怨霊暗路
ダンダンッと入り口を叩いても、壊れる事はなく、完全にダンジョンの壁になっている。
「どうするクロ、ッ!? うわっ!?」
振り返ったら、ゾンビが僕に伸し掛かろうとしてきた瞬間だった。崩れた顔の爛れた筋肉や眼窩からこぼれる目玉が、すぐ目の前に現れて、思わずしゃがみ込む。
そう言えば、アンデッドたちが、誰彼構わず襲い掛かっていたのを思い出す。と同時に、ゾンビの頭が弾け飛んだ。
何事!? と光の塵となるゾンビから、視界を広く取ると、クロリスが光の矢で、周囲のアンデッドたちを殲滅していた。
「私、基本的に襲ってくるモンスターに対して、自動で光の矢が発射されるようにスキルをセットしているから」
と何食わぬ顔で語るクロリス。
「そ、そうなんだ」
初めて遭った時は、モンスターたちは逃げ出していたから発動していなかったし、ブルーミングトレントの時は、僕に近付いたから、自動で発射されたのかな? などと考えていると、ザクッと僕の前にボロボロの剣が突き刺さる。
「それを使いなさい。ゼフ、さっきの戦闘で、武器をなくしていたでしょう?」
どうやら、『自動回収』で回収したスケルトンが使っていた剣を、僕に使えと言う事らしい。
「私の光の矢は、私に向かってくる者には容赦しないけど、他は別だから」
とアンデッド特攻らしい光の矢で、周囲を眩しく照らすクロリスの攻撃の隙間を縫って、1体のスケルトンがこちらへやって来る。
僕は倒されまいと、眼前の剣を手に取り、……まず『鑑定』。
「何かこの剣、『怨霊破壊の剣Lv1』って名前付いているんだけど、呪われない!?」
「『自動回収』で私が呪われていないんだから、呪われる訳ないでしょ」
確かに。いや、クロリスと僕では状態異常への耐性がそもそも違う……、などと考えている間に、スケルトンは近付いてきた。今はそれどころじゃないか!
僕は『怨霊破壊の剣』を手に取り、剣を振り上げ襲い来るスケルトンへ、『スラッシュ』を横へ薙いだ。と同時に、切れると言うより、正しく破壊されたように、スケルトンは四散した。
「どうやら、そっちの光の矢同様に、アンデッド特攻の剣みたい」
「良かったわね。ならこのまま下へ下りて行くわよ!」
クロリスは僕へ目もくれず、またも先頭に立って、ダンジョン『怨霊蠱毒の壺』の階段を下りて行く。
クロリスが先行してくれるので、僕の役目は、後ろからやって来る後続の対処だ。今までなら、たとえ『怨霊破壊の剣』を持っていたとしても、基礎レベル、冒険者レベルに差があり過ぎて、倒せなかっただろうここのアンデッドたちも、今のレベルならば、何とか対処出来る。本来のステータスの8%に、『春風』の速度上昇が加わって、やっとだけど。絶対にこのダンジョン、Cランクダンジョン内に存在して良い場所じゃないよ。
✕ ✕ ✕ ✕ ✕
「はっ! しゅっ!」
僕は馬鹿の一つ覚えのように、剣を振りかざしてくるスケルトンの剣を、『怨霊破壊の剣』に『盾術』のパリィを乗せて弾き、その軽い骨体の肩に手を置くと、くるりと180度反転させて、スケルトンの背中から剣を突き刺す。
これは、何故か覚えていた『剣術』、『短剣術』の技、『バックスタブ』だ。不意打ちの名の通り、敵の視界外からの一撃に、攻撃力強化の補正が入るので、僕にはありがたいアーツだ。
普通、【盗賊】や【偵察】などの職業に就かなければ、覚えられないアーツのはずなんだけどなあ。もしかしたら、ブルーミングトレントを、後ろからずっと攻撃していたのが、『バックスタブ』獲得のフラグになっていたのかも知れない。
「ま、今は、これが有用って、事が、分かっていれば、良いや」
何て口にしながら、襲い来るのろのろゾンビの背後に回り、『バックスタブ』で一撃、そこへ普通なら物理攻撃が通用しないはずのレイスも、『怨霊破壊の剣』で縦に一閃、その後ろからやって来たスケルトンを、返す刀で『スラッシュクロス』をぶち込んで倒せてしまう。
どうやらここのアンデッドたちは、共闘していないようで、1体1体が経験値を持ってるので、倒せば倒す程レベルが上がっていく。『お荷物』と『空回り』のせいで、レベルが上がり難いはずの僕が、もうレベル30を超えている。1日でこんなに上がる事あるんだ。しかし、
「お腹空いた〜〜」
ひたすらアンデッドを狩り続けていれば、当然空腹にもなる。
「確かにね」
クロリスも空腹を感じているらしい。野良のモンスターなんかは、空腹になると、少し凶暴になり、種族によっては共食いを始めるものもいる。
「……食べないよね?」
「……何をよ?」
少しの間、互いを見詰め合う僕とクロリスだったけど、
「クロリス! 少し先に扉がある!」
「本当に!? セーフティゾーンだと良いわね……」
クロリスはその扉に懐疑的だ。確かに、ここでセーフティゾーンと思わせて、モンスターハウスなんて事になったら、目も当てられない。が、ここで迷っていても空腹で倒れてアンデッドに殺されるだけだ。
僕たちは思い切って扉を開け、中に飛び込むと、アンデッドたちが入って来ないように直ぐ様扉を閉めるのだった。