表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/99

第33話 前置きしたら何言ってもいいわけじゃないよ

本日更新予定2話中の2話目です。





 撮影が終わり、翌日から再びイヒト、サク、ラルの三人はがれきの撤去現場へ向かい、作業を続けていた。


 マトモが引き起こしたトラブルの影響もあり、予定より早く作業は最終日を迎えた。




 ◇




 ホンゴウリサイクルの事務室。


 夕日が差し込み、室内を赤く染めている。

 ホカゼは古びた卓上端末に向かい、静かに事務手続きを進めていた。


 それが終われば、ようやくがれき撤去の仕事もすべて完了となる。

 イヒトたち三人は、それぞれ思い思いにその時を待っていた。


「はー、やっとだよ」


 サクは大きく伸びをすると、ソファへとどさっと腰を下ろした。

 それなりにきつい仕事だった。終わった喜びを全身で表現するのも、無理のないことだろう。


 だが、同じく解放されたはずのイヒトは、ソファに腰かけたまま難しい顔をしていた。

 その様子に気づいたサクが、思わず声をかける。


「どうしたんだよ、イヒト」


「……いろいろ考えてんだよ」


 その一言に、サクはハッとした。


 ――そうだ、イヒトは狩人をクビになっている。


 今回の仕事はあくまで一時しのぎで、失職中という事実に変わりはない。

 それを思い出し、慌てたように声を張り上げた。


「ま、まだ一週間くらいしか立ってないし! これからだって!」


 ぎこちなく笑ってみせるが、イヒトは眉をしかめ、ため息をつく。


「一週間『も』だろ」


「そ、そうだけどさあ……ま、何とかなるって!」


 バツの悪そうに頭を掻くサクに、イヒトは鋭い視線を向けた。


「……あのな、お前の話を考えてるんだぞ」


「……はぁ? オレ?」


 不意に話の矛先が自分に向き、サクは目を丸くする。


「定期便の予約が取れたの、二か月後だろ。そんなに帰れなくて、本当に大丈夫なのかよ?」


「……なんだ、その話かよ」


 サクはうんざりしたように顔をしかめた。


「大丈夫だって。何でそこまで心配するんだよ、イヒトは」


 イヒトは一瞬、言葉を詰まらせた。だが、次の瞬間、真剣な口調で言い放つ。


「下手すりゃな、俺が誘拐犯扱いされかねないんだよ」


「はぁ~~?! お前さあ……!」


「警察をなめるなよ。アイツらは白も黒に変える」


 真顔で言い放つイヒトを見て、サクは今度こそ心底呆れた顔を浮かべた。


 そんな二人のやり取りに、ホカゼが口を挟む。


「大丈夫だよ、イヒトさん。お父さんも、サクさんのおばさんと話し合ったっていってたし」


 ホカゼは端末を操作しながら言い、サクもうなずく。


「そうそう、ちゃんと報告済みだって。帰りが遅くなるのも、学校の件も全部相談してるから」


 イヒトは「……ならいいけどよ」と納得したようにつぶやく。


 だが、その表情にはまだ何か気がかりなものが残っているようだった。


「なんだよ、まだ何かあんのか?」


 サクが怪訝そうに尋ねると、イヒトは腕を組んでぼそりと答えた。


「アイツのことも考えなきゃなんねーんだよ」


「リィズリースさんのこと?」


 ホカゼが意外そうに聞くと、イヒトはうなずく。


「ずっとこのまま、ってわけにはいかないだろ」


 その言葉に、ホカゼは苦笑いを浮かべた。

 リィズリースの自由気ままさには、さすがのホカゼも思うところがあるのかもしれない。


「でもリィズリースさん、たまに事務作業手伝ってくれるときは、私がやるより何倍も速く終わらせてくれるんだよ」


「たまにじゃダメだろ」


「……あはは」


 少し呆れたように言うイヒトに、ホカゼは曖昧に笑ってごまかした。




 ふいに、サクが意を決したように口を開いた。


「で、肝心のイヒト自身はどうなんだよ」


 最初こそ気を使っていたが、イヒトがこれだけ他人のことばかり気にしているのだ。

 ならば、今度はお前自身のことを考えろ、と言いたくもなる。


「……俺のことはいいんだよ」


 そっけなく返した途端、サクとホカゼの視線が鋭くなる。


「いいか。大人ってのはな、自分のことくらい自分でやるもんだ」


 啖呵を切るイヒトだったが――


「じゃあ、もう仕事の紹介しなくてもいいんだね?」


 ホカゼの反撃に、イヒトはばつの悪そうに言葉を詰まらせた。

 わずかな沈黙が流れたそのとき、黙っていたラルが口を開いた。


「無礼を承知で言わせてもらうが、遺跡へ行けばいいのではないか?」


 不意に投げかけられた提案に、一瞬場が凍る。


「一ノ井が()()()()()()()()()は知っている」


 ラルは何でもない風に言った。


 ゴミ漁り――

 遺跡から遺物を持ち帰るイヒトは、そう呼ばれ蔑まれていた。


「だが、遺物の発掘などよその都市ではいたって普通だ。売却も、この店でしたらいい」


「それは……」


 ホカゼが言葉を詰まらせる。


「いまさら人目など、気にする必要もないだろう」


 ラルがさらに続けると、イヒトの目が鋭くなった。


「……あのな、お前。俺は狩人クビになってんだよ。わかるか?」


 イヒトは苛立ちを抑えきれず、ラルを睨む。


「無礼を承知」と言えば何を言ってもいいと思うなよ――


 そんな表情だったが、当然ラルには伝わらない。


「わかるはずがないだろう。遺跡発掘は復興調査士の領分なはずだ。狩協に所属する必要がどこにある?」


 まるで尋問するようなラルの態度に、イヒトは舌打ちする。


「前に言っただろ。小秋市(この街)は狩人がもてはやされて、ゴミ漁りは毛嫌いされてるってな」


「説明になっていないな」


 ラルが鋭く返すが、イヒトは鼻を鳴らし、それきり黙り込んだ。


 ホカゼは俯き、サクはおろおろと視線をさまよわせる。

 事務室は一気に、沈黙に包まれた。




 だが――


 このままではいけないと、そう感じていたのだろう。




 やがて、ぽつりとホカゼが口を開いた。


「三年前……」


 その声に、誰もが自然と耳を傾ける。


「小秋市は、クリーチャーの集団に襲われたんです」




 小秋クリーチャー災害――それは過去に例を見ないものだった。


 クリーチャーの群れが都市に被害をもたらすことはある。だが、その多くは散発的で、一時をしのげば撃退できる程度のものだ。


 しかし、三年前のそれは違った。


 大量のクリーチャーが、まる半日以上にもわたって小秋へと押し寄せ続けたのだ。




「その時に――狩人のみなさんが団結して、街を守ってくれて……」


 ホカゼが語ると、サクが思い出したように声を上げた。


「あっ! 『小秋の奇跡』か!」


 ホカゼが苦笑しながら頷く。


「……そんな風に言われてるみたいですね」


 隣のあおい市に住むサクの耳にも、その話は届いていたらしい。

 災害の規模に比して、被害が極端に少なかったことが「奇跡」と称されているのだ。


「小秋市において、狩人が必要以上に英雄視されている理由は分かった。で、それが発掘とどうつながる?」


 ラルの問いに、ホカゼは続けた。


「『奇跡』なんて言われてますけど、被害は決して小さくなかったんです」


 避難誘導が迅速だったため、民間人の死傷者こそほとんど出なかった。

 だが、災害の爪痕は今も小秋市に根強く残っている。


「特に、クリーチャーが集中した北東部では、多くの建物が破壊されました。だから、市域から外さなきゃいけなくなったんです」


「……市域から外す?」


 サクが首をかしげると、イヒトが補足する。


「市域ってのは、建物の密集度や荒廃具合によって決まるんだ。防衛にかかわるからな」


 ホカゼが頷き、言葉を継ぐ。


「そして、外された地域の建物は、遺跡に認定されたんです」


「遺跡に認定……って、つい先日まで都市内にあった建物が?」


 驚くサクに、イヒトは肩をすくめる。


「『市域の外にあって活用可能性がある』なら遺跡なんだよ」


 サクは「なるほど」と頷くが、ラルはまだ納得しきれない様子だった。


「遺跡となった理由はわかった。だが――」


 ラルの言葉を、イヒトが継ぐ。


「なんで狩協とつながるのか、だろ?」


「それは、発掘を行うはずの調査士が……」


 ホカゼはうつむき、言葉を絞り出そうとした。

 しかし、その先が続かない。事務室の空気が、再び重たく沈んだ。




 イヒトはため息をつき、あっさりと言い放った。


「火事場泥棒ってやつだ」


 ホカゼの体がビクッと震えた。


「よりによって、襲撃の真っ最中にやらかしたアホがいたんだ。調査士としての技能をふんだんに活用してな」


「い、一部の人だけだったんです!」


 ホカゼが慌てて否定する。

 だが、目撃情報は多数あり、悪評は根強く残った。


 小秋市の人々の怒りは、個人にではなく「調査士」という職そのものに向かってしまったのだ。

 イヒトが淡々と続ける。


「そのせいで発掘そのものへの猛反発が起きた」


「かつての所有者や住民たちが、調査士に荒らされるのをよしとしなかった、か」


 ラルが低く言い、イヒトは無言で頷いた。

 こうして、小秋市は異例の措置を取らざるを得なくなった。


「そこで、狩協所属の人間だけが、()遺跡を発掘できるようになったわけだ」


 イヒトはさも当然のように言うが、サクがすかさず突っ込む。


「いくら狩協に人気があるからって、完全に畑違いじゃん。復興調査には資格が必要だろ?」


「残ってるのが等級E以下の、廃墟同然の遺跡がほとんどだったからだ」


 遺跡はAからFまでの等級に分けられる。

 そのうちE・Fランクは、事実上の廃墟とみなされる。


「ああ、じゃあ『調査士』じゃなく『調査助手』でいいのか」


 サクが納得すると、イヒトは肩をすくめた。


「そういうこった」




「まともな調査士のほとんどは小秋を去ってのもあってな。狩協による復興調査――発掘の主導はスムーズに決まった」


 そう言いながら、イヒトはソファで足を組みなおし、ちらりとホカゼを横目で見る。

 ホカゼはとうに端末から手を離し、膝の上に置いた拳をぎゅっと握りしめていた。


「俺は、組んでたチームが解散してな。ちょうどいいってんで、資格を取ってソロでもできる『復興調査』を始めたわけだ」


 しかし――


「ま、狩協所属だからつって『ゴミ漁り』が許されるわけでもなかったけどな」


 イヒトは皮肉交じりに鼻を鳴らした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ