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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭

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勘違い

「ホンットーーーーにありがとう!」


 はへ? 大門の脇に取り付けられた小門から南地区に入ったら、門番に思い切り笑顔で感謝されながら握手された。


「えっと〜? どう言う事です?」


「君が来ると同時に空が晴れたと言う事は、この問題を解決してくれたんだろう!?」


 ああ、そう言う解釈になるのか。


「いえ、問題はまだ解決していません。僕がしたのは、対象のMPを消費させただけです。それで向こうは荒天を維持出来なくなったのでしょう」


「そ、そうなのか!?」


 今度は絶望顔となり、バツが悪そうな顔となる門番。


「どうかしましたか?」


「いや、君が今回の問題を解決したと早とちりしてね、もう1人の門番を、地区長のところへ使いに送ってしまったのだよ」


 ええ? それは困る……、のか? いや、僕は自ら問題解決したとは言っていないから、困るのは門番の方か。


「僕は冒険者ギルドに登録に行くので、誤解は解いておいて下さいね」


 念押しして僕は冒険者ギルドへ……、


「冒険者ギルドって、どこにあるんですか?」


「この大通りを真っ直ぐ行った街の中央だよ」


 どこの冒険者ギルドも、場所はそんなに変わらないんだな。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 初めての冒険者ギルドでする事は、転移陣への登録だ。これでいつでもエイトシティの東地区to南地区だけでなく、登録してある転移陣を移動出来る。まあ、僕の場合はエイトヴィレッジ南南西地区とエイトタウン南西地区の、これで4つ目だけど。もっと地方を歩き回った方が良いんだろうなあ。


「おはようございます」


 いつもの癖で、ギルド内の食堂のカウンター席に座ってしまった。


「おお! 大手柄だな!」


 席に座るなり、カウンターのマスターがそんな事を大声で口にしてくる。


「はい?」


 訳が分からず首を傾げると、


「どうやらゼフが今回の案件を解決した噂は、このギルドにまで伝わっているみたいよ」


 ギルドの様子に目をやるクロリスの言葉に、僕もカウンターからギルドの様子へ目をやると、皆が僕をちらちら見ながらコソコソと話し合っている。


「いやいや、解決していませんから!」


 僕はわざと解決はしていない事を主張する為に、大きな声で否定した。


「そうなのか!? だがあんなに荒れていた空が晴れたじゃないか!?」


 このマスターさん、声大きいな。元気なのは良いけど、情報が他の冒険者たちに筒抜けだ。


「いえ、向こうのMPを消費させたから空が晴れただけで、向こうのMPが回復したら、また空が荒れると思いますよ」


 これにざわつく冒険者ギルド。


「ぬぬ! そうだったのか!」


 腕組みして考え込むマスターさん。


「もしかして、ギルマスさんですか?」


「おお! 悪いな! ここのギルドマスターをしているザトーだ!」


 禿頭に筋骨隆々のギルマスは、そう言ってニカッと笑った。豪快な人だ。東地区の渋いギルマスとは対照的だな。


「兎に角、変な噂を立てないで下さいね。絡まれたりして、動き辛くなりますので」


「おお! 悪い悪い! 念願だったものでよ! ギルドで宴会でもあげようとしていたんだが、そうか! まだ解決していなかったのか!」


「ハハハ」


 全然声を小さくしてくれないから、乾いた笑いしか出せない。


「ここか! あの案件を解決した冒険者がいるってのは!」


 ギルマスと会話していると、ギルドの入口の扉が思い切り開かれ、恰幅の良いおじさんが、側近を従えて颯爽と登場した。誰?


「君か!」


 全身コバルトブルーの服なんて着ているの、僕しかいないからなあ。恰幅の良いおじさんは、ドスドスと歩きながら僕の前に立つと、がっしり僕の両肩に手を置いた。


「ありがとう! 本当にありがとう! これで南地区は救われた!!」


 こっちも誤解しているようだ。門番さんの話が行く前にこっちに来たらしい。


「すみません、まだ案件は解決していないんです」


「…………え?」


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「そうだったのか。しかし、MPを消費されられたなら、倒す可能性が見えてきたと言う事だな?」


「勿論、僕も倒すつもりではいます」


 恰幅の良いおじさんは地区長だった。地区長なんて偉い人と初めて会ったよ。


「それで、どれくらい勝算があるんだ?」


「勝算ですか? う〜ん……、半々でしょうか?」


 ウェザースライム亜種なら、勝てそうではあるけど、ウェザースライム亜種(仮)なら、その強さの天井が分からないから、倒せるかは分からないかな。スライム系は結局核さえ壊せれば倒せるから、南地区周辺から、この核を見つけ出さなければならないんだよねえ。


「そうかそうか! 50%も勝算があるなら、勝ったも同然だな!」


「そうですか?」


 言いながら背中をバンバン叩いてくる地区長。ちょっと盛ったから肩身が狭いな。


「他の冒険者どもは、自分たちがこの案件を解決するとか豪語しておいて、やられて帰ってくる奴ばかりだった。しかし君は50%と低く見積もっておきながら、東地区からこの南地区まで、あの荒天の中やって来たのだ。期待出来る!」


 地区長も声大きいなあ。ギルマスもうんうん頷いているし、ちらりと他の冒険者を見ると、僕同様にバツが悪そうな顔をしている。魔王候補って噂は広がっているだろうから、魔王候補討伐一番乗りの二つ名が欲しいんだろうなあ。


「まあ、出来る限りの事はしますよ」


「うむ! 期待しておるぞ!」


 その背中をバンバンしてくるのは止めて欲しい。


「ところで……」


 地区長は僕の横に視線を向ける。


「その、君の横でぐったりしているのは、君のパーティメンバーかね?」


 僕の横ではトンブクトゥが青白い顔でカウンターに突っ伏していた。


「まあ、気にしないで下さい。単に同行しているだけですので」


「そうなのか? 君も、そんな醜態を晒していては、今回の案件解決に貢献出来ないぞ?」


「……大丈夫です。ワタクシは見ているだけですので……」


 見ている事も出来なそうだけどね。


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