同行者
「モンスターが同行、ですか?」
頭に疑問符を浮かべるトンブクトゥに頷き返す。
「はい。僕は…………、僕の記憶が確かなら、最初の記憶はエイトヴィレッジ南南西地区の教会から始まります。シャムール様の像に、祈りを捧げる僕に、ウィンザードたちが話し掛けてきたのが、恐らく1番古い記憶でしょう」
ストレンジャーのあれこれを知っている三者は、口を挟む事なく僕の話に耳を澄ます。
「初めはお試しで一緒にダンジョンに潜ってくれたウィンザードたちでしたが、それも最初の1回切りで、その後彼らはツアーでレベルを上げて、さっさと村を出ていきました」
「彼らは微課金勢ですからね」
トンブクトゥの言に首肯を返す。微課金勢はちょっと良く分からないけど。あの頃は、教会に隣接する孤児院で、いつまでもウィンザードたちを待ち続けていたっけ。
「待ち惚けてもウィンザードたちが現れない事を不思議に思い、村の冒険者ギルドに尋ねて行くと、そこでもう村を発ったと知り、僕は慌てふためき、その日のうちに村を飛び出し、すぐに死に戻りました」
恥ずかしかったなあ。ウィンザードたちの話を聞いて、直ぐ様村を飛び出して、ものの1分で兎型のモンスター、アタックラビの突進で死んで、帰還の魔法陣で冒険者ギルドに戻ってきた僕を、ギルマスたちが不思議そうに見ていたっけ。
「馬鹿だった僕は、10回程死に戻り、そこで漸く僕1人の力では、村から外に出ていく事が叶わないと理解しました」
「それで、モンスターを仲間に? しかし失礼ながら、ゼフュロスさんのログを洗いましたが、クロリスさんの前に、仲間になったモンスターはいないはずです。それにヴィレッジ周辺のモンスターは、DEXが低く、レベル1のゼフュロスさんに、仲間に出来るとは思えませんが?」
トンブクトゥの展開する意見に首肯する。
「そうですね。それ以前に、冒険者ギルドの斡旋で、1度だけプレイヤーと思われるパーティに同行して貰ったのですが、そこでも迷惑を掛けてしまったので、以後、僕はパーティを組むのを嫌い、1人で行動していました」
「んん? どう言う事です?」
「つまり同行して貰ったモンスターは、僕とパーティを組んでいないんです。だからログに残っていないのかも知れません」
「成程。ゼフの『お荷物』は、パーティを組まなければ、発動するものじゃないものね。実際にはモンスターとパーティを組んでも『お荷物』は発動しないけれど、当時のゼフにそれが分かる訳ないか」
「そう言う事」
とクロリスの言葉に頷く。当時は、と言うか、クロリスと出会っていなければ、未だに僕は『お荷物』の真実に気付いていなかっただろう。
「それで? どんなモンスターに同行して貰っていたの?」
「スライムだよ」
「…………」
『…………』
「…………」
僕の発言に、何とも返答し難いと、三者が黙り込む。
「ヴィレッジの周辺にいるモンスターなんて、スライム以外だと、アタックラビと言う兎型にツリードウェラーと言うリス型、ラークラークと言う小鳥型、ワイルドハウンドと言う猟犬型だね。その中で1番弱いのが無印のスライムだけど、それでも僕よりは強かった」
「…………そうね」
三者して苦笑いはやめて欲しい。
「そのスライムと遭ったのが、いったい何回目の村外への出立だったのか記憶にないけれど、大蛇古道は見晴らしが良過ぎて、隠れる場所がなく、僕のレベルではただの標的にしかならないと学んで、膝丈の草に覆われ、疎らに木々が生える草原地帯を、草木に隠れながら進んでいたから、それなりに時間が経過していたと思う。そこで出遭ったのが、ラークラークに襲われていた、件のスライムだった」
覚えている。透明に近い薄青色のそのスライムは、ラークラークに弄ばれるように、ダメージにならない程度に突かれていた。
「死にかけていたそのスライムに、自分の姿を重ねた僕は、思わずそのスライムを助ける為に、草陰からラークラーク目掛けて小石を投げ付けた。それが偶然当たり、ラークラークが少し怯んだのをチャンスと捉えたそのスライムが、ラークラークに攻撃し、これに腹を立てたラークラークが反撃するのを、僕が小石を投げて邪魔をする。その繰り返しが何度か続き、ラークラークは光の塵となり、そのスライムは勝利したんだ」
そしてそのスライムは進化した。無印のスライムは、最弱故に進化が早い。それこそ1回の戦闘に勝利しただけで、カラースライムと言われる様々な色のスライムに進化する。カラースライムは色の数だけ存在すると言われている為、その詳しい説明は省くが、大体が草を消化してグリーンスライムになるか、泥地でブラウンスライムになるか、基本的には土地依存でカラーが変わる。これはスライムが周辺のスライムを倒して進化するのが普通だからだ。
「ラークラークに勝利したスライムが進化したのは、スカイブルースライムでした」
「スカイブルースライム……!」
勘の良いトンブクトゥは、これを聞いただけで、そのスライムの進化先が想像出来たようだ。
「そうです。後で調べて分かった事ですが、スカイブルースライムに進化するのはかなり珍しい事です。何せ進化条件が、空から攻撃してくるモンスターを倒す事。ですからね。たまたま僕の援護でそれに成功したそのスカイブルースライムは、その後僕と同行するような形で立ち回り始めました。僕としても、警護してくれるものがいてくれるのはありがたかったので、そのまま僕たちは行動をともにして、そしてそのスカイブルースライムは、次のエイトタウン南西地区に辿り着く頃には、エアスライムへと進化していました」
「エアスライム?」
聞き馴染みがないスライム名を出されて、クロリスが首を傾げる。まあ、本当に珍しいから、クロリスも出遭った事も聞いた事もなかったのだろう。
「普通、スライムは粘体だけれど、エアスライムは、その名が示す通り、エア、核の周囲を気体で覆うようにその身を構成するスライムだよ」
「気体で?」
「そう。気体故にその身体の大きさをある程度自由に変化させられて、その身体の外縁、テリトリーとも呼ばれるその領域内に侵入した生物に、ダメージを与えながら捕食するスライムなんだ」
「つまり、空気自体を攻撃手段にするスライムって事?」
「そう言う事」
これにはまた三者が黙り込む。今回、門外で受けた攻撃が、どのようなものであったか、理解出来たからだろう。僕の『見切り』で周囲全面から受けていた攻撃。その攻撃手段は、空気自体を攻撃手段と出来るエアスライムの特徴に一致する。




