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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第二章 Berserk Tribe

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大恥をかく

タイトルを『称号【ザコボッチ】の僕は、仲間に恵まれている』に変更しました。

「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜!!」


『心拍数の異常を計測しましたので、緊急ログアウトしました』と言うメッセージが流れるヘッドギアを頭から外し、投げ捨てるかのように布団に叩き付ける優人。


「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 言葉にならない悲痛な叫びとともに頭を掻き毟り、寝床で右往左往しながら、その言葉に出来ない激情を、布団に叩き付けていた。


(クソッ! クソッ!! クソッ!!! クソッたれ!!!! 負けた! 完全に完璧に完膚なきまでに殺された!! しかも相手の本気を引き出す為に、馬鹿みたいな煽りをして、怒りを買って叩き潰された!! 何て、何て何て何て何て何て情けない負け方したんだ!! 俺は最低の馬鹿野郎だ!! クソッたれだ!! 畜生!!)


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜!!」


 ドタバタと寝床で暴れ回るしか感情の行き場がなく、どれだけ暴れ回っても自身の情けなさをなかった事にする方法などなかった。


「優ちゃん、どうしたの? 何かあったの? Gでも出たの?」


 いつもは静かな家に、ドタバタとまるで強盗でも押し入ったかのような音と振動が家中に響き渡れば、家人が何事か? と部屋にやって来るのは当然だった。(ふすま)を開けて中を覗き込んできたのは、優人の母、(あおい)であった。その葵は襖を開けた瞬間に、鼻を突く異臭に顔を(ひそ)めた。


 寝床で暴れ回る我が子は、何に煩悶しているのか、暴れ回るのを止める様子はない。しかし何よりもその下半身が問題だった。優人は失禁し、脱糞までしていたのだ。


「どうしたの!? 何があったの!?」


 兎に角優人の気を静めようと抱き締める葵。


「はあ、はあ、はあ、あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜!!」


 抱き締められて動きは止まったが、優人は叫ぶのを止めない。それでも優人を落ち着かせようと、葵は優人の背中を優しく撫で続ける。


「はあ、はあ、はあ、はあ…………、うぐっ、うわあああああああ!!!!」


 そうやって叫ぶのを止めたかと思ったら、今度は盛大に泣き始める優人。本当に何が起きたのか理解に苦しみながらも、「大丈夫大丈夫よ」と優人が落ち着くまで、葵はその背中を撫で続けるのだった。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 エイトヴィレッジ南南西地区の冒険者ギルドでは、気不味い雰囲気が流れていた。死んだロイコが帰還の魔法陣から戻ってくるのを、リリルたち3人とゼフュロスたちがテーブルを囲んで待っていたからだ。あれから1時間経過したが、まだロイコは帰還の魔法陣に現れない。


「す、すみません、お仲間さんを殺してしまって」


 小さくなって頭を下げるゼフュロスに、先程のロイコとの戦闘を見ていたリリルたちは、ビクッとなって顔を思い切り左右にブルブルと振るう。


「良いんですよ、うちの兄が馬鹿やっただけなので」


 へへ、と愛想笑いをしつつ、リリルはこの気不味い時間が1秒でも早く終わらないかと、兄がここへ帰還してくるのを待ち続けていた。


(何やっているのよ! あの馬鹿兄貴! もう! 魔王候補を倒すようなストレンジャーとずっと一緒にいるなんて、何時お兄みたいに殺されるか分からなくて、滅茶苦茶怖いんですけど……)


 チラチラと周囲に視線を向けるも、他のプレイヤーたちも先程の騒ぎは目に耳にしており、関わり合いになりたくない。と目を逸らす。因みにゼフュロスとグレイによって輪切りにされた連中は、ゼフュロスが冒険者ギルドに来て早々、そそくさとギルドを後にしている。


「流石にショックで、もう今日はログアウトしちゃったんじゃないか?」


 この場の空気に耐え兼ねたロンシンが、そう口にすると、我が意を得たりとリリルがロンシンを見遣る。


「それ! ……いや、そうじゃなくて、そう! もしかしたらお兄、ログアウトしちゃったのかも知れないから、私、お兄の様子見てくるね!」


 この場を離れる良い口実を得たリリルは、直ぐ様席を立つと、帰還の魔法陣へと向かおうとする。その時だ、その帰還の魔法陣が光り出したのは。誰かが死んだか、ログインしてきたようだ。とギルドにいる者たち全員の視線が、帰還の魔法陣に向けられた。


「…………」


 現れたのは、憔悴しきったロイコであった。頬は削げ、肩を落として気力なく、ゆらゆらと足許が覚束ない歩き方をしながら、リリルたちを見付けたロイコは、そちらへとどうにかこうにか歩いてきた。そしてゼフュロスに土下座した。


「申し訳ありませんでした」


「いえいえ、僕の方こそ、ムキになってあんな暴挙に出てしまい、申し訳ありませんでした」


 互いに謝るロイコとゼフュロスだったが、どちらも頭を下げて譲らないので、その場の空気は平行線だ。


「まあまあ、これで今回はノーゲームと言う事としましょう」


 そこへ声を上げたのは、事態を静観していたトンブクトゥだった。


「こうやって一緒の卓を囲む事になったのも何かの縁です。ちょっと空気を入れ替えるつもりで、何か頼みましょう。すみません、ウェイトレスさん」


 トンブクトゥの掛け声に、一瞬苦い顔をしたウェイトレスだったが、すぐに営業スマイルに戻ると、


「は〜い、ご注文お伺い致します」


 とトンブクトゥたちのいる席へと向かう。


 その間にゼフュロスはロイコを自分の隣りに座らせると、皆が注文している間に、ゼフュロスに取ってクロリスはどんな存在なのか、その尊厳を傷付ける事が、どれだけ仲間である自分の怒りを買うのかを説明した。


「本当に申し訳ありませんでした」


 それを聞いてまた土下座しようとするロイコを、何とかその場の面子で席に座らせる。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「皆さんはパーティを組んでいる訳でもないようですが、どのような集まりなのでしょう?」


 ドリンクと軽食が来たところで、トンブクトゥが口火を切る。


「あ、私とお兄は現実でも兄妹で、こっちの2人も兄弟で私たちの友達です」


 それにリリルが答える。


「ロンシンとロイコが新しくこのゲームをやるって言い出したから、今日迎えに来たんだ」


 フォンやんがそれを補足した。


「え? 今日始めたばかりなんですか?」


 それを聞き、トンブクトゥは驚き、ロンシンとロイコを『道理の観察眼』で交互に鑑定し、そしてロンシンとロイコの2人にレベル差がある事に疑問を持つ。


「ああ、何かお兄はチュートリアルをやりきったみたいで、それでレベルが高いんです」


『鑑定』スキルで何かしら読み取ったのだろう。と推察したリリルがそのように補足する。


「あのチュートリアルを最後までやり遂げたんですか!?」


 そりゃあ驚くよなあ。と視線を交わすリリル、フォンやん、ロンシン。ロイコは何事か分からず首を傾げている。


「そうですか、来たばかりなのに申し訳ありませんでした。大丈夫ですか? 顔色も悪いですし、僕が言うのもあれですけど、今日はもう休まれた方が良いのでは?」


 トンブクトゥとリリルたちが話している間、ゼフュロスは常にロイコの体調を気にしていた。これにいちいちビクビクするロイコ。ロイコからしたら、ゼフュロスに殺された事は、相当なトラウマになっているらしく、その声を聞いただけで身体が萎縮してしまう。


「ああ、いえ、この後、待ち合わせがありますので、教会へ行こうかと」


「へ? 待ち合わせ?」


 これに振り返るリリル。ロンシン兄弟以外に、特に親しい友達のいないロイコが、誰と待ち合わせを? とロイコの発言に首を傾げるリリルだった。


「いや、お袋が、さあ……」


「お母さんが!? どう言う事?」


 話を聞いても理解出来ないリリルだった。


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