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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭
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後ろ髪引かれる

「勝った……の?」


 呆然とする僕に、クロリスはサムズアップで応える。


「そっか……」


 裏ボスのブルーミングトレントに勝った。勝ったのはクロリスだ。僕は邪魔をしていただけ。それなのに、レベルが上がっている。幾つかスキルも獲得している。


「ズルいなあ」


「ズルい? パワーレベリングなんて、人間なら普通でしょ?」


 いつの間にか、僕の眼前にまで来ていたクロリスが、僕の呟きに対して、不思議そうに尋ねてくる。


「そうだね。人によってはそれが許される人もいると思う」


「自分は許されない、と?」


 不思議そうに首を傾げるクロリスに、僕は説明する。


「ツアーって知っている?」


「ツアー? 聞いた事がないわ」


 小さくてもモンスターのクロリスなら、知らないのが当たり前か。


「ツアーって言うのは、レベル1の冒険者に対して、冒険者ギルドが行っているサービスでね。お金を払って、1番ランクの低いFランクのダンジョンを、先輩冒険者が、新人冒険者を、クリアまで引っ張っていってくれるものなんだ」


「へえ。そんなのがあるのね。で、ゼフはその抽選にでも漏れたのかしら?」


 勘が良いクロリスが、当たりを付けて尋ねてきた。でも違う。


「ツアーに申し込めるのは、ギルドが期待している新人だけなんだ。シャムール様が下さる称号にも、ランクや得意不得意があるから、ダンジョン攻略に向いていない称号の者や、ランクの低い称号しか貰えなかった新人は、そのツアーから弾かれるんだよ」


「成程。ゼフは弾かれた組なのね」


 僕はこれに首肯する。僕は一縷の望みを持って、ツアーコンダクターの先輩冒険者に頼んでみたけど、変な顔をされて断られただけだった。


「新人プレイヤーへの、チュートリアルってところかしら」


「え?」


「ああ。私たちには関係のない話だから、気にしなくて良いわよ。それなりのランクの称号持ちでも、ツアーに参加しなかった人だっていたんでしょう?」


「それは……、まあ」


 僕と同期でツアーに参加したのは、蒼炎の翼だけだ。確かに、他の新人はツアーに参加出来るだけのランクの称号持ちでも、参加していなかった。


「まあ、そんなものよ。世の中、あいつらが楽しめるように創られているんだから」


 どこか悟ったようなクロリスの言葉に、僕は首を傾げるしかなかった。


「さて、ここの裏ボスも倒した事だし、ゼフのホームに帰りましょうか」


 これ以上の問答に意味はない。とでも言いたげに、クロリスは転移陣へと引き返そうとする。


「うん。…………あ、でも、まだブルーミングトレントの素材を回収してないや」


 戻ろうとしたところで、僕は不意にそれを思い出した。思えばクロリスと最初に出遭った時も、素材回収していない。ダンジョン内で倒されたモンスターは、もれなく素材となるが、それを暫く放っておくと、その素材も消えてしまうのだ。勿体ない事をしたと言う思いと、アイテムボックスを持っていない僕では、素材を持ち切れなかっただろうから、あの時の事はなかった事としよう。


 でも流石に裏ボスの素材を、1つも持って帰らないのは金銭的にも、僕の心の安寧的にも、後ろ髪引かれる。なので枝の1つでも持って帰ろうとしたところで、


「あれ? ない?」


 僕はそこで初めて周囲に散らばっていたはずのブルーミングトレントの素材が、花びらの1つもない事に気付いた。


「素材なら、私が回収しておいたわよ」


「い、いつの間に!?」


「私、『自動回収』のスキルを持っているから、敵を倒したら、自動的に私の『ストレージ』に回収されるの。わざわざ拾っていたら、面倒じゃない」


 まるで当然の事のように口にするクロリスだけど、待って。『自動回収』に『ストレージ』? どっちも高位のスキルじゃないか! ウィンザードたち蒼炎の翼だってまだ獲得していないスキルだ。


「さ、流石は女帝様」


「変なところで見直すわね」


 褒めたのに、なんか変なものを見るような目を向けられた。


「まあ、そんな訳だから、ここにはもう本当に用はないの。久し振りに、人間のベッドで寝たいから、もう行きましょう」


 流石に裏ボスとの戦闘で疲れたのだろう。クロリスは空中で伸びをしながら、「ふわわ」と欠伸をする。


 確かに、後ろ髪を引かれるも、もうここに用はない。この巨木が消えて出来た大穴も、ダンジョンが勝手に修復して、またここに裏ボスのブルーミングトレントを配置する事だろう。さりとて何故か僕は名残惜しさを持ちつつ、一度振り返ってからクロリスに付いていこうとして、


「待って!」


 とクロリスが転移陣へ行こうとするのを制止した。


「何よ?」


 裏ボスを倒して、気分晴れやかだっただろうクロリスが、胡乱な目をこちらへ向けてくる。でも今はそんな些末事よりも重大な事態だ。


「あれ見て! 大穴の下に横穴がある!」


「横穴?」


 僕の言葉が信じられないのか、クロリスは僕の横にやって来ては、僕と目線を同じくして、大穴を覗き込む。


「確かに……。こんなの、以前のパーティからは聞いていないわ。きっとあいつら、ブルーミングトレントを倒した事に浮かれて、あれを見逃していたのね。大発見じゃない、ゼフ!」


 僕を見て、目をキラキラさせるクロリス。


「行くわよ!」


「いきなり!?」


 そして猪突猛進とばかりに、クロリスは直ぐ様その横穴へ特攻するのだった。分かっていたけど、クロリスの闘争本能も相当なものだ。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「おお……」


 クロリスに続いて大穴を滑り降りた僕は、横穴の入り口で立ち止まって(実際には浮いて)、中を覗き込んでいるクロリスの横に並ぶ。成程、これなら猪突猛進なクロリスでも、足踏みしてしまうだろう。


 横穴の先は、広い螺旋階段となっていた。ここから向こう側まで、200メートルはある。階段の幅自体10メートルある程だ。その螺旋階段を、スケルトンやゾンビ、レイスなど様々なアンデッドモンスターたちが、他のアンデッドと闘いながら下っている。どう言う状況? 意味が分からず、僕の足も止まる。


「『怨霊蠱毒の壺』ねえ」


 ダンジョン名らしきものをぽつりと呟きながら、クロリスは上を向いた。釣られて僕も上を向くが、上は真っ暗で、そこからアンデッドたちが、湧いてきている。そう。無限リポップしているのだ。


「上は行き止まりみたいね」


「そうだね。下は…………、僅かに明るいかな?」


 螺旋階段はすり鉢状になっていて、下へ行けば行く程、空間が狭くなっていっている。その終点と思しき場所は、淡い青色をした明かりで照らされていた。


「ふっふっふ〜ん。前フェアリー未到のダンジョンか。面白いじゃない! 行くわよ、ゼフ!」


「うん!」


 クロリスに続いて、弾けるように返事をして、僕は自分の力量も考えず、『怨霊蠱毒の壺』に足を踏み入れた。


 その次の瞬間の事だ。僕たちが入ってきた入り口が、ゴゴゴゴゴッと音を立てて閉じられたのだった。


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