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第54話 武器や防具は装備しないと

本日更新予定2話中の1話目です。




 あくる日。


 イヒトとサクは、段ボール箱を抱えてクサカベスタンプを訪れた。

 二人がカウンターに箱をどんと置くと、店主のクトリが箱を覗き込み、驚きと喜びの入り混じった声を上げる。


「うわー、これはまた大漁だね」


 箱の中には、遺跡から発掘された印器がぎっしり詰まっていた。


「こりゃ査定しがいがあるなあ。ちょっと時間かかるから、それまで店内でも見ててよ」


 そう言いながら、クトリは手際よく箱を抱え、バックヤードへと姿を消した。




 それから約一時間。

 作業を終えたクトリが戻ってきた。箱を抱えたまま、満足そうな表情を浮かべている。


「おまたせ! いやぁ、面白いものがたくさんあったよ」


 待ちきれない様子のサクが、期待に満ちた目を輝かせながらカウンターに駆け寄った。


「どんなの?」


 問いかけるサクに、クトリはわざとじらすように笑みを浮かべる。


「いやー、聞きたい?」


「早く言えよ、うっとうしい」


 イヒトが無愛想にそう言うと、クトリは肩をすくめて笑った。


「ったく、せっかちな奴だな。ま、いろいろあったけど、目玉はやっぱりこれだね」


 そう言いながらクトリは、満足げに二つの印器を取り出し、カウンターに並べた。

 対となった風貌と独特の文様に、サクの目が興味深げに輝く。


「へえ、二つでセットの奴か。これ、何の印器なの?」


「それは見てのお楽しみってことで。えーっと――」


 クトリは右手と左手にそれぞれ印を押すと、サクの前に手を差し出した。


「沙倉、何か小さいもの持ってない? 手のひらサイズくらいのさ」


 突然のリクエストに、サクはポケットを探り、小さな長方形の物体を取り出してクトリの手に乗せる。


「これでいい?」


「……何これ?」


「マイクロカセットテープ。カセットテープの小さい版なんだってさ。遺物で出たのを買ったんだよ」


「カセットテープ……?」


 クトリが不思議そうに眺めるが、サクは構わずペラペラと語り続ける。


「ただ、テープだけなんだよね。再生機は普通の奴しか見つからなくてさ。まあ、そもそもテープなんか劣化して聞けるかどうか――」


 残念そうに話すサクを見て、クトリは苦笑した。


「なんだ、沙倉もイヒトと同じタイプか」


 その一言に、イヒトとサクが同時に声を上げた。


「「コイツと一緒にするなよ!」」


 サクがむきになり、イヒトはため息交じりに睨んだ。

 そんな中、クトリはおどけるように手のひらを広げた。


 右手には、先ほどサクから受け取った小さなカセットテープが載っている。


「まあまあ、そう怒るなって。いいから見てろよ――」


 意味深に呟くと、クトリは左右の手のひらをゆっくりとかざした。

 右手の印影が淡く光る。


 次の瞬間、カセットテープがすうっと手の中に吸い込まれるように消えた。


「おおっ!?」


 サクの驚きの声が響く。


 ほぼ同時に、今度は左手の印影が光を放ち、先ほど消えたはずのカセットテープが、まるで何事もなかったかのように出現する。


「おおおお~~~!!」


 サクは目を輝かせ、興奮気味にカウンターに並べられた印器を見つめた。

 そんなサクに、クトリは胸を張り、満面の笑みを浮かべながら言う。


「そう! 転送印(ワープスタンプ)だ!」


「すげー!!」


 サクは思わず手を叩き、クトリも満足そうに頷いた。




 だが、その空気を冷ややかな声があっさりと壊した。


「で、その手品がどうかしたのか?」


 イヒトが肩をすくめると、サクは即座に食ってかかる。


「手品って……お前なー! そんなチャチなもんじゃねえだろ!」


 しかし、イヒトは鼻で笑い、淡々と言い返した。


「あのな、自分の右手から左手に物を移しただけだろ。手品以外にどう使うんだよ」


「それは……い、いろいろだろ!」


「色々ってなんだよ」


 イヒトの嘲るような口調に、サクは思わず黙り込む。そして助けを求めるようにクトリを振り返った。

 クトリは肩をすくめ、少し困ったように答える。


「……ま、確かにね。ワープといっても、自分の体に押した印同士をつなぐだけ。使い道はかぎられるけどさ」


 イヒトはさらに追い打ちをかけるように、鼻を鳴らした。


「ほらな。どうせ当時だって、ただの高価な玩具にすぎなかったんだろうよ」


「……ったく。ほんと、イヒトにはロマンが足りないよな」


 サクが拗ねたように言うと、クトリは笑いながら言葉をつないだ。


「まあまあ……転送印ほどじゃないけど他にも、面白そうなのがあったんだよ。沙倉、これ試してみてみないか?」


 そう言いながらクトリが取り出したのは、指よりも細い小さな印器だった。サクは興味津々に覗き込む。


「ずいぶん小さいな。印枠1もないじゃん」


「そうだね、0.5ってとこかな」


 クトリはそう言いながら、サクの中指の腹に印器を押し付けた。微かな光が瞬き、印が刻まれる。


「よし、と。じゃあ机に指を押し付けて『くっつけ』って念じてみて」


 言われた通り、サクは机に指を当て、念じる。


「……おおっ? すげぇ、離れない!」


 いくら力を入れても、中指は机にぴったりと貼り付いたままだ。驚くサクに、クトリが楽しそうに次の指示を出した。


「次は『はがれろ』って念じてみな」


 サクが言う通りにすると、あっさりと指が机から離れた。驚きと感動の声が上がる。


「すげー! どうなってんだ、これ!」


「実は、それも生成印の一種なんだ。粘着剤と剥離剤を交互に生成してるってわけ」


 クトリは得意げに説明を始める。


「生成印……刻印力を物質に換えるやつだよな。でも、同じ印で二種類も出せるんだ」


「そう、そこがすごいところなんだよ! この小ささで二種類の生成を一つの印でだぜ! 見ろよ、この印面の精緻さ!」


 クトリの興奮した声に、イヒトは冷たい視線を投げる。


「で、何に使えるんだ?」


「……お前さー、よくそんな水差せるよな」


 サクは憤慨するが、クトリは肩をすくめ、ただ楽しそうに笑うだけだった。


「ま、人造印に関しちゃイヒトは()狩人らしいよな。とことん実用性しか見やしない」


 軽口を叩くクトリに、イヒトは「元」という言葉に反応し、一瞬だけ眉をひそめた。しかし、何も言わず、ただ無表情で応じる。


「当たり前だろ」


 短く返すイヒトをよそに、クトリは構わず言葉を続けた。


「狩人連中の使う人造印なんて決まりきってて、面白みに欠けるんだよな。もっと新しいのを開発しようとか思わないわけ?」


「お前こそいい加減、そのゲーム感覚を直せよ」


 呆れた声で返されても、クトリは困ったように笑いながら肩をすくめるだけだった。


「開発なんてできるの?」


 やり取りを聞いていたサクが興味津々に尋ねると、クトリは少し誇らしげに頷く。


「完全な新規開発は難しいけどね。既存の印を参考にしたり、組み合わせて改造印器を作るんだよ」


「へえ、そんなこともできるんだ」


 サクが感心したように言うと、クトリはさらに饒舌になる。


「印器と、武器や防具を組み合わせることだってできるんだぜ。炎を纏う剣や、風で敵を吹き飛ばす盾もつくったもんさ」


「おおー!」


 サクが素直に驚くと、クトリはますます得意げな表情を浮かべた。

 しかし、イヒトの反応はやはり冷淡だった。


「あったなあ。肉も皮も焼き尽くして素材を台無しにする剣に、風ぶっ放して()()()後ろに吹っ飛ぶ盾が」


 その言葉に、サクの顔が引きつる。

 だが、クトリはまるで気にした様子もなく、軽く笑って返した。


「なーに、いい装備を作るには失敗はつきものさ」


「その()()って考え方がゲーム感覚だつってんの……遊びでやってんじゃねえんだぞ」


 イヒトがため息混じりに言い返すが、クトリには全く通じていない様子だった。

 そんなやり取りをよそに、サクがまた話を切り出した。


「そんなこともできるんだ……じゃあさ、クトリさん。転送印を――ってできるかな?」


 サクが思いついたアイデアを口にすると、クトリの目が興味深そうに輝いた。


「お、いい発想だな。その使い方、たぶん前例もあるかもしれないぞ」


 二人はすぐに盛り上がり、相談を始める。


「マジっ!? じゃあ、さっきの粘着の奴と組み合わせて――」


 サクが興奮気味に提案すると、クトリは少し顎に手を当て、考え込むような仕草を見せた。


「んー……できなくはないけど、知っての通り生成印は消費が激しいだろ? ああした複雑な化合物はかなり少量しか作れないんだよ」


 慎重な口調で説明されると、サクは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに決意を固めたように口を開いた。


「えっと。実はオレさ――」


 その言葉に、クトリの目が驚きで見開かれる。


「……それ、本当?」


「うん、前来た時押してもらったじゃん。それで――」


 クトリは真剣な表情に変わり、何かを計算するように視線を宙に泳がせた。


「なるほど……うん、行けるかも。試す価値はある」


「ほんとっ!? じゃあやっぱり手首から――」


「いや、アプローチとしては――」


 二人は次々とアイデアを出し合い、議論はますます熱を帯びていく。


 その様子を眺めていたイヒトは、苦々しい表情で呟いた。


「ったく。合わせると、余計に厄介になる奴らだな……」


 深いため息をつき、肩を落とすイヒト。

 だが、そんな嘆きなどお構いなしに、二人の賑やかな声だけが部屋に響いていた。




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