このチャッテ が」
「「「……なんて??」」」
聞き慣れない単語に3人は一旦攻めの体制を解いた。
「あ、えっと、チャッテ 」
「何語?」
「ラノ語、ピーチクパーって意味」
「ラノ語か、へえ、学校でラノ語するけど聞いたことない」
「るいは相変わらず興奮すると言語が入り乱れるね」
「…ごめんね。」
しゅんとしたるいに3人はいう。
「いや、全然良いよ」
「むしろ色々知れておもろい」
「お前小さい頃から各地巡ってたって言ってたし、その影響だろ。しゃあない。僕ら全員雑学ぐらいに思って楽しみにしてるから」
「そう思ってもらえてありがたい限りです」
「さて夕食の準備でもしますか。るいはとりあえず部屋のひっくり返したもの片付けてきなさい、あと悠乃と湊音はキッチン来て。ちょっと手伝ってほしい」
「「「「はーい」」」」
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彼らが最終的に見つけるのはどんな家族のカタチなのか。それはまだわからない。