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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第二章 Berserk Tribe

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戮殺示申

「いや、強過ぎない?」


 リリルはロイコが目の前で起こした凶行が理解出来ず、妹ながら引いていた。


「そうか? まあ、俺の称号は殺人者(PKer)特攻らしいからな。こんなもんじゃないか?」


「PKer特攻って……」


 呟きながらリリルが兄を鑑定すると、【戮殺示申(りくさつじしん)】と言う見慣れない称号が、ロイコと言う名前の前に表記されていたが、それよりもリリルの目を引いたものがあった。


「何でこの世界に降り立って既に個人レベルが10になっているの?」


「え? マジか? ……うわ! 本当だ!」


 リリルと同じく鑑定を持っているフォンやんもロイコを鑑定して、ロイコが既にレベル10を超えている事に驚く。


「どうしてって、チュートリアルでモンスター倒していたらレベル上がるだろ?」


「いやいやいや!」


「ねえよ!」


 普通だろ? と首を傾げるロイコに対して、リリルとフォンやん2人が否定する。事情が分からないロンシンは、ロイコを見ながら首を傾げた。


「もしかして優人、あの退屈なチュートリアルを、レベルが10に上がるまで続けたのか?」


「そうだけど? って言うか、俺的にはもっとやっていたかったんだけど、チュートリアルで上げられるのはレベル10までらしくてな、それでもモンスター相手は人間とは勝手が違ったから、その後も結構粘った」


「…………」


「…………」


 ロイコの奇行に、リリルとフォンやんのゲーマー2人は閉口する。チュートリアルでも確かに経験値は入るのは知っていたが、それは雀の涙程のもので、それならば早々にチュートリアルを切り上げて、シャムランド(こっち)でスライムを相手にレベル上げをした方が効率的なまである。しかしロイコがそんな事を分かっている訳がなく、どうやらひたすらチュートリアルでレベル上げをしていたらしい。


「ああ、頭痛い」


 ふらつきながら長椅子にもたれ掛かるリリルに、フォンやんが同情の視線を送る中、


「大丈夫か? こうやって無事にこっちの世界に来れた事だし、璃流はもう戻って休んで良いぞ」


 自分こそが頭痛の種である自覚がないロイコは、普通に妹を心配してそんな事を口にする。これにはフォンやんもロンシンも心の中でリリルに同情するのだった。


「大丈夫か? ですって? 大丈夫じゃないから、お兄に同行するんじゃない」


 キッとロイコを睨むも、ロイコはそれに対してやんわりとした笑顔を見せるだけであった。


(この鈍感男があ!)


 心の中で毒突くも、悪気のない兄を問い詰めるのも違うと自分を納得させ、リリルは深く長く深呼吸を繰り返した後、気を持ち直して立ち上がり、


「良し! 兎にも角にも冒険者ギルドへ行きましょう!」


 とその場で音頭を取るのだった。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「考えたなあ。『示偏に申すで神』だもんなあ。ルールの隙を上手く突いたな」


 教会から冒険者ギルドへ向かう道中、ロイコの称号が気になったロンシンが、腕組みしながら感心している。


「それ、デバフ称号だから、アバター作り直した方が良いかも知れんな」


「そうなの!?」


 ロイコとロンシンの前方を歩くフォンやんが、2人のやり取りを聞いて、口を挟んできた。


「ああ。良くやる抜け穴で、示すに申すとか、godを頭文字にした称号を付ける奴は一定数いるんだけどな、大体扱い難い称号スキルしか獲得出来ないから、殆どの奴がアバター作りからやり直すな。このゲーム、1回だけならアバターを無料で作り直せるから。な?」


 とフォンやんは隣りを歩くリリルに同意を求める。


「そうなんです? 私はそれ、噂程度でしか知らないんで。私の周りで称号に神ネーム使った人いないから」


 リリルの方はその噂に懐疑的なようだ。


「そうなのか? 俺のクランメンバーの何人かは、一縷の希望に賭けて、神ネーム付けて、アバター作り直した奴何人かいるけどな」


 どうやらフォンやんの方は実例が身近にあったようだ。これには肩を落とすロイコ。


「そんなあ。折角シャムール様が、選んでくれたから、有用な称号だと思ったのになあ」


『シャムール様が選んだ!?』


 ロイコの発言に、思わず声を揃えて振り返るリリルとフォンやん。


「いやいやいや、何で最初に出会うナビゲーターキャラが、お兄に称号を与えるのよ!?」


「そんな事するキャラじゃないだろ!? シャムールって、もう少しAI的な対応じゃなかったか!? シャムランドのシチズンたちとの違いに、脳が少しバグった記憶あるぞ!?」


 リリルとフォンやんは、自分が経験した事との違いから、ロイコの言葉を否定する。


「いや、でもこの『ロイコ』って名前も、『戮殺示申』って称号も、シャムール様が与えてくれたものだし、アバター作りとかチュートリアルとか、凄く丁寧に教えてくれたぞ?」


「名前まで!?」


「アバター作りも!?」


 ロイコの言っている事が信じられない2人だが、言われてみれば剣術馬鹿のこの男から、『白血球(ロイコ)』なんて言葉も、『戮殺』と言う画数の多い言葉も、示すに申すなんて抜け穴も、出てくる訳がない。現状のロイコと現実の優人とのギャップ、自分たちが知るシャムールと、ロイコが知るシャムールとのギャップ、そのギャップで脳がバグり、温度差に風邪を引きそうになる2人。


「へえ、シャムール様って、初心者にも優しい親切設計だったんだな」


 2人程ゲームに詳しくないロンシンは、普通に感心している。


「って言うか、その示申の前に付いている戮殺って、逆じゃないのか? それに示申って何? 意味あるのか?」


 そればかりか、疑問点をロイコに聞いてくるロンシン。


「なんか、シャムール様の話だと、戮殺者ってのが、人殺しを殺す者を差すらしい。示申の申は稲光って意味で、素早さに補正が付くって言っていたな」


『へえ』


 これには3人して感心し、そして、これは絶対ロイコ自身が名付けた称号じゃない事を理解したのだった。


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