第53話 気づかない方がおかしいだろ
本日更新予定2話中の2話目です。
「結局、物置の中身が一番のあたりだったかもな」
イヒトが呟くと、サクも頷いた。
「あれはよかったな。登録してるとき、マジでテンション上がったもん。プレイヤーもスピーカーも、状態いいの多かったしな」
サクは楽しげに語る。
サクが特に喜んでいたのは、倉庫の奥に眠っていた旧時代の音楽製品だった。
レコードやカセット、CD、さらには再生機器まで――ひどく興奮したサクは、いくつかを買い取るほどだった。
「本当に、あんなの買ってよかったのか?」
イヒトが怪訝そうに尋ねると、サクは眉をひそめる。
「だからさ、イヒトは一回、自分の部屋に飾ってるモンを見直して来いよ。壊れた機械をただ並べてるだけのくせに」
「……あれは、いいんだよ」
はぐらかすイヒトに、サクは鼻を鳴らす。
「その点、オレのは動いて音が鳴るんだからな。最高じゃねえか」
「奇跡的に直せたからって、調子に乗るなよ」
妙な負け惜しみを吐くイヒトに、サクは肩をすくめ、ため息をついた。
「ま、イヒトが何を好きでもいいけどさ。約束した以上、ちゃんと処分しろよな」
そう言いながら、サクはチラシ類が詰まった段ボール箱をポンと叩いた。
その量は、すでに五箱を超えている。
「仕分け、さっきから全然進んでないぞ。こっちはずっと手持無沙汰だ」
サクは大きく伸びをしながらイヒトを見やる。
リィズリースも手を止め、静かにイヒトを見つめていた。
二人の役目は、仕分けられたものを箱に詰め直すこと。
だが、肝心のイヒトの手が止まりがちで、暇を持て余していた。
「チッ、わかってるよ」
イヒトは舌打ちし、苛立った様子で段ボールの中に手を突っ込む。
とはいえ――その動きは、どこか緩慢だった。
イヒトは大量の空き缶の前で唸っていた。
コレクションのつもりらしいが、知らない奴から見ればゴミにしか見えないな――と、サクは深くため息をついた。
作業は、一向に進まない。
暇を持て余したサクは、気まぐれにイヒトへ話しかけた。
「なあ、次に遺跡に行くのっていつになるんだ?」
「さあな。ただ、近いうちに様子を見に行くつもりではあるけどよ」
それを聞き、サクは少し遠慮がちに口を開く。
「……じゃあさ、オレも一回くらい行っちゃダメかな?」
「はぁ?」
イヒトが驚いたようにサクを見ると、サクは端末を掲げてニヤリと笑った。
「へへ、オレも資格とったんだ」
画面には、調査助手の資格が表示されている。イヒトは深いため息をついた。
「……お前な、何考えてんだよ」
「遺物の山見てたら、取りたくなってさあ。な、一回だけでもダメかな?」
冗談めかして言うサクに、イヒトは疲れた声で返す。
「お前が酒飲める歳になったら考えてやるよ」
イヒトはそう言い捨て、あっさり大量の空き缶へと向き直った。
「あーあ、やっぱダメか……結局リィズだけゴネ得かよ」
「ゴネられたわけじゃねえよ」
もっと強引で有無を言わさない何かだ――そう思いながら、イヒトが元凶に視線を向ける。
当のリィズリースは、ただ静かに微笑んでいるだけだった。
「その節はありがとうございました」
「……ま、コイツに関しちゃ釘を刺さなかった俺も悪いからな」
イヒトは色とりどりの空き缶を手に取っては降ろし、どれも捨てられないと顔をしかめながら、あきらめたように肩をすくめた。
そんなイヒトをじっと見つめながら、サクはぽつりと漏らす。
「やーっぱさぁ……イヒトってリィズに甘いよな」
「んなこたねえ、って言ってるだろ」
「そうかなあ」
サクは考えるように天井を見上げ、やがてイヒトとリィズリースを交互に見つめた。
そして、胡坐をかいたままイヒトにずり寄り、小声で尋ねる。
「なあ、間違ってたら悪いんだけどさ」
「……なんだよ」
「リィズリースって、自動人形だったりする?」
その瞬間、二人の心臓が跳ねた。
「うわっ!!」
驚きの声を上げたのはサクだった。
気づけば、リィズリースの顔が目の前に迫っている。
「私は人間に見えませんか?」
薄く微笑んだまま、リィズリースはじっとサクを見つめていた。
「え、いや……」
サクはしどろもどろになりながら言葉を探す。
「その……見た瞬間から、人形みたいにきれいっていうか――自動人形だなとは思ってたんだよ」
「……最初からかよ」
イヒトが思わずぼやく。
「でもイヒトも周りも、人間みたいに扱ってるからどうしたもんかと……」
サクは気まずそうにリィズリースをちらりと見るが、その表情からは何も読み取れない。
「なるほど、参考になりました」
リィズリースは、変わらぬ笑みをたたえてそう言った。
「ですが、一つ訂正させてください。私は自動人形ではありません」
そう言いながらすっと身を引くと、何を納得したのか、あるいはしていないのか――リィズリースはいつもの調子に戻った。
「自動人形じゃない……?」
サクは疑問をつぶやきながら、イヒトのほうを見る。
「……まあ、似たようなもんだ」
イヒトは苦し紛れに答え、頭を抱えた。
バレた以上、覚悟しないとな――と、イヒトは思った。
自分だけが責められるならともかく、ホカゼたちに迷惑がかかるのは避けたい。
せめて遺跡のことが落ち着くまでは、口止めできないか――
「えっとさ、秘密のままの方がいいのかな」
サクの一言が、イヒトの悩みをあっさり一蹴する。
「――いいのか?」
「いいもなにも、わざわざ言いふらす理由なんかないし。悪いことしてるわけじゃないんだろ?」
「まあ……悪いってこたねえだろ」
「誰かに迷惑かけたりもしないよな?」
「……多分、バラすほうが問題になる」
「じゃあ、オレの口からは何も言わないよ」
それだけ言うと、サクは立ち上がり、扉のほうへ歩き始めた。
「そろそろ帰るかな」
「あ、おい!」
イヒトが呼び止めるが、サクは振り返らない。
「もうやることねえんだよ。イヒトが何でもかんでも『いるもの』扱いして作業が進まねえから」
「……あっ」
イヒトは、なぜ倉庫部屋に三人も居座っているのかを思い出した。
目の前には、色とりどりの空き缶がただ並べられているだけ。
「そんなに惜しいなら、もういっそもう一部屋も借りちまえよ」
そう言い残し、サクは扉を開ける。
「ぐっ……」
イヒトのうめき声に、サクは手を振って応え、そのまま去っていった。
その背中を、リィズリースはじっと見つめていた。




