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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭
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ものは試し

「と、言う訳で、やって来ましたFランクのスライムダンジョン! なんかもう懐かしい!」


 実験をするにも、兎にも角にもまずはスライム核が必要だ。露店や道具屋、錬金術師ギルドでも買えはするが、どうせならこの際自力採取をしてみたい。と皆に無理を言ってスライムダンジョンまでやって来た。


「お? いきなり薬草発見!」


 転移陣で、石壁に囲われたスライムダンジョンに転移するなり、すぐに石壁と床の隙間から生える薬草を見付けたので、アイテムボックスから採取用のスコップを取り出し、根を傷付けないように慎重に薬草を掘り始める。


「ゼフ、目的忘れてない?」


「忘れてない忘れてない。これだけ。これだけ採られせて」


 後ろから声を掛けてくるクロリスに対して、振り返りもせずに、僕は薬草掘りに没頭する。懐かしい! クロリスと出会う前は、ナイフで根元から切り取って採取していたけれど、錬金術の本でどのように使うか知った今は、根の重要性が理解出来る。知識って大事だなあ。


「ふう」


 薬草を1本採ったところで、我に返った僕は、改めて周囲に気を配る。やはりスライムの姿は見受けられなかった。


「このスライムダンジョンの最初の部屋は、準備用の部屋と言われていて、スライムが出ないんだよねえ」


「そうなの?」


 クロリスは僕の発言が信じられないのか、トンブクトゥに半眼を向ける。


「ええ。スライムダンジョンの転移陣がある部屋で、モンスター━━スライムと遭遇した。と言う話は、未だに聞き及んでいませんね」


「ふ〜ん」


 トンブクトゥの答えに納得するクロリス。


「なんか僕、信用されてない?」


「転移していきなり薬草を掘り出されたら、誰だって正気を疑うわ」


「そこまで!?」


 クロリスのジト目が突き刺さる。


「最初の部屋で薬草が生えている事は稀なんだよ。ラッキーだったんだ。だから思わず……」


「ふ〜ん」


 これ以上言い訳しても聞く耳持ってくれなさそうだ。


「はい。スライム探します」


 自分から言い出した事だしな。僕はスコップをアイテムボックスに仕舞うと、転移陣の部屋から延びる通路へと1歩踏み出し、そこでスライムと直ぐ様遭遇した。まあ、こう言う仕組みのダンジョンなんだけど。


「じゃあ、グレイ出番だよ」


『任せよ(なのよ)』


 腰に巻かれたグレイを剣状態に変形させた僕は、剣を顔の横に水平に構えると、じりじりとスライムに近寄り、ちょん、とグレイの剣先でスライムを(つつ)いた。すると、パァンッ! とそれだけで勢い良く爆ぜるスライム。粘液など残るはずもなく、ドロップしたのはスライム核粉と言う、知らないアイテムだった。


「何これ?」


「知らないわよ! 図鑑にも載っていなかったし」


 う〜ん。突いた時の力が強過ぎたのかなあ。それでスライム核が粉々になったとか? ぐるりと視線を周囲に向ければ、5から10メートル間隔で、スライムが点在している。このダンジョンのスライムはリポップも早いし、どれくらいの力ならスライム核を壊さずに倒せるのか、試すのには持って来いだな。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


「全滅だ……」


 床に両手を突いて項垂れる。


「グレイさんだと攻撃力が高過ぎて、掠っただけでもスライムが爆散しますね」


 冷静に状況を分析したトンブクトゥの一言。そうなのだ。どれだけスライムに触る力を加減しても、グレイが触れるだけでスライムが爆ぜるのだ。意味分からない。べじゃんと形を保てなくなるならともなく、爆ぜるって。そのせいで、スライム粘液はおろか、スライム核片さえ残らず、全てスライム核粉と言う未知のドロップアイテムに変わってしまった。


『申し訳ない(のよ)』


「グレイは悪くないよ。ただ僕がグレイの攻撃力を甘く見ていただけだから」


 爆ぜるのは完全に予想外だったけど。


「いっそ素手で採った方が良いのかなあ」


「そうね。今のゼフなら、スライムからどれだけ攻撃を受けても、1ダメージ程度でしょうから」


 クロリスも同意見のようだ。トンブクトゥを見ても頷いているので、それが良策であるらしい。でもなあ、相手は粘液だから、ネチネチしているんだよなあ。それでもやらなければ。


 僕は気を取り直して、すぐ近くでネチネチ動くスライムに触れる。外縁部は弾力のある風船のような感触だ。何と言うか、ちょっと押すだけで今にも壊れてしまいそうな危うさがある。


「いきます!」


 意を決して、スライムの内部に手を突っ込むと、ばちゃんとその衝撃だけでスライムは壊れ、粘液はどこかへ消失し、残ったのは砕けたスライム核片だけであった。


「これでも駄目かあ」


 スライムって、こんなに簡単に壊れるものだったのか。って言うか、こんな弱いモンスターに、僕は何十何百と死に戻りさせられてきたのか。そりゃあ他の冒険者たちに笑われるのも無理はない。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 その後、素早く手刀を突き入れてみたり、採取用のスコップをそうっとスライムに突き刺したりしてみたが、やはりスライムは形を壊してしまい、スライム核片以外、入手出来なかった。


「アプローチを変える必要があると思います」


 何十と言うスライムを倒して、出た結論がそれであった。


「スライム核やスライム粘液が、レアドロップと呼ばれる理由が分かったわね」


「そもそも『レアドロップ』の段階で、狙って出すのではなく、偶然ドロップするものですから。それを狙って確実に入手する。と言うのが無謀だったのでは?」


「何十体と倒していけば、偶然ドロップするかも知れないと?」


 トンブクトゥの意見に答えれば、トンブクトゥだけでなく、クロリスまでが首肯を返してくる。


「それって効率悪過ぎません?」


「『スポットライト』があるのだから、遭遇率は他の冒険者より高いはずよ?」


「そうですね。現状でも『スポットライト』の影響か、多くのスライムが寄ってきている印象を受けます」


 クロリスとトンブクトゥはそんな事を口にする。確かに、以前であればハイドアンドシークで、スライムから身を隠しながら、複数のスライムとの遭遇を避け、1体のみを狙って闘っていたけれど、今日は隠れたりしないせいか、複数のスライムと遭遇する。ここにも『スポットライト』の影響が出ているのかも? 今もネチネチとスライムが1体、僕の方へとやって来ている。それを持ち上げる。


「う〜ん、スライムの体内に攻撃を与えなければ、爆散したり形が溶けたりする事はないんですよねえ」


 ぐにぐにとスライムを両手で握るように押したり、逆に引っ張ったりしても、スライムは爆ぜる事がない。やはり体内への攻撃が、スライム核への攻撃と認定されるのか。いや、ヒーラーや生産職みたいな攻撃力のない職業の場合、武器で叩いたりして倒しているはずだから、一定以上のダメージだと壊れる感じか。その一定がどれくらいの力加減なのかが問題……、


「んん?」


「どうかしたの?」


 スライムを触っていた僕が、変な声を上げたからか、クロリスが首を傾げながら尋ねてきた。


「いや、スライムをぐにぐにしていたら、なんか、スライムの核の位置が移動した気がして……」


 と僕がスライムから1度手を離すと、やはりスライムの核の位置がズレていたのか、ゆっくりと球体の中心に戻っていく。これってもしかして。


 僕は再度スライムをぐにぐにする。今度は明確に核の位置をズラすようにだ。そうやってズラされていく核は、1分と経たずにスライムの外縁部に到達し、そこから更にぐにっとスライム核を押し出すように力を少し込めれば、にゅっとスライム核がスライムから飛び出した。


「えっ?」


「はっ?」


『??』


 皆が呆けながら事態を見守る中、僕が綺麗に取り出されたスライム核と、手に残ったスライム粘液を掲げて見遣ると、クロリスの『自動回収』で直ぐ様消えてしまった。でも、


「これならいけるな」


 スライム核を確実に取り出すのは、意外と容易な方法であったらしい。


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