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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第二章 Berserk Tribe

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思いと心付け

「冗談だよ、冗談。だからそのドン引きの顔やめて」


 リリルの冷たい視線に晒され、慌てて取り繕うロイコ。


「冗談だったの? 別に自分のスキルを隠すのは普通だから、冗談に聞こえなかったわ」


「普通なのか?」


 ほぼ全てが初体験のロイコには、ゲーマー周りの常識と言うのが分からない。


「ロイコだって、剣道の試合では手の内を隠したりするだろ?」


 フォンやんがロイコにも分かり易く例えを交えて説明したが、首を傾げるロイコ。


「いやあ? いつも全力一撃で終わりだから、試合で駆け引きとかしないかな」


 これに溜息を吐く3人。そう、ロイコは現実世界では強過ぎるが為に、シャムランドにいるのだ。


「ああ、でも親父との実戦稽古ではフェイントの応酬になって、決めの一手が分からないようには立ち回るな」


 とうんうん自分の言葉に頷くロイコ。


「そう、それ。このゲームだとスキルが無数にあるから、プレイヤーごとにスキルを組み合わせた最善手、奥の手ってのがあるのよ。だからスキルを隠すのは普通なの。勝敗と言うよりも生死に関わってくるからね」


 リリルは気を持ち直し、ロイコの言を補強する。


「成程ねえ。まあ、称号スキルだっけ? それに関してはシャムール様とのチュートリアルでまあまあ使えるようになったと自分では思ったから、それなら話さないままでいようかな」


 またうんうん頷くロイコ。……の隣りでロンシンがテーブルに突っ伏す。


「何だよ、称号スキルを口にした俺が馬鹿みたいじゃないかよ」


 と膨れっ面だ。


「そうでもねえぞ。普通はロンシンみたいにすぐにこっちの世界(シャムランド)にやって来るから、自分のスキルがどれくらい使えるのか理解していないのが殆どだ。だから稼働初期から遊んでいる俺のような先達にアドバイスを受けるのは普通だ」


 突っ伏したままのロンシンの頭を、ワシャワシャと撫でるフォンやん。


「それってつまり俺が普通って事だよね?」


 しかしロンシンの機嫌は直らなかった。己が普通と認定された事には間違いないのだ。これには3人がロンシンから目を逸らす。それが更にロンシンが普通である事を証明していて、更に膨れっ面となるロンシンだった。


「さ、さあ、それじゃあ話も一段落した事だし、そろそろダンジョンアタックしちゃう?」


 あからさまに話題を変えるリリルへジト目を向けるロンシンだったが、ここでゴネたところで得する訳でもない。と突っ伏した姿勢から背を伸ばす。


「いきなりで良いのか?」


「何がです?」


 早速ロイコとロンシンの2人には、簡単めのダンジョンにでも挑んで貰って、この「ゲーム気持ち良い!」と思って貰おうと席を立ったリリルに、フォンやんが待ったを掛ける。


「うちのノーマル弟は置いておいて、ロイコは最初に来た時点で個人レベルが10あり、更にさっきの戦闘でレベルが上がっている。【冒険者】以外のジョブに就けるだろ?」


「ああ、確かに。武器もさっき襲ってきた奴らのドロップがあるから、強化も出来るのかあ」


 とフォンやんの言葉に納得してもう1度座り直すリリル。


「どうする? お兄。何かなりたいジョブとかある?」


 妹に尋ねられたロイコは少し引いていた。


「え? このゲーム、働かないといけないのか? そう言う感じ? 職業体験をして、どの職業が自分に向いているか、将来を見据えて考えるゲームなのか?」


 これには嘆息を通り越して3人テーブルに突っ伏した。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 その後、諸々説明して、何とかロイコが理解出来たところで、ロイコが「それなら剣士だな!」とおおよそ分かりきっていた事を口にしたので、4人は戦士ギルドへ向かう事とした。


「なあ、2つ職業に就けるなら、俺はもう1つは仏師? いや、シャムール様は仏じゃないか、彫刻師? になりたいんだけど」


 村をのんびり歩いていると、最後尾から両手を頭の後ろに置きながら、ロイコがそんな事を口にしてきた。


「彫刻師? 何でだ?」


 ロイコからまさかの質問が飛び出してきた為に、流石に足を止めて振り返るフォンやんたち3人。


「いやさあ、シャムール様に言われたんだよ。『お主と儂の仲だ。出来るなら、1日1回は儂に祈りを捧げて貰いたい』って。でも冒険するとなると、いつもシャムール様の像が置いてある教会が近くにある訳じゃないだろ? だから自分で作ろうかと思って」


 これに胡乱な目を向けるロンシンとは対照的に、リリルとフォンやんは互いに視線を交わし、その理由を察する。


 幾らロイコの個人レベルが、この世界に降り立った時点で10だったとは言え、教会でロイコが倒した下衆たちは、個人レベルと職業レベルを合わせれば、軽くその10倍のレベルはあったはずだ。それを一撃で倒せたのは、その、『1日1回は祈りを捧げる』と言う制約があったからこその、あの攻撃力だったのだろう、と。


「別に【彫刻師】にならなくても、道具屋に行けば、手で持てるサイズのシャムール像が売っているぞ」


「そうなんですか?」


「そもそもヴィレッジには芸術家ギルドがないから、【彫刻師】になりたいなら、最低でもシティまで行かないと」


「そうなのか?」


 2人からそのように諭され、腕組みして考えるロイコ。


(う〜ん、彫刻師になれないなら、2人が言う通り、道具屋でシャムール様の像を買うか。でもなあ、気持ち的には色々世話してくれたシャムール様の為にも、自分で彫ったシャムール様の像に、祈りを捧げたいみはあるよなあ。そっちの方が気持ちが乗りそうだし)


 などと思い悩むロイコを、ロンシン、リリル、フォンやんの3人が見守っていると、何やら道の前方が喧しくなってきた。これにハッと我に返らされたロイコを含め、皆で道の前方へ目をやると、そこにいたのは先程リリルに絡んだ連中であり、また()りず誰かに絡んでいる。


 20人が囲む輪の中に、チラチラ見えたその人物は、何とも鮮やかなコバルトブルーの服を着ているように見えた。


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