称号よりけり
リリルの称号が【天槍】で、フォンやんが【拳祷使】で、ロンシンが【明王】だった。
ロイコが、自分だけ称号を開示するのは納得出来ない。と文句を口にしたので、冒険者ギルドに入ったところで、登録受付で冒険者登録を済ませた後、食堂の丸テーブルを囲いつつ、改めて皆で自己紹介をした。その時に分かったのが3人の称号だった。
「【天槍】って、薙刀じゃないか」
ロイコはリリルが背負う薙刀に視線を向けながら、疑問点を口にした。
「薙刀の良い称号が思い付かなかったの。それに反りの少ない静形薙刀だから、槍としても使えるしね。【天槍】も格好良いでしょ?」
と現実でも親が経営する道場で薙刀を習うリリルとしては不満はあるらしいが、天槍と言う響きも気に入っているらしい。
「まあ、言いたい事は分かった。そしてりゅ、ロンシンは【明王】か。上手い抜け穴を見付けたな」
仏教で有名な明王は、ヒンドゥー教などの他宗教の神が仏の教えに蒙を啓き帰依した姿と言われるもの。つまり神そのもの事だ。
「ああ。スキルも『武芸百般』と『炎呪文』、『高速詠唱』ってのが付いたな」
「ああ、そっち系かあ」
「まあ、それくらいのデバフは付きますよね」
「?」
ロイコ的には悪くないんじゃないか? と思ったのだが、フォンやんとリリルは少し微妙な顔だ。
「何か悪いの?」
その顔が気になったロンシンが2人に尋ねると、リリルはフォンやんの方へ視線を向けて、どうぞ。と説明を任せた。
「このシャムランドだと、魔法は魔法名を口にするだけで発動するんだよ。だから『高速詠唱』とか殆ど無意味なんだ」
「じゃあ、何で『高速詠唱』なんてスキルがあるんだ?」
ロンシンとともに理由が分からないロイコがフォンやんに尋ねる。
「それはロンシンがもう1つ覚えている『炎呪文』と関係してくる。魔法系統の、『魔術』、『魔法』、『魔導』とは別に、呪術系統の『呪文』ってのが存在するんだ。『呪文』は強力だけれど、それを実行する為に、長い呪文を唱える必要があるんだよ」
とフォンやんが説明してくれた。
「でも、『高速詠唱』もあるし、呪文系統が強力なら、魔法と呪文でそんなに差は出ないんじゃないの?」
これに不安そうな顔になるロンシンに代わって、ロイコが声を上げる。しかしそれに首を横に振るうフォンやん。
「俺も『祈祷』って言う呪術系統の呪文を使えるが、普通呪術系統は、戦闘前に自分や味方のステータスにバフを掛けるのに使うのが殆どで、戦闘中、特にボス戦だと、そんな長々と呪文を唱えている隙ないんだ。俺が『高速詠唱』を覚えていないから何とも言えないが、『武芸百般』を持っているって事は、前衛も熟しながら呪文もとなると……」
フォンやんのその目は、どうする? アバター作り直すか? と訴えているようにロイコとロンシンには見えた。
「まあ、やってみりゃあ分かるだろ。最初のうちはモンスターも弱いだろうし、レベルが上がっていけば、めっちゃ早口で詠唱できるようになるかも知れないしな」
これを口にしたのはロイコの方だ。他人事だからと軽く言っている訳ではなく、
「ロンシンって器用だからな。意外と呪文唱えながら、武器を振るうとかやり遂げそう感ある」
とわくわく顔である。その顔はロンシンの実力を微塵も疑っていなかった。
「そうだな。アバター作り直すにしても、まずは闘ってみて、どんなものか理解してからでないとな」
ロイコの明るさに、ロンシンも【明王】の称号で暫く活動する事を決心したらしく、ロイコの言葉に深く頷いた。
「それよりもフォンやんさんの【拳祷使】って何? 想像出来ないんですけど?」
ロンシンの称号の件は一先ず決着したので、ロイコの関心はフォンやんの称号の方へ移った。
「多分ですけど、フォンやんさん、職業は【武僧】ですよね?」
そこへすかさずリリルが口を挟む。
「モンクis何?」
ゲームに触れないロイコとロンシンは首を傾げる。
「モンクって言うのは、闘う僧侶の事だ」
『ああ!』
フォンやんからそのように説明されれば、2人が頭に思い描いたのは中国の少林寺だ。
「へえ、じゃあ、【拳祷使】って本当にある職業? 称号? なんですか?」
「いや、俺が考えたオリジナルの称号だな!」
ロイコの問いに、胸を張って答えるフォンやん。
「このゲーム、称号をオリジナルにした方が、称号バフやスキルが強い。って噂ですもんねえ」
それに対してリリルは同意を示す。これにフォンやんはうんうんと頷き、
「他の奴も冠している称号より、その称号を冠しているプレイヤー数が少ない方が、称号によって強化され易い。ってのは現在のシャムランドだと通説になっているな。そう言う意味でも、他の誰かも思い付くだろう【明王】って称号にしたロンシンよりも、【戮殺示申】って言う他にいないだろう称号を冠したロイコの方が、称号バフで強化されているだろうな」
へえ、そうなのか。と感心するロイコ。逆に【明王】は他の人も使っているかも知れないのか。とロンシンは少し項垂れる。が、
「だが、俺はこれでいく!」
と先程のロイコのわくわく顔を思い出し、気を持ち直して前を向くのだった。
「言っても称号バフって噂程度の話で、そんなに差はない。と思っていましたけど、このシャムランドに下り立ってすぐのお兄が、高レベルのプレイヤーを確殺していった姿を見ると、本当なのかな? って思いますね。お兄の称号スキルって何なの?」
「ええ〜〜、教えな〜〜い」
リリルはクネクネとシナを作って妹の問いを受け流す兄を、
(我が兄ながら……、うん。気持ち悪い!)
と思うのだった。




