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0と1の世界でブラックシープ共は夢に溺れる  作者: 西順
第一章 異分子の台頭

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NPCは夢を見るのか

 友達と陽光煌めく大回廊を歩いている。その足取りは意気揚々としていて、これからの大冒険に胸躍らせ、成功を夢見て、未舗装の大蛇古道を歩いていく。


 これは夢だ。しかしこの夢が僕の記憶を元に作られている事が分かる。僕の始まり。最初に近い記憶。ウィンザードたちに見捨てられ、それでもウィンザードたちと冒険者をするのが諦められず、大回廊を通って、エイトシティまでやって来た、僕と友達の大冒険の記憶。僕の大事な大事な思い出。


 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕


 耳に入ってくる会話で目が覚める。とは言え、まだ脳は微睡みに沈んでおり、目を開けるには至らない。


「あの現象は、やはりゼフュロスさんが関係していると思います」


「そうね。でも関係しているとして、あの大暴れの中では、私やグレイはともかく、ゼフが発生源まで辿り着けるとは思えないわ」


「それは……、そうですね。まさか自然災害に発展するとは、こちらも思いませんでした」


「ゼフが門内に入ってから、竜巻、雷、大雨と、まるで世界の終わりを体現しているかのように門外は荒ぶっている。あれでは他の冒険者パーティも、発生源まで辿り着けないでしょうね」


 クロリスとトンブクトゥが、南地区封鎖の原因が発生させたと思える天災に、頭を悩ませているのが、声からだけでも分かる。そしてどうやら気絶する前に見たあの光景は、僕が気絶した後も、未だ続いているようだ。


「…………おはよう」


 ゆっくりと目を開き、辺りを確認するも、知らない天井だ。


「起きた? 身体は大丈夫? おかしなところやおかしな感覚とかない?」


 僕が起き上がると、クロリスが心配そうに僕の周りを回る。グレイが腰を締め付けるので、グレイも同じ感情なのだろう。


「ああ、頭はスッキリしているよ。身体も……」


 どうやらベッドに寝かされていたらしい僕は、首を回し、肩を回し、ベッドから下りると、屈伸したりと身体の感覚を確認し、


「大丈夫みたい」


「そう」


『それは良かった(のよ)』


 ふたりの心配に頷き返しながら、トンブクトゥの方へ視線を向ける。


「えっと、ここってどこですか?」


「門番の詰所です」


 ああ、門前で気絶して、そのまま詰所に運ばれたのか。


「どれくらい寝ていたんです?」


「2時間くらいでしょうか」


 2時間か。


「HPが全快しているのは?」


「私が回復させたのよ」


 クロリスが胸を張る。これに「ありがとう」感謝を伝えつつ、


「毒の状態異常も?」


 とクロリスに尋ねれば、


「毒にはなっていなかったわ」


 との答えが返ってきた。


 毒になっていない? 他の冒険者パーティは、今回の異常事態は大回廊のどこかで毒が発生していたから。と考えていたようだけど、その線は薄くなったって事か? それとも、体内に摂取すると、ダメージを与えるけれど、すぐに分解される特殊な毒で、それを継続的に摂取していたとか? う〜ん、分からん。分からんので、他の質問をする。


「さっき、外が荒天になっているって聞こえたんだけど?」


「ええ。大雨に雷、竜巻と、門外で活動するには厳しい自然環境となっています。理由は分かりませんが、情報をまとめると、あの時間帯、ワタクシたち以外のパーティが門外に出ておらず、そして門内に引っ込んで直ぐに天気が荒れ出した事から、やはりゼフュロスさんが関係しているのではないか? と言うのがワタクシの推測です」


 まあ、僕でも第三者視点で見れば、そうなんじゃないか? と可能性の1つと考える。けど、


「それってどのくらいの割合ですか? 前回と今回、僕たちは4者で一斉に外に出ました。となると、僕だけが切っ掛けではなく、僕、クロリス、グレイ、そしてトンブクトゥ。4者全員に可能性がある。と考えるのが普通なのでは? それとも、【世界観察者】は、この世界(シャムランド)でどのような行動をしても、全く世界に影響を及ぼさないと?」


 僕の言い方は意地悪だったけれど、トンブクトゥもこの言い分には閉口するしかなかった。


 とは言え、ここへ来たばかりのトンブクトゥ、それと『怨霊蠱毒の壺』に籠もっていたグレイの可能性は低いと思う。クロリスにしても……、いや、クロリスはどこで何を仕出かしているか分からないから、今回の件に関わっている可能性がない訳ではないか。


「クロリスは何か心当たりないの?」


「ないわよ! 幾らどの地方にも行けるからって、エイト地方に来たのだって初めてなのよ!?」


 じゃあ、ないか。となるとやっぱり可能性が高いのは僕となる。不承不承納得するしかないか。


 僕が『原因』と関係あるとして、『原因』は何なのか。自然現象なのか、それとも別の何かなのか。自然現象が僕が行動して、僕に牙を剥く? あり得ない……、か? レベルや職業、称号によって、自然現象に影響が出る可能性がないとも限らないのでは? 想像が飛躍し過ぎかな?


 普通に考えれば、モンスターの可能性が高い。しかし、ほぼシティから出ていない僕が、『原因』となる可能性のあるモンスターから、攻撃を受けるってどう言う……、


「あ!」


 僕の脳裏に先程の夢がフラッシュバックし、思わず声が漏れてしまった。


「どうしたの?」


 声を上げてから黙り込んだ僕に、クロリスが顔を覗き込みながら尋ねてくる。トンブクトゥも、何か分かったんですか? とその顔に書いてある。ここで「何でもない」と口にするのは憚られた。


「いえ、先程気絶していた時に見ていた夢の事を思い出しただけです」


「夢!? 夢を見たんですか!?」


 トンブクトゥが、僕が夢を見た事自体に驚いている。


「いや、夢ぐらい誰だって見るでしょう?」


「いや、それは………、そうですね。すみません」


 何やら引っ掛かりがあるが、今はそれを追求している場合でもない。


「その夢は、僕がこの街に辿り着くまでの思い出でした」


「えっ!?」


 うん、トンブクトゥのリアクションがいちいち五月蝿いから静かにして欲しいと思いながら、僕は話を続ける。


「その時に僕に同行してくれた友達がいたのですが、もしかしたら、その友達が原因かも……」


「友達が? 今回の件、あの自然災害が人為的に起こされたとでも言うの?」


 僕の話に懐疑的なクロリスだけど、聞き返すクロリスに僕は首を横に振るう。


「同行してくれた友達は、モンスターなんだ」


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