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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭

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独り、困惑の中

「ここからが本番かあ」


 灯りがなく暗いトンネル型の『亜竜の巣窟』、その奥を見詰めるゼフュロスの姿を、少し後ろから見守るトンブクトゥは、実のところまだ少し頭が混乱していた。ゼフュロスと言うストレンジャーのスペックに、ステータスと齟齬があるからだ。


 それ自体は初めて会った時から感じていたが、今日、この洞穴まで来るのに『目標追跡』で同行した事で、改めて認識出来たと言った具合だ。


(おかしいよね。幾ら何でもステータスに対して実際の能力が高過ぎる。スライムスーツの力があるとは言え、『お荷物』のせいでステータスは55%減されていてこれ? これってバグか? それともストレンジャーは元々お助けキャラ的な立ち位置だから、ステータス関係なく強いように設定されているとか? いや、ここの運営がそんな事をするとは思えない)


「どうかしたの? さっきからブツブツと」


「うわっ!?」


 どうやらトンブクトゥがブツブツ口にしていたのが気になったらしく、クロリスがトンブクトゥの視界を遮るように、顔を覗かせてきた。


「いえ、何と言うか、…………ゼフュロスさん強いなあ。と」


「語彙力」


 何と口にすれば良いのか、頭をフル回転させても答えが出せず、当たり障りのない事を口にしたトンブクトゥに対して、ジト目を向けるクロリス。


「いや、あの、何と言うか、強過ぎません? スライムスーツが強いのかとも思いましたけど、出会った時から、シティAランクの【剣聖】を圧倒していましたし、ステータスが55%減されていてこれって、ちょっと異常と言いますか、何と言いますか……」


 ゼフュロスの強さを疑うような発言をした為か、トンブクトゥをジト目で見詰めるクロリスの視線が、段々厳しいものへと変化していき、最終的にトンブクトゥは口ごもる事に。


「つまり、ゼフがあんなに強いのはおかしい。と言いたい訳ね? でもそれもおかしな話ね? 確かあなたはゼフと初めて会った時、ゼフのステータスに何もおかしなところはない。と周囲に明言していたはすだけど?」


「だから困惑しているんです。失礼ながら、何度かゼフュロスさんの過去ログは覗かせて頂きましたが、全く改竄された痕跡がなく、ゼフュロスさんの性格も相まって、彼はとても善良なストレンジャー。と言う認識でしたが、スライムダンジョンでのグリッチとも取れる行動などから、もしかしたら、何かしら改竄(チート)行為をしているのではないか? もしくはバグじゃないのか? と失礼ながら疑うに至ったので」


「ふ〜ん」


 長々と自論を展開するトンブクトゥを、冷ややかに見下ろすクロリス。その目の奥には、ゼフュロスを疑うような気持ちが1ミリもない事が、トンブクトゥにも理解出来、それは更にトンブクトゥの脳を困惑させた。


(何でこの妖精は、自分とパーティを組んでいるストレンジャーを、そこまで信用出来るんだ? 傍から見たら、ゼフュロスさんが異常なのは一目瞭然なのに。これももしかして、ゼフュロスさんが何かしら関係しているのか? 洗脳とか?)


 クロリスにまで疑惑の目を向けるトンブクトゥに、クロリスは溜息を吐き出す。それは、トンブクトゥが何も理解していない。がっかりだ。と言葉にしているに同義の、失望の溜息だった。


「一緒に行動していて、その程度の認識だったなんて、プレイヤーって想像異常に頭の悪い人間の集まりみたいね」


「なっ!? そこまで言われる筋合いはないかと」


 クロリスへ抗議の声を上げるトンブクトゥを、今まで以上に見下すクロリス。


「そんなに自分が見ているものが信じられないなら、【世界観察者】なんて辞めてしまえば良いのよ」


「何ですって!?」


「この『亜竜の巣窟』で、ゼフの強さの真相を見極めなさい。ここを出た時にもまだ同じような事を口にするようなら、あなたとの同行は害悪にしかならない。とゼフに進言して、あなたとの契約を打ち切らせるわ」


「んなっ!?」


 何でクロリスがそんな事を決められるのか。それを決めるのはゼフュロス自身だろう。と思うも、進言するくらいの自由はクロリスにもある。と思い直すトンブクトゥ。しかしそれでも契約解除まで言われなければならない理由が思い当たらず、心にもやもやした感情を抱える事となった。


 何か言い返したい。とトンブクトゥが口を開こうとしたところで、


「あっ!?」


 とゼフュロスが、ステータスウインドウを開きながら声を上げた。


「ゼフ〜? どうかしたの〜?」


 気儘な妖精女帝は、もうあなたと話すことなどない。とでも言うように、ス〜ッとゼフュロスの方へ飛んでいき、くるくるとゼフュロスの周囲を旋回するのだった。その行動に、トンブクトゥは余計にもやもやするも、自身もゼフュロスが何に声を上げたのか気になるので、この話は一旦ここで打ち切る事としようとしたが、


(『亜竜の巣窟(ここ)』を出るまでに、ゼフュロスさんの強さの真相を見極めろ。かあ。それってつまり、ワタクシの目が鱗で覆われており、バイアスで真相を理解出来ていない。と言う事か? う〜ん……)


 クロリスの言葉が頭に何度も過ぎり、その度に色々考えてしまうが、それを振り払うように、首を左右に振るうと、


「どうしましたか?」


 とゼフュロスに声を掛けるのだった。


「いえ、先程のレッサーワイバーンたちとの闘いで、個人レベルが60に上がった事で、『お荷物』と『空回り』のレベルも上がったみたいで。そうしたら、2つのスキルにアーツが生えたので、ちょっと驚いただけです」


 ほう? とトンブクトゥは【世界観察者】に特別に与えられた『道理の観察眼』を使い、ゼフュロスの情報を覗き見る。


『お荷物』と『空回り』は、ゼフュロスが個人レベルを『基礎』から『標準』にランクアップさせたところで、ext(エクステンション)が外れたので、すぐにレベルが上がるかと思ったけれど、『標準』で10レベル上がるまで、何も変化がなかったスキルだ。それに変化があったとなれば、トンブクトゥにも興味がある。


『お荷物Lv11』:【ザコボッチ】の称号持ちが仲間にいる場合、仲間全員の全ステータスに55%のデバフ、獲得経験値が55%減らされる。

 お荷物アーツ:『アイテムボックス』


『空回りLv11』:【ザコボッチ】の称号持ちが1人でない場合、【ザコボッチ】の称号持ちは全ステータス37%のデバフ、獲得経験値が37%減らされる。

 空回りアーツ:『空転』


 どうやら『アイテムボックス』と『空転』と言うアーツらしい。更にこの2つに対して『道理の観察眼』を使うと、


『アイテムボックス』:入手したアイテムを異空間にあるアイテムボックスに仕舞う事が可能。その容積・重量は、使用者の体積・重量と同じ。


『空転』:アクティブなスキル、魔法、アーツを使う時、その行動をキャンセルし、その後に同じスキル、魔法、アーツを使う時、その効果を1.1倍に引き上げる。


『アイテムボックス』は良くあるアーツだが、『空転』はトンブクトゥも初めて見るアーツだった。


(『アイテムボックス』も『空転』も、今は最低限だけど、今後レベルが上がっていく程化けるアーツだな)


 レベルが上がって生えてきたアーツが、有用である事を喜び合うゼフュロス、クロリス、グレイの三者。その和気藹々とした光景にトンブクトゥは目を細め、先程の事が頭を過ぎり、自分はその輪に交ざるべき人間でないと、どこかで感じてしまい、1歩引いて見ていたが、それに気付いたゼフュロスが、くしゃりとした笑顔で話し掛けてきた。


「まさか有用なアーツが生えるとは思いませんでした!」


「…………そうですね。ワタクシも『空転』は初めて見ました」


「本当ですか!?」


「ええ。……こう言うと気分を害されるかも知れませんが、【ザコボッチ】の称号持ち自体がまず存在しませんから。このように有用なアーツが生えるとは、【世界観察者】は誰も考えていなかったと思います」


「成程!」


 トンブクトゥの発言は、暗に【ザコボッチ】なんて不名誉称号、ゼフュロス(おまえ)以外誰も所持してねえよ。と言うニュアンスが含まれていたが、ゼフュロス自身はそんな事意に介していない様子だった。それよりもクロリスとグレイの厳しい視線が、トンブクトゥに突き刺さる。


(うう。そりゃあ、仲間が馬鹿にされたら、そんな顔になるよなあ。はあ、駄目だ。ワタクシの方が空回っている。気持ちを切り替えていかないと)


「さあ! 休憩はこのくらいにして、先に進みましょう!」


「お前が仕切るな」


「うむ」


「なのよ」


「…………はい」


 クロリスとグレイの冷静なツッコミに、縮こまるしかないトンブクトゥだった。


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