大丈夫だ、問題ない
「…………」
「? どうかしましたか?」
南西門小門前まで来て、トンブクトゥが立ち止まる。しげしげと僕の姿を上から下まで見ているので、何か言いたい事があるのだろう。
「ゼフュロスさん、そんな装備で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
返答すると更に困った顔になるトンブクトゥ。
「その返答、誰に教わったんですか?」
「誰でしたっけねえ、いつだか、興味本位で僕とパーティを組んだ冒険者たちの1人が、こんな時はそうやって返すんだ。って言っていました」
僕の答えにトンブクトゥは眉間を押さえる。
「あー、いえ、その返答は、問題ない(問題ある)なので、しない方が良いですよ?」
「へえ、そうだったんですね。もしかして、また僕、プレイヤーに揶揄われたんですかね?」
これに微妙な顔で頷くトンブクトゥ。まあ、言われてみれば、初期装備の布の服で、あのウェザースライム亜種(仮)からの、テリトリーによる継続ダメージに対して、ほぼ無防備であるのは分かる。
「ゼフュロスさん、そんな装備で良く『怨霊蠱毒の壺』を攻略出来ましたよね? 攻撃を全て躱しでもしないと、攻略なんて絶対無理ですよ? 掠っただけで死ぬはずです」
ああ、まあそう言う反応になるのは分かる。
「これは、『怨霊蠱毒』から帰ってきてから分かったんですけど、クロリスとグレイのふたりって、僕のパーティ枠じゃなく、装備枠に存在しているんですよねえ。『怨霊蠱毒』を攻略出来たのも、クロリスが装備枠で防御力を上げてくれていたお陰だと思います」
「えっ!?」
この答えに驚いたトンブクトゥは、すぐに何やらスキルを発動させて僕を調べる。
「…………本当だ。グレイさんが武器1に、クロリスさんはアクセサリー1に登録されている。モンスターはパーティ枠に登録されるはずなのに、何で?」
何で? と言われても、僕にも分からない。両者とも、武器の形状をしていたり、小さかったりするからだろうか?
「よしんば剣であるグレイさんが武器として登録されるのは分かるけれど、フェアリーであるクロリスさんがパーティ枠じゃなく、アクセサリーに登録される理由が分からない。………!?」
独り言をぶつぶつ口にしていたトンブクトゥは、色々調べて、更に驚愕の顔となる。
「どうかしましたか?」
「ゼフュロスさんとグレイさんも、クロリスさんの装備枠に登録されています。しかも、将軍1と兵隊1と言う知らない欄に」
「僕も!? どう言う事!?」
しかも将軍1って!? 訳が分からず、クロリスに視線を向ける。
「どうもこうもないわ。キングやクイーンと名の付くモンスターは、『眷属装備』と言う眷属のモンスターを自身の一部として扱う事が可能なのよ。フェアリークイーンだと眷属に出来るのは、フェアリー系だけだけれど、フェアリーエンプレスになると、その枷が外れて、様々なモンスター、そして人間も眷属として扱えるの。ゼフとグレイが私の装備枠になっているのも、それが理由ね。ゼフの装備枠に私の名前があるのも同じ理由。装備枠を少し潰す事で、ゼフに加護とスキルを与えているのよ」
「加護とスキル? ……あ! 『春風』!」
僕の推測は当たりだったらしく、口から出た僕の答えに、クロリスが首肯する。加護とスキルか。加護で防御力を上げて、スキルで様々な技能を付与している感じかな?
「もしかして、クロリスの名付けって……」
「ええ。それが眷属とするのに必要な手続きなのよ。人間はともかく、モンスターは人間の仲間になった事があるか、二つ名付きでもなければ、名前なんて付いていないもの」
何と! ここでクロリスの名付けの理由が分かるとは! と言うよりも、僕、今まで良く訳も分からずクロリスの名付けを受け入れて、この状態を享受していたな。
「ぐぬぬ。何故某がクロリス殿の兵隊なのであるか? 主殿と同じく、将軍で良かろう?」
「そうなのよ」
グレイとしてはそこが気に入らないらしい。まあ、分からんでもないけど。
「あなたは基本的に私じゃなく、ゼフが使うでしょう? 私が直接使うのではなければ、兵隊にして、将軍に貸し与えた方が有用なの。将軍同士にしてしまうと、グレイをゼフの装備枠に含められないから」
『ならば良し(なのよ)』
モンスターとしてより、武器として扱われる事の方が重大事なんだ。流石は剣の形をしているだけある。
「でも確かに、私の加護があっても、全方位から襲われるこの状況を鑑みると、防具を用意するのは悪くない案ね」
クロリスとしても、そう言う結論なのか。
「じゃあ一旦…………、どうしよう?」
「武器屋で防具を揃えるのが一般的ですね」
「武器屋……!」
何をすれば良いのか分からず、首を傾げる僕に、トンブクトゥがアドバイスをしてくれた。それにしても武器屋か。とうとう僕も武器屋デビューする程の冒険者になったんだなあ。いや、総合レベル130なんだから、これまで防具を身に着けていなかった方が変だったんだけど、まあ、それは置いておいて、
「良し! 武器屋に行こう!」
僕はルンルンでスキップしながら、南西門から東地区へと防具を求めて踵を返すのだった。それが落とし穴だとも知らずに。




