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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第二章 Berserk Tribe

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組み合わせ/食い合わせ

「あの〜」


 とゼフュロスとジェントルの会話に割り込んできたのはリリルだ。


「各地区のダンジョンって必ず廃墟タイプがあるじゃないですか。詳しく調べた訳じゃないですけど、その中で何度かシャムール像を見た事はあります。セーフティゾーンになっているので、廃墟ダンジョンではまずシャムール像を探すのが定番になっていますから」


 リリルの言葉を信用していない訳ではないが、ダンジョンに詳しくないゼフュロスが、トンブクトゥに視線を向けると、トンブクトゥは大きく頷き、話を続ける。


「廃墟ダンジョンでシャムール像前がセーフティゾーンになっているのは周知の事実ですね。それに、検証勢がこの広い地方フィールドを歩き回ったところ、各地で遺跡を確認しています。恐らくそこにもシャムール像はあるのではないかと」


 トンブクトゥの言葉に、今度はゼフュロスが大きく頷く。つまるところ、各地……と言うも、このエイト地方(リージョン)を隈無く歩き回れ。とのシャムール様からのお告げだとゼフュロスは判断した。


「理解しました。すみません、皆さんの話の腰を折ってしまって。ええ〜っと、何の話でしたっけ?」


 これに真っ赤になって首を左右に振るロイコ。


「いやいやいや、話をぶり返さなくて良いから! 俺の事はもう良いので、もっと有益な話をしよう! そうだな。こうやって家族が揃った訳だけど、どうする? 家族でパーティ組んで遊ぶか?」


 己の下ネタから離れようと、頭をフル回転させて、ロイコはリリルに話を振るう。これに深く長く溜息をこぼすリリル。リリルとしては、ロイコが馬鹿をしないように見張る為にここまでやって来たのだ。フォンやんさんとロンシンさんもいたので、暫くは兄たちとパーティを組んでも良い。と思っていたのだが、父から(もたら)された情報によって事情が違ってきた。元々のパーティやクランと相談する必要が出てきたのだ。それはこのゲームに慣れたフォンやんも同じ状況だとリリルは察している


「どうしよう? お兄はもう人を殺すって言う目的を達成したし、唯一の友人のロンシンさんもいるし、わざわざ私とパーティ組む意味ある? 2人でパーティ組んで遊べば?」


「父さんはリリルちゃんとパーティ組むぞ!」


「え、嫌だよ」


 ロイコに打診したのに、反応したのはジェントルだった。これにジト目を向けながらリリルは即座に拒否した。


「そんな……、馬鹿な……!?」


 この世界にログインすれば、もれなくリリルと遊べると思っていたジェントルは、涙目になって崩折れる。


「優ちゃんは私とパーティ組むわよね?」


 そんなジェントルを横目に、にっこり笑顔でロイコに尋ねるホリー。ただその目が笑っていないので、ロイコの背中を冷や汗が流れる。


「やりたい事によるかなあ……」


 と目を逸らすロイコに対して、


「やるわよね?」


 と再度、圧を掛けるホリー。


「ハイ。ソウデスネ」


 失禁と脱糞の後始末を手伝って貰った負い目もあり、「嫌だ! 俺は自由に遊ぶんだ!」と拒否出来ないロイコだった。


「母さんがパーティを組むなら、俺とも組むよなあ?」


 流石にここでハブられるのを嫌がったジェントルが、ロイコにヘッドロックを掛けながら、自分ともパーティを組むように圧を掛けてくる。これが地味に苦しくてタップするロイコの姿を見ながら、この3人にプラスでロンシンをパーティに組み込むのは、流石に可哀想だと思い至り、ロンシンへ1度視線を交わしてから、


「はあ……。私もパーティに加わるわ」


 と、この3人を御せるのは己だけだ。とリリルはパーティ参加を決めるのだった。


(後でメンバーにメッセージ送らないとなあ)


「おお! 本当か! やったあ!」


 これを聞いて、リリルのやるせなさが理解出来ていないジェントルが、リリルに抱き着こうとするも、鳩尾にショートアッパーを食らってその場に沈む。


「そう? 無理しなくても良いのよ? 私だって昔はゲームやっていた時期だってあったんだから」


 そんなリリルにホリーはやんわりと無理しないように促すが、それがロイコとの蜜月が減るからだとリリルは理解していた。それはロイコがホリーをガン見しながら、「俺の意見は?」と問い質しているのをホリーが無視している事からも分かる。


「昔と今じゃあ、ゲームも大分進化しているから、私がいた方が両親(ふたり)も楽しめると思うから」


「あら? そう?」


 リリルの弁にホリーは微笑み返す。両者ともにっこにこの笑顔なのだが、どこか薄ら寒い感覚を覚えるフォンやんとロンシンだった。


「ああ、それじゃあ、俺は暫くロンシンと2人旅でもするかな」


 フォンやんはこの場に長く留まるのは利益がない。と判断したのか、さっさと立ち去ろうと腰を上げたが、


「あら? 折角ですもの。鳳陽くんたちも一緒に遊びましょうよ?」


 こうなってはロイコとの2人時間が確保出来ない。と判断したホリーは、ならば道連れを増やそう。とフォンやんに提案する。


「え? いやあ、俺たちは……」


 真っ直ぐフォンやんを見詰めるホリーから目を逸らすフォンやんであったが、ここで断ると仲の良い自分たちの母から、「何で断ったの?」と暫く小言を言われ続ける未来を幻視したので、


「ハイ。ソウデスネ」


 とロイコと同じ反応しか出来なかった。


「じゃあ、ゼフュロスくんだっけ? あなたたちもご一緒にどうかしら?」


「は?」


 まさか自分にまで矢印が向けられるとは思っていなかったゼフュロスは、飲んでいたお茶を吹き出しそうになりながら、これをすんでのところで堪えると、クロリスたちに視線を向ける。と言ってもこのパーティの場合、結論は決まっていたが。


「すみません。僕の称号スキルは『お荷物』と『空回り』と言って、パーティやクランに入ると、もれなくクランやパーティのメンバー全員にステータスダウンと獲得経験値にデバフが入るんです。なので申し訳ありませんが、辞退させて下さい」


 ゼフュロスはやんわり断りを入れた。つもりだったが、


「何だそれ!? 面白えな!」


「ステータスがダウンしている状態であれだったのか!? 面白え!」


 と如月家男児2人が興奮気味に食い付いてきた。


「面白えじゃねえか。負荷が掛かっていないと、己の鍛錬にならねえからな。ゼフュロス? だっけ? 俺たちのパーティに入れよ」


「そうそう。この世界での闘いは、ちょっとかじった程度だが、そこら辺のプレイヤー相手なら、ステータスがダウンしている状態くらいで丁度良い。入ってくれるか?」


 ジェントルとロイコは、ステータスダウンなど気にもならない。とばかりに、ゼフュロスを勧誘してくる。


「いや、55%もステータスと獲得経験値がダウンされるんですよ? それに加えて僕は37%ステータスがダウンされる。つまり本来の8%の能力しか発揮出来なくなるんです。本当にお荷物でしかなくなるんですよ?」


 どのようにステータスが減らされるのか、ちゃんと説明するゼフュロスだったが、これを聞いても目を輝かせるジェントルとロイコ。


「うおおお! 面白え! 55%ステータスが減らされた状態ってどんな感覚なんだ? 普通に歩くのだって大変だろ?」


「『2%しか全力出せない』とか言っているけど、その目は輝きを失っていないな! それでも勝ち筋があると踏んでいるやつの目だ! 俺くらいならそれでもワンパンか? くうううう。滾る。メッッッッチャ滾る! 俺たちとパーティを組もうぜ!」


 何故かぐいぐい来るジェントルとロイコに、プレイヤーからこのような待遇を受けた事のないゼフュロスは、色々考え過ぎて頭が爆発して真っ白となり、


「ハイ。ソウデスネ」


 と返すのがやっとであった。


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