表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭
7/91

試行錯誤

「はあ、はあ、はあ……」


「どうやら、モンスターハウスではなかったようね」


 クロリスが周囲を警戒するが、モンスターの姿はどこにもなかった。あったのは簡素なテーブルと椅子に、簡単な炊事場だけだ。本当に簡素過ぎて、外のアンデッドたちと差がある。


「…………食事にしようか」


「そうね。『浄化(ピュリファイ)』」


 食事と言う事で、部屋を浄化するクロリス。


「そう言えばゼフ、食べ物は?」


「うう、持ち合わせはない」


 Fランクダンジョンでスライムにやられて、ギルドで蒼炎の翼を見て、飛び出すようにここまでやって来てしまったので、携行食なんて持っていない。


「まあ、そもそも僕の場合、携行食も買えないから、ダンジョンの薬草を調理して、腹ごなししていただけだったけど」


 自分で呟いておいて、虚しくなってきた。しかし、クロリスの反応は違った。


「薬草を調理? ゼフ、『薬膳』のスキルなんて持っていなかったわよね?」


「『薬膳』? そんなスキルもあるんだね」


 素直な感想を口にする僕に対して、クロリスは顎に拳を当てて、何やら思案し、徐ろに口を開いた。


「ゼフ、私、薬草を持っているから、それを調理してみてくれない?」


「え? そんな貴重なものを、悪いよ」


 と僕は断るが、


「そんな大層なものじゃないわよ。中薬草や高薬草、超薬草でもない、普通の薬草なんて、『ストレージ』の肥やしでしかないわ」


 ええ……。その薬草採取に四苦八苦しながらFランクダンジョンに臨み、死んでランダムロストで失われないように願いながら、スライムと闘ってきた僕の経験が、軽々に否定されてしまった。


「どうなの?」


「分かった。やるよ」


 クロリスの圧に負けて、僕は薬草を調理する事を決めた。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 やると言っても簡単だ。薬草を刻んで、水で煮るだけだ。……薬草はクロリスが提供してくれる。鍋はないけど、いつも腰にぶら下げている鉄のコップがある。でも、


「水がない」


「『水生成(ウォータークリエイト)』」で出せるわ」


 魔法便利だなあ。と思いながら、僕はコップに水を注いで貰おうと思って、コップをクロリスの前に差し出す。それに向けて両手を突き出したクロリスだったんけど、


「どうかしたの?」


「これって使えない?」


 クロリスがコップに注いだのは、紫色に濁った水だった。


「何これ?」


「『怨霊水』ですって。レイスを倒すと、一定確率でドロップするから、多分レイスのレアドロップアイテムね」


「こんなの使って調理したら、お腹くだすよ」


 と考え直すようにクロリスに忠言しようとして、僕ははたと思い留める。


「どうかしたの?」


 僕が黙りこくったのが気になったのか、クロリスが僕の目の前で小さな手をブンブン振る。うざい。


「いや、これってさあ……」


 このままでいるのもあれなので、僕はクロリスを眼前から退かして、腰から『怨霊破壊の剣』を、形ばかりの鞘から引き抜き、ポチャンとその剣先をコップに漬ける。


「ええっ!?」


「やっぱり!」


『怨霊破壊の剣』の剣先から、ブクブクと炭酸のような泡が湧き出し、それが止まると、紫色をしていた『怨霊水』が、無色透明な『清浄水』と言う別の水に変化していた。


「この水だったら!」


 僕は火打石で『スケルトンの骨』(クロリス提供)を焼き、それで『清浄水』を温めながら、薬草を繊維を断ち切るように丁寧に刻みながら、温まった『清浄水』へ刻んだ薬草を入れる。そこへ腰の麻袋から岩塩を少しだけ削り入れ味付けし、軽く煮出せば完成だ。


「出来たよ、薬草水」


 僕はそれをクロリスに差し出す。しかしクロリスはそれを飲もうとしない。


「『鑑定』してみなさい」


 半眼のクロリスに、静かに諭すように言われて、僕は薬草水を『鑑定』する。すると、


『薬膳水(低)』:薬草を調理して出来上がったHP回復効果付きの水。効果は中級ポーションと同程度。


「何でっ!?」


 思わず変な声が出た。それから()めつ(すが)めつその薬膳水を何度『鑑定』しても、結果は同じだった。効果が高いのは『清浄水』を使用したからかも知れないが、そもそも、何で薬膳水になっているのかが分からない。


「ゼフ、自分のスキル欄を見てみなさい」


 更にクロリスにそう促され、恐る恐る自分のウインドウからスキル欄へ目をやると、


『料理Lv1』:調理が上手く出来る。


『調合Lv1』:薬となる素材を調合出来る。


『薬膳Lv1』:薬膳料理を調理出来る。


 いきなり3つもスキルが増えていた。


「元々素地があったのね。レベルが上がらなかったから、スキルとしてスキル欄に表示されなかったんだわ」


「成程……?」


 言っている事は分かるが、首を傾げざるを得ない。『怨霊破壊の剣』で『怨霊水』を『清浄水』に変化させた以外は、特にいつもと同じ作業だった。それでスキルが貰えるなんて、なんだか変な気分だ。


「じゃあ、今まで調理してきた薬草水も、実は薬膳水だったって事?」


「そうね。普通、『料理』や『裁縫』、『釣り』なんかは、ギフトスキルと言って、一部のプレイヤーが生得的に所持していて、それをこのシャムランドで行った時に、スキル認定されて、今みたいにスキル欄に表示されるんだけど、ゼフみたいな事象は稀、いえ、この世界初かも知れないわね」


 クロリスの驚きっぷりが凄い。そんなに凄い事じゃないと思う。本来不味い薬草水を、少しでも美味しく食す為に、この1年研究してきた成果なのだから。


「とりあえず飲もうよ。冷めると少し苦味が出るんだ」


 と促し、僕は薬膳水の入ったコップに口を付ける。


「そうね」


 それを聞いたクロリスも、どこからか小さなストローを取り出して、僕が飲む薬膳水にそれを差しながら飲み始めた。


「美味しいわ!」


 どうやらクロリスはこれを美味しいと思ってくれたみたいで、全身でそれを表現するんだけど、僕を殴る蹴るするのはやめて欲しい。


「でも、この程度じゃお腹いっぱいにはならないなあ」


「そう?」


 身体の小さいクロリスはこれだけでもお腹いっぱいになるらしいけど、普通の人間で連戦続きの僕には少ない。普段なら、ギルドに帰って、餓死しないように、安い携行食を提供されている時間だ。


「じゃあこれ」


 そんな僕を慮ってか、クロリスが肉を取り出すが、それ、さっきの狼か豹のモンスターのお肉だよね? 肉食モンスターの肉は、余り美味しくない。と冒険者の誰かが言っていたなあ。でも、食べられるものはこれくらいだ。流石に追加で出されたゾンビ肉は、『怨霊破壊の剣』があっても遠慮したい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ